「これじゃあ高校野球じゃねえかよ!」選手たちからの猛反発を受けながらも、広岡達朗が“管理野球”を貫いた理由
日刊SPA! / 2024年3月9日 15時52分
東尾修、田淵幸一、山崎裕之、大田卓司、片平晋作、黒田正宏といった西武のベテランたちは「食いたいものも食えないのかよ!」と嘆き、激昂した。しかし、広岡は頑として規制を緩めることをしなかった。だからと言って素直に従う輩たちではない。
「これじゃあ高校野球じゃねえかよ!」
選手たちが管を巻きながら内緒で飲み食いをする。
当時の広岡は、インタビューで雄弁に語っている。
「肉を食うな、酒を一滴も飲むなとは言ってません。全般的に野球選手は肉を食べ過ぎている。酒も適量なら健康に良いが、バカみたいに飲む選手が多い。だから体力の消耗が激しいキャンプ中は酒を禁じ、肉を控えめにした食事を摂らせているだけ。別に四六時中監視しているわけじゃないから、どこかで飲むでしょう。しかし、チームとして禁じておけば少しは歯止めになるだろうと思ってやっています」
マスコミはここぞとばかり面白おかしく報道した。肉を制限する理由として「日本人は腸が長いから腸に残って腐敗する」などと広岡が言ってもいないことを勝手に書き立て、日本ハムから激怒されたこともあった。さすがに広岡も呆れ果てた。実際、西武の食事改善が球界内外で話題となったことで、ほかの11球団が玄米食の推奨の意図や成果を聞きに視察に来たことを一切報じようとしなかった。広岡が、面白ければ何でもありという報道のあり方に甚だ疑問を持ったのもこの頃だ。
「選手が『監督だけ酒を飲みやがる』と言ったことがあったけど、アメリカに行ったときに不思議に思ったことがあった。指導者は練習後に冷えたビールを飲むけど、選手用の冷蔵庫には清涼飲料水しか入ってない。どういうことだと聞いたら、アメリカ人に笑われた。アメリカでは教えることを教えたら指導者はビールでもなんでも飲んでいい。しかし、選手は常にベストコンディションを保たなければいけないので、アルコールは与えられないと。理に適っていると思った」
広岡は得意満面で言う。確かにその通りだ。アメリカは常に合理的でシステマティックに動いている。しかし、ここは日本だ。皆で目標に向かって一致団結して行動をともにすることを美徳とする精神がある。指導者だろうと選手だろうと同じ規律のもとで戦おうという軍国主義的な考えが八〇年代はまだ根強く残っており、自分たちだけ我慢を強いられ、指導者だけ好き勝手なことをするのは許さないという認識が蔓延っていた。広岡のようなアメリカナイズされた考えた方は受け入れられず、かなりのバッシングを浴びた。
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