「かわいそうだから」と憐れみ救いの手を差し伸べることは傲慢なのか/川野芽生・著『Blue』書評
日刊SPA! / 2024年2月6日 8時50分
川野芽生・著『Blue』(集英社)
世の中には読んだほうがいい本がたくさんある。もちろん読まなくていい本だってたくさんある。でもその数の多さに選びきれず、もしくは目に留めず、心の糧を取りこぼしてしまうのはあまりにもったいない。そこで当欄では、書店で働く現場の人々が今おすすめの新刊を毎週紹介する。本を読まなくても死にはしない。でも本を読んで生きるのは悪くない。ここが人と本との出会いの場になりますように。
それが「憐れみ」によるものだということを否定できる者はいるのだろうか。困っている者がいるから助ける、その行為の奥底にある感情。いや、そもそもそれが憐れみゆえのものであることを自覚できないのではないか。では私たちはどうすればいいのだろうか。憐れみをもとにしない救済を、あるいは共闘を、いかにして生み出していくのか。
川野芽生・著『Blue』はそのヒントを与えてくれる物語だ。まず、簡潔に物語のあらすじを紹介しておこう。トランスジェンダー女性である主人公・真砂(まさご)は、高校3年間のうちに自分の輪郭を手に入れたように思える。真砂としての自らのあり方を受け入れてくれる友との出会いはもちろん、演劇と出会い、『人魚姫』の物語をクィア的に翻案した脚本において人魚姫を演じた経験も、真砂の未来に希望を抱かせる。しかし卒業から3年後、真砂は再度名を変え、眞靑(まさお)として過ごしている。そうなった理由は、大学生になって出会った葉月という女性を救いたいという想いが大きなものとなっている(加えてトランスジェンダーに対する攻撃による疲弊や諦めもまた同様に、いやそれ以上に彼女の「再移行」の要因となっているかもしれないことは忘れてはならない)。そんななか、高校の演劇部で演じた『姫と人魚姫』を再演する話が持ち上がり、久しぶりに旧友たちと会うことになるが、女性として生きるのをやめてしまった眞靑は、舞台に上がることを拒否する。
「憐れみ」の感情は一般的に、救われるべき対象として認識される存在=弱者に向けられることが多い。つまり他者(および社会)から真砂/眞靑に向けられるそれであるが、この物語においては、真砂/眞靑が他者に向ける憐れみにより強く意識を置いている。真砂/眞靑が憐れみの感情=自己犠牲で他者を救おうとすること、つまりそうすることで自身を救おうとしないようになることを、物語は要請するのだ。
葉月を救いたいという真砂/眞靑の想いの本質である憐れみは、傲慢さでもある。それは通常、マイノリティがマジョリティから向けられるものであるのだが、マイノリティ当事者である真砂/眞靑ですらその呪縛のようなものからは逃れられていない。そのうえ、その憐れみによる自己犠牲が自身の輪郭を再度失わせることになる。憐れみと自己犠牲の複雑な関係性と、そこから逃れることの難しさ/不可能性を描いているのかもしれない。
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