何でもあり、小田原のバチカンが示す国の新しい形 正解がないからこそ、無数のチャレンジができる
東洋経済オンライン / 2024年4月21日 11時20分
財政社会学者の井手英策さんは、ラ・サール高校→東京大学→東大大学院→慶應義塾大学教授と、絵に描いたようなエリート街道を進んできました。が、その歩みは決して順風満帆だったわけではありません。
貧しい母子家庭に生まれ、母と叔母に育てられた井手さん。勉強机は母が経営するスナックのカウンターでした。井手さんを大学、大学院に行かせるために母と叔母は大きな借金を抱え、その返済をめぐって井手さんは反社会的勢力に連れ去られたこともあります。それらの経験が、井手さんが提唱し、政治の世界で話題になっている「ベーシックサービス」の原点となっています。
勤勉に働き、倹約、貯蓄を行うことで将来不安に備えるという「自己責任」論がはびこる日本。ただ、「自己責任で生きていくための前提条件である経済成長、所得の増大が困難になり、自己責任の美徳が社会に深刻な分断を生み出し、生きづらい社会を生み出している」と井手さんは指摘します。
「引き裂かれた社会」を変えていくために大事な視点を、井手さんが日常での気づき、実体験をまじえながらつづる連載「Lens―何かにモヤモヤしている人たちへ―」。第3回のテーマは「この国の新しいかたち」です。
消極的な考えで自治会に入ってみると…
ピンチをチャンスに変える――よく聞くフレーズだが、状況が厳しければ厳しいほど、新時代を切りひらくチャンスは広がる、そんな「確信」は私の身近な生活の中に転がっていた。
いまからちょうど10年前の4月、わが家は神奈川県の小田原市に引っ越してきた。しばらくは賃貸だったが、思いきって家を建てて入居した次の日だった。突然、玄関のチャイムが鳴った。
「この地区のものです。私たちの自治会に入ってくださいませんか?」
入会のお誘いだった。正直に言うと、何かと面倒そうで、気が進まなかった。だが、たいした会費ではないし、終の住処になるかもしれない。ことを荒だてるのはやめておこう、そんな消極的な考えで入会することにした。
しばらくして、長男が「子ども会」の存在を小学校で聞きつけてきた。親としては、負担でしかない。だが、子どもらは、東京で無縁だった子ども会なるものに興味津々の様子だった。
付き合いで顔を出してみると、会は壊滅の危機に瀕していた。うちの長男、長女を含めても、あと1、2年で会員は5人前後に減りますよ、解散しないといけないかも、という話も聞こえてきた。当時、そんな子ども会が、私たちの暮らしを変えることになろうとは、知る由もなかった。
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