「乳房」を手放した女性が直面、それぞれの事情 傷跡をカバーできる「ヨガウェア」を開発・販売
東洋経済オンライン / 2024年4月6日 11時40分
淡々と語る利香子さんには、病への怯えが少しも垣間見られなかった。
見えたのは、どうにか脅かしてやろうと手ぐすねを引くがんを、真顔であしらってやった美しいふてぶてしさ。それには、バリで出会った友人の言葉が大きく影響しているという。
「ある人に、“目の前で起きてることって、自分が悩んでも悩まなくても状況が一緒だったら、悩んでいる意味ないじゃない?”って言われたんです。その言葉が、すごく腑に落ちて。だから、乳がんだとわかったときも、落ち込んでも意味がないから、できることをしようと気持ちを切り替えられたんです。なるべく体調が悪くならないように温熱療法を採り入れたり、バリの人に親しまれているサプリを飲んだり。私の場合は、それが全部よい方向に作用したみたいです。
抗がん剤もやりましたが、胸のがんなので、どんどん小さくなっていくのが手で触れてわかるんです。患部が内臓だとわからないじゃないですか。でも、自分で触れてがんが小さくなっているのがわかると、やけにポジティブになるんですよね」
しばらく乳房と別れることを決意
抗がん剤を投与した後、利香子さんはがんの摘出手術を受けた。
思ったより病状が進行していたため、主治医は「乳房の同時再建はしないほうがいい」という見解を示した。同時再建をすると万が一再発した際に再再建が難しくなり、また、シリコンなどを入れると温熱療法の効果が及びにくくなる。放射線治療もしていたためリンパを流すケアも欠かせず、これができないとリンパ浮腫を起こすおそれもあった。
そのリスクを取るよりは、今しばらく乳房と別れることを利香子さんは選んだ。
「最初から“再建をしない”と決めていたわけではないんですけど、結果的にそうなりました。再建しても“元と同じようにはならないかも”とも思いましたし。
……私は、自分の胸がとても好きでした。手術の後、先生が“これを取りました”って、写真を見せてくれたんですが……。一見したら、単なる肉の塊なんですけど、まぎれもなく“私の胸”だったんです。それがなんか、すごいなと思いました。いつも見てきたものとは違うけれど、やっぱり私の胸だなぁって、わかったんです」
「あなたの場合、ここに腫瘍があって、ここが……」
医師の端的な説明を聞きながら、利香子さんは写真のなかの“胸”と対峙した。人もうらやむほど豊満で形のよい乳房は、密かな自慢でもあった。それはつい先ほどまで共にいた、彼女自身の一部だ。けれど、今身体から離れた乳房は、彼女に生きてもらうためあえて身を引いた、愛猫のようでもあった。たとえ姿が見えなくなっても、たしかな存在感で利香子さんを支え続ける。
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