厚生年金、みんなの「年金月額」と「変わること」
LIMO / 2020年9月4日 18時45分
厚生年金、みんなの「年金月額」と「変わること」
老後の生活を考えるとき、はじめに頭に浮かぶのは「年金だけで暮らしていけるのか」ということではないでしょうか。老後への不安から、定年後もできるだけ長く働きたいと考える人が増えています。
老後に不安を感じる人は8割超
公益財団法人・生命保険文化センターが2019年に実施した調査(https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/oldage/5.html)によると、老後の生活に不安感を持つ人は全体の84.4%と8割を上回っています。その具体的な理由でもっとも多かったのは、82.8%を占めた「公的年金だけでは不十分」というものでした。
働くシニアが増えている
60歳以上で就業している人の割合は10年ほど前から増加傾向にあります。ここでは、総務省統計局の「労働力調査」(https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index.pdf)(2019年)から、就業者数と就業率をご紹介します(表参照)。
※就業率とは15歳以上人口に占める就業者の割合です。
就業率(%)=就業者÷15歳以上人口×100
もっとも就業率が高いのは60~64歳の男性で、8割を超えています。男女とも65歳以上になると就業率が大幅に下がっていることがわかります。
一方、内閣府の調査(https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h26/sougou/zentai/index.html)によると「働けるうちはいつまでも働きたい」とした人の割合が42%に上ります。「64歳まで働く」と決めているわけではなく、働き続けられない労働環境などがあるのかもしれません(表参照)。
法改正で老後も働きやすくなる?
働くシニアが年金と給与を同時にもらうと、年金が一部支給停止になる場合があります。この制度を在職老齢年金制度といいます。厚生年金保険に加入していない自営業や個人事業主などは制度の対象外です。
この仕組みは高齢者の働く意欲を減退させていると問題視されてきましたが、2022年4月から制度が改正されてシニアがより働きやすくなります。在職老齢年金制度は大変難しい制度ですので、細かい部分はさておき概要を説明します。私たちが気にしなくてはならないポイントは以下の2つです。
1)総報酬月額相当額・・・(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の1/12)
2)老齢厚生年金の「基本月額」
標準報酬月額とは、厚生年金の保険料や年金額などを決めるために月給やボーナスなどの金額をもとに毎年1回算出される数字で、ねんきん定期便で確認できます。
これまでは、1)と2)の合計額をすべて受け取れるボーダーライン(基準額)が下記のように決められていました。この基準額を超えると状況に応じて年金の一部または全額が支給停止となります。
・60~64歳・・・1)と2)の合計が28万円
・65歳以上・・・1)と2)の合計が47万円
2022年4月以降は、60~64歳の基準額が28万円から47万円に引き上げられ、65歳以上の人と同じ基準額になります。
さらに、年金の受給開始時期についても改正されます。現行制度では、60~70歳の間で自由に受給開始時期を決められますが、今回の改正で受給開始時期の上限を70歳から75歳に引き上げる(2022年4月施行)というものです。
65歳より早く受給開始した場合(繰上げ受給)、年金月額は最大30%減額。65歳より後に受給開始(繰下げ受給)した場合は、増額率は1月あたりプラス0.7%(最大プラス84%)となります。
対象者は、2020年4月1日以降に70歳に到達する方(1952年4月2日以降に生まれた方)です。なお注意点として、現在65歳からとなっている年金支給開始年齢の引き上げは行わないとしています。
また、「短時間労働者を被用者保険の適用対象とすべき事業所の企業規模要件(現行、従業員数500人超)を段階的に引き下げ、2022年10月に100人超規模、2024年10月に50人超規模」となります。ただ、
賃金要件(月額8.8万円以上)
労働時間要件(週労働時間20時間以上)
学生除外要件
については今まで通りです。勤務期間要件(現行、1年以上)については、フルタイム被保険者と同じ2カ月超の要件となります。
(強制適用の対象となる5人以上の個人事業所の適用業種に、弁護士、税理士などの士業を追加)
厚生年金の保険料が上がる?
2020年9月から、所得が多い人が納める厚生年金保険料が増額されることをご存知でしょうか。将来もらえる年金は増えますが、現役時代の負担も重くなります。これは、厚生年金保険の標準報酬月額の上限等級が改定されることによるものです。
厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業年報」(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/nenpou/2008/dl/gaiyou_h30.pdf)(2018年)によると、標準報酬月額の第1級から第31級までに該当する人の分布(2018年時点)は下記のようになっています(表参照)。
男性では第31級(標準報酬月額62万円)に該当する人がもっとも多く、約240万人に達しています。一方、女性でもっとも多いのは第15級(標準報酬月額22万円)の約151万人です。
高い給与をもらっている人が増えたことにより、これまで31段階に区分されていた標準報酬月額に第32級(標準報酬月額65万円)が追加されることになりました。第32級に該当する人は、厚生年金の保険料と老齢厚生年金額が増えます。
厚生年金の平均受給額はいくら?
さいごに、厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(https://www.mhlw.go.jp/content/000578278.pdf)から、厚生年金の平均受給額を年齢別にみてみましょう(表参照)。
(※65歳未満の厚生年金保険(第1号)の受給権者は、特別支給の老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢の引上げによって、主に定額部分のない報酬比例部分のみとなっています。)
平均年金月額は65歳以上だと14万~16万円ほどとなっているようです。
長い老後に備えるために
「令和元年簡易生命表」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life19/dl/life19-02.pdf)(2019年)によると、男性の平均寿命は81.41年、女性は87.45年です。老後は長くなっていますが、働き方も多様化しています。自分にあった働き方を探していくことも、老後生活の準備の一つといえるかもしれませんね。
法改正により、2022年4月より在職老齢年金制度における基準額(60~64歳)が引き上げられたり、年金の受給開始時期も75歳までとなります。働きながら年金受給することや、年金受給の時期を遅くしてみたり…など働き方と年金受給の方法を様々な視点から検討していきたいですね。
参考
「老後の生活にどれくらい不安を感じている?」(https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/oldage/5.html)生命保険文化センター
「労働力調査(基本集計)2019年(令和元年)平均(速報)結果の概要(7ページ)」(https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index.pdf)総務省
「“標準報酬月額”、“標準賞与額”とは何ですか」(https://www.nenkin.go.jp/faq/n_net/kirokushokai/kounen/20120903.html)日本年金機構
「保険料と総報酬制について」(https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/20140714.html)日本年金機構
「厚生年金保険における標準報酬月額の上限の改定」(https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2020/202009/20200901.html)日本年金機構
「厚生年金保険・国民年金事業年報 平成30年 結果の概要(13ページ)」(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/nenpou/2008/dl/gaiyou_h30.pdf)厚生労働省
「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00006.html)厚生労働省
「平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000106808_1.html)厚生労働省
「令和元年簡易生命表」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life19/dl/life19-02.pdf)厚生労働省
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