医師会VS財務省「診療所の良好な経営」巡る対立 私たちの日々の暮らしにどう影響を及ぼすか
東洋経済オンライン / 2023年12月12日 7時30分
実は、これまでの診療報酬改定では、中央社会保険医療協議会(中医協)が実施していた「医療経済実態調査」を数字の根拠としていた。
これは、中医協が医療機関の協力の下で行われている調査であるうえ、「何年も前から”サンプル数が少なすぎて実態を表していない”と指摘されていた」(土居教授)という。
わが国には病院が約8000施設、診療所は10万5000施設ある(医療施設動態調査)が、医療経済実態調査の調査対象数と有効回答数は、それぞれ病院が2377施設(1139施設)、診療所が4250施設(2272施設)と極めて少ない。
これに対し、今回の財務省の機動的調査では、医療経済実態調査をはるかに凌ぐ約2万2000件という数の事業報告書等を調べ上げた。そこ記されている貸借対照表や損益計算書からは、事業収益や経費、利益などが把握できる。
その結果わかったのが、先に挙げた「2022年度の診療所の経営利益率は8.8%」という数字だ。年度ごとにみても中小病院との経常利益率の差は明らかだ。
診療報酬は最終的にはどのような決着を見せるのか。
現在、建議を踏まえて財務省と厚労省が議論を重ねている。それをもって、12月中旬に厚労省から診療報酬改定の数字が示される。ちなみに前回は0.43%、前々回は0.55%のプラス改定だった。
診療所のマイナス改定は本当に実現するのかというと、土居教授は「そう単純ではない」と話す。
「まず、診療報酬には出来高払い制があるので、極端な話をすると単価が下がっても受診回数を増やせば収入は減らない。報酬単価の引き下げが経常利益率の低下につながるかは不明なのです。何より財務省も診療所を潰したいわけではないので、最終的に改定がどう行われるかは現段階ではわかりません」
「これって財務省と日医の対立の話で、我々には関係ないのでは?」と思う人もいるかもしれないが、必ずしもそうとはいえない。なぜなら、我々が支払う健康保険料の行方にもかかわることだからだ。
保険料の金額と割合を見る必要
保険料の負担を考えるときに、見なければならないのは2つ。金額と割合だ。
賃上げによって所得が増えれば、負担の割合が変わらなくても支払う保険料は増える。逆に、所得はさほど変わらないのに保険料が上がるということは、すなわちそれだけ負担割合も増えるということだ。
「プラス改定になるということは、単純に考えて、国民が負担する保険料が増えるということ。ただそれが、賃上げ率に追いついているのかいないのかが、一番重要になる」と土居教授は言う。
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