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132億光年先まで測定可能? ガンマ線バーストが遠方宇宙の距離測定に利用できる可能性

sorae.jp / 2022年8月6日 21時6分

【▲ 今回の研究のイメージ。ガンマ線バーストを利用して宇宙の膨張を測定する様子が描かれている(Credit: 国立天文台)】

【▲ 今回の研究のイメージ。ガンマ線バーストを利用して宇宙の膨張を測定する様子が描かれている(Credit: 国立天文台)】

国立天文台のマリア・ダイノッティ(Maria Dainotti)助教を筆頭とする研究チームは、遠方宇宙までの距離を測定する新たな手法についての研究成果を発表しました。研究チームが着目したのは、短い時間でガンマ線が爆発的に放出される現象「ガンマ線バースト」(GRB:gamma-ray burst)です。

■ガンマ線バーストの一部が標準光源として利用できる可能性を示した

地球からある天体までの距離を測定する場合、たとえば太陽系内の惑星・小惑星であればレーダー観測や天体力学を使って割り出すことができます。比較的近い恒星までの距離は「年周視差」(地球が太陽を公転しているために生じる、天球上の天体の位置が1年周期で変化するように見える現象)を利用して求めることが可能です。

いっぽう、銀河のようにより遠い天体までの距離を測定する場合は「標準光源」が使われています。標準光源とは、天体の明るさが距離の2乗に反比例することを利用して、真の明るさ(絶対光度)と観測された見かけの明るさをもとに地球からの距離を割り出せる天体のこと。真の明るさが明るいほど変光周期が長いとされる「セファイド(ケフェイド)変光星」や、超新星爆発の一種で真の明るさがほぼ一定とされる「Ia型超新星」が標準光源として用いられています。

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した棒渦巻銀河「NGC 2525」。中心から8時の方向、画像の左端ではIa型超新星「SN 2018gv」が輝いている(Credit: ESA/Hubble & NASA, A. Riess and the SH0ES team)】

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した棒渦巻銀河「NGC 2525」。中心から8時の方向、画像の左端ではIa型超新星「SN 2018gv」が輝いている(Credit: ESA/Hubble & NASA, A. Riess and the SH0ES team)】

また、非常に遠くにある天体までの距離を測定する場合は、膨張する宇宙で長い距離を進むほど光の波長が長く伸びる現象である「(宇宙論的な)赤方偏移」が利用されています。こうした様々な手法を幾つもつなげて遠くの宇宙までの距離を測定する様子は、幾つもの梯子(はしご)をつなげて高みを目指す様子にたとえて「宇宙の距離梯子(はしご)」と呼ばれています。

ダイノッティさんたちが着目したガンマ線バーストは、太陽が100億年の一生をかけて放出するのと同程度のエネルギーが、わずか数秒以内に放出されるという激しい現象です。国立天文台によると、超新星爆発で測定できる距離は110億光年までですが、宇宙で最も明るい天体現象とされるガンマ線バーストを標準光源として利用できれば、132億光年という遠方宇宙までの距離を測定できる可能性があるといいます。

【▲ ガンマ線バーストの可視光線での光度曲線の一例。プラトーの期間では残光の明るさがほぼ一定になっている(Credit: Maria Dainotti et al.)】

【▲ ガンマ線バーストの可視光線での光度曲線の一例。プラトーの期間では残光の明るさがほぼ一定になっている(Credit: Maria Dainotti et al.)】

研究チームは、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」などで観測された500個のガンマ線バーストについて、発生から数日間続く残光の観測データを解析。残光の可視光線での光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の明るさを示した曲線)にあらわれる特徴を調べたところ、500個のうち179個のガンマ線バーストが、残光の明るさがほぼ一定で推移する「プラトー」と呼ばれる期間を持っていたことがわかりました。

これらのガンマ線バーストについて「ガンマ線バーストのピーク時の明るさ」「プラトーの継続時間」「プラトーが終了した時の明るさ」の関係を研究チームが分析した結果、ガンマ線バーストの真の明るさを求めることが可能であり、標準光源となることが示されたといいます。

【▲ 「ガンマ線バーストのピーク時の明るさ」「プラトーの継続時間」「プラトーが終了した時の明るさ」の関係を示した図。3つの値を3軸に取った時、プラトーを持つ179個のガンマ線バーストがある平面上に分布することが示されている。この3軸の相関関係を利用することで、ガンマ線バーストの真の明るさを求めることができるという(Credit: Maria Dainotti et al.)】

【▲ 「ガンマ線バーストのピーク時の明るさ」「プラトーの継続時間」「プラトーが終了した時の明るさ」の関係を示した図。3つの値を3軸に取った時、プラトーを持つ179個のガンマ線バーストがある平面上に分布することが示されている。この3軸の相関関係を利用することで、ガンマ線バーストの真の明るさを求めることができるという(Credit: Maria Dainotti et al.)】

国立天文台によると、ダイノッティさんたちは2016年にX線の観測でも同様の法則を発見していましたが、可視光線の観測で得られた今回の関係も合わせることで、より正確な距離の測定が可能になるといいます。

また、今回得られた可視光線とX線のデータ双方を解析した結果、プラトーを持つ179個のガンマ線バーストが「マグネター」に由来する可能性が高いと研究チームは結論付けました。マグネターは高速で自転するる中性子星の一種で、典型的な中性子星と比べて最大1000倍も強力な磁場を持つとされています。

ダイノッティさんは今回の成果について「将来的には、高い精度で宇宙論パラメータ(※)を求められる、宇宙論的な標準光源として利用できると考えられます」と語っています。

※…誕生から現在に至る宇宙のふるまいを物理法則に従って記述する「宇宙モデル」の性質を決める、基本的な物理パラメータのこと。宇宙の全エネルギーに対して暗黒物質(ダークマター)などが占める割合や、宇宙の膨張速度などがある

 

〈記事中の距離は、天体を発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています〉

関連:キロノバと同時発生するガンマ線バーストが宇宙の距離測定に利用できるかもしれない

Source

Image Credit: 国立天文台, Maria Dainotti et al. 国立天文台ハワイ観測所 - ガンマ線バーストの残り火を使って宇宙を測る Dainotti et al. - The Optical Two- and Three-dimensional Fundamental Plane Correlations for Nearly 180 Gamma-Ray Burst Afterglows with Swift/UVOT, RATIR, and the Subaru Telescope

文/松村武宏

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