大学の教養教育を「資本の論理」からどう守るか 加速する資本主義社会における「知識人の使命」
東洋経済オンライン / 2024年3月31日 11時0分
堀内:古代ギリシャのソクラテス以来、「良く生きる」ということは大きな哲学的命題のひとつとして存在していると思いますが、そのあたりはあまり関心事ではないということになりますか。
斎藤:そうですね。もちろん、良く生きることはとても大切なことですが、良く生きることを考える前に、そもそも私たちは良く生きることが不可能になっている社会に生きている、そのことのほうが問題だと考えます。
堀内:資本主義の話が出ましたので、そのテーマについてお聞きしたいのですが、私は最近「資本主義の全世界化」ということを強く感じています。つまり、資本主義の外側の世界がどんどん狭まっていて、すべてが資本主義という枠組みの中に取り込まれつつあると。かれこれ40年ほどビジネスの世界に身を置いている中で、加速度的に資本主義の領域が広がっていると感じています。
たとえば、財務省や中央銀行というのは、本来、経済原理の外にあって、マーケットで民間のプレーヤーが暴走してどうしようもなくなったときに、ラストリゾート(最後の救世主)として民間を助けるという存在でした。ところが、2008年に起こったリーマン・ショックのインパクトがあまりに大きすぎて、傍観者ではいられなくなってしまった。いまでは日銀が大量に国債や株式を保有していることに見られるように、財務省や中央銀行が主要なプレーヤーとして参戦しないとマーケットが機能しなくなっている。
これは、サッカーにたとえれば、審判がいきなりボールを蹴り出してしまった感じです。後ろを振り向くと、もうそこには審判はいなくて、審判であった人も含めて全員がプレーヤーになってしまい、全員が勝ち負けにこだわって必死に闘っている。つまり、中立的でメタな視点を持っている人がもはやいないという社会になり、資本主義がどんどん拡大しているのです。大航海時代の植民地経営に始まり、その領域は加速度的に広がっていて、今やイーロン・マスクのような人も出てきて、バーチャル空間から火星まで資本主義の対象が広がっているというイメージを持っています。
大学も「資本の論理」で動く時代
そのような中で、大学でさえも資本主義の論理の中に組み込まれてしまい、学者も学会で評価されて、東大というピラミッド社会の頂点に位置する大学の教授になるというのが最終的な目標になり、皆さんがそこに向かって頑張っているように感じます。今ではそれがハーバード大学やオックスフォード大学など海外の大学まで巻き込んで、国際的な競争社会になっているという感じでしょうか。そのような状況にあって、教養が大学の中で生き残れるのかをとても心配しているのですが、資本主義と大学との関係については、斎藤さんはどのようにお考えでしょうか。
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