「英語を自然に訳せない」悩む人に教えたいコツ1つ 翻訳家が教える「一流」と「二流」の決定的差
東洋経済オンライン / 2024年4月1日 19時0分
ただし、直訳調のわかりづらい英文和訳は、学校ではよくても、社会に出てビジネスの場となると使いものになりません。なぜなら、そうした文章は自然な日本語どころか、読んでも意味がわからないからです。
こう断言できるのは、私自身が社会に出て翻訳という仕事を長年やってきたからです。
私が英文を日本語の文章に翻訳するときに、自然な日本語にするためにいつも気をつけているのは、「自分が普段使わない言葉は使わない」ということです。いくら辞書に書いてあっても、知らない言葉は使わないようにしています。
こうした心構えひとつで、私たち人間の思考センスは磨かれていくのです。
きっと、皆さんにもあると思います。「この言葉は生まれてから一度も使ったことないな」という日本語が、です。
そのような言葉は翻訳のときに使ってはダメなのです。なぜなら、一度も使ったことがない言葉というのは、「自分のもの」になっていないからで、それでは他者に伝わりづらくなります。
私が翻訳の仕事で、「この言葉をどうやって翻訳すればいいのか」と悩んだ言葉がこれまでにもいくつもありました。1つ例をあげると、「dynamics」という言葉がそうです。
これを直訳すると、「動力学」という日本語になるのですが、皆さんはこの動力学という言葉を読んですぐに理解できるでしょうか。おそらく、大半の方はイメージがわかないはずです。すなわち、それは自然な日本語ではないということです。
「動力学」と「力学」のどちらが自然な日本語か
そもそも、力学というのは「静力学」と「動力学」の2つから成り立っています。物体の運動を扱う力学を動力学といい、逆に物体が静止しているときの状態を扱う力学を静力学といいます。
そうした違いを前提として、どうやって力学に詳しくない一般の人たち向けに翻訳するか。間違っても、ここで安易に「動力学」と翻訳してはいけないと思うのです。
大事なのは、前後の文脈でもっともぴったり来る言葉を頭の中の倉庫から探し出して、パズルのピースのようにはめ込むことです。そこで私は最終的に、「力学」と翻訳することにしたのです。
「dynamics」を「力学」と翻訳したエピソードには続きがあります。
少しだけ触れておきましょう。
その翻訳書が発売されたあと、私はある物理学の専門家から、次のようなお叱りを頂戴しました。
「この翻訳は原文と違っている。不正確だ」
たしかに、専門家からすれば「動力学」をただの「力学」と翻訳したことに大きな違和感を抱いたのでしょう。
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