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今回も誤解だらけの「国民年金」納付5年延長案 負担以上の給付、非正規雇用者の老後を支える

東洋経済オンライン / 2024年5月1日 8時0分

国民年金の人の老後がこころもとない(写真:Yotsuba / PIXTA)

5年に1度行われ、今夏にも公表される年金の財政検証を巡り、国会質疑でも取り沙汰され、早くも議論が沸騰している。

特に話題になっているのは、自営業者や非正規雇用者などが加入する国民年金の保険料の拠出期間を、現行の40年(20~59歳)から45年(20~64歳)に延長するという「案」にまつわるものである。

拠出期間を40年から45年にする「案」は、法案にすらなってもいないものである。政府はこれを採用するとすら決めてもいないのが現状だ。あくまでも、今夏に行われる年金の財政検証で、さまざまな試算結果を示すものの1つとして提示することを、厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会年金部会で了承したまでである。

その年金部会の会合が、4月16日に開催され、どんなケースを試算するかの案として示されたことから、話題になっている。

5年前も、10年前も示されている

しかし、この保険料拠出期間を45年に延長する案は、今年初めてお目見えしたものではない。東洋経済オンラインの拙稿「財政検証後の年金改革、次は何を目指すべきか 拠出期間延長と受給開始時期の延長が焦点に」で5年前にも取り上げている。

さらにさかのぼると、10年前の2014年の年金の財政検証でも、保険料拠出期間を45年に延長する試算結果が似たような形で示されていた。

保険料拠出期間の延長については、5年前にも似たような形で話題にはなったから、それを覚えている読者なら「またか」とは思えども、「寝耳に水」とは思わないだろう。ただ、国会論戦での野党の受け止め方は、「寝耳に水」といった反応だ。

今回も、年金の財政検証で、保険料拠出期間を45年に延長する案が試算されることとなる。再び試算される背景には、5年前の試算結果で顕在化した国民年金の給付水準の低さにある。

特に、国民年金の加入者は、昔は自営業者が多くを占めており、ほぼ生涯現役で老後も所得を稼ぎ、年金給付はその足しにする程度でも生活が成り立っていた面はある。

しかし、今や国民年金の加入者は1990年代以降の非正規雇用者が多い。

しかも、年金保険料は給料から天引きされて毎月欠かさず納められるということではなく、自ら納める手続きをとらなければならないから、未納者もいる。未納が多いと、その分だけ基礎年金の給付はもらえない。国民年金加入者に報酬比例年金はなく、基礎年金の給付しか受けられない。

単身で老後を迎える非正規雇用者

加えて、非正規雇用者は、正規雇用者と比べて未婚率が高い。そのため、単身者として老後を迎えることになると、夫婦2人の年金給付でお互いを支えあうという形では生活できず、自らの国民年金の給付と蓄えだけで生活を成り立たせなければならない。

そうなると、国民年金の給付はそれなりの水準が確保されていないと、老後の所得保障ができないということになる。

だからこそ、国民年金の給付水準を高めるために保険料拠出期間を延ばしてはどうかという話になっている。

確かに、5年分保険料を拠出しなければならない対象者にとっては、保険料だけ負担させられた割には給付がもらえないなら、拠出期間の延長には反対するだろう。

ただ、見かけ上の給付と負担の関係は、(もちろん生存期間によるが期待値の意味で)給付の方が多くなる。なぜなら、給付の財源の半分は、自分が負担していないかもしれない税金で給付のかさ上げをしてくれるからである。

基礎年金である国民年金の給付財源は、半分は保険料だがもう半分は税金である。受給権との関係でいえば、年金保険料さえ払えば、税金で賄われる部分の給付までもらえる。

年金財政が悪化するという不安から、その財政を立て直すために、保険料だけ払わされて、給付はそれほどもらえないという疑心暗鬼は巷には残っているだろう。

しかし、年金財政の立て付けでは、保険料を余分に払わせる以上は、それに見合った給付を出すという形になっている。その上、前述のように、税金で賄われる部分まで給付がもらえるから、割が合わないということはない。

厚生年金加入者はすでに60歳以降も払っている

この保険料拠出期間の延長は、60歳になった後も国民年金加入者となる人にだけ影響がある。60歳以降も被用者として正規に雇われる形で働く人(厚生年金加入者)にとっては、原則として関係ない。

なぜならば、厚生年金加入者はすでに、60歳を超えて引き続き勤務するならば、70歳になるまで保険料を払い続ける仕組みになっているからである。

だから、60歳以降も被用者として正規に雇われる形で働く人が、この保険料拠出期間の延長の案を、妙に自分事のように考えて、「追加的に保険料を負担させられたら困る」と、被害妄想にかられる必要はない。そもそも、60歳以降も厚生年金加入者は年金保険料が天引きされることになっているのである。

むしろ、「厚生年金加入者は60歳を超えて保険料を払い続けるのに、国民年金加入者は60歳を超えたら保険料を払わなくてよい」という仕組みになっていることを正す意味も、保険料拠出期間の延長には含まれているといってよい。

ただし、この案について、最も気を付けるべきは、前述したように、保険料拠出期間を5年間延長するのに伴い、基礎年金給付に必要な税財源を5年分別途確保しなければならないということである。拠出期間を延長して年金保険料さえ払ってもらえれば、それで完了、というわけではない。

基礎年金給付の財源は2分の1が税財源(国庫負担)であることから、その税財源をどう確保するかまでも含めて、しっかりと制度設計しなければならない。つまり、他の歳出を削減して財源が捻出できない限り、追加的な増税が必要だということである。

まずは、国会議員の数を減らすなど、無駄な支出を削るとか、増税の前にすべきことがあるという意見がある。

無駄な支出は削るのは当然である。しかし、それだけでは焼け石に水である。必要な財源はやがて1兆円強となり、桁が違う。

しかも、それを借金で賄って負担を先送りすれば、年金をめぐる給付と負担の世代間格差はますます拡大する。より年配の世代に年金のための財源を負担してもらわなければ、世代間格差は縮小できない。

加えて、保険料拠出期間を延長する限り、対象者にはできる限りその延長期間中に年金保険料を払ってもらわなければならない。保険料拠出期間を延長したにもかかわらず、免除申請者が殺到してしまうと、この措置は形骸化する。

実は延長はお得、もっとお得な「免除」の落とし穴

もちろん、国民保険料の免除制度を否定するものではない。

免除制度は、収入の減少や失業等によって保険料を納めることが経済的に困難な場合の手続きで、所得に応じて保険料が免除される度合いが異なる。所得が低くて全額免除されれば、その期間については、保険料を全額納付した場合の年金額(これを満額と呼ぶ)の2分の1の給付がもらえる。保険料が半額免除されれば、満額の8分の6もらえる。

このように、財源の半分となる保険料部分で、払った割合に応じて年金が支給されるとともに、もう半分の税金部分は保険料を払わずとも給付がもらえるという仕組みとなっている。

現時点では、保険料拠出期間が延長されると、追加負担があるとして反対する声が出てはいるが、保険料免除制度を使えば保険料を払わずとも給付がもらえて「お得」という声はほぼない。

しかし、それを強調すれば、モラルハザードを助長する。やはり、保険料を全額納付することを基本とすべきである。

おまけに、保険料拠出期間の延長に伴う税財源の確保が、増税反対の声に押されてままならない状態になれば、年金財政を悪化させかねない。財源確保なき年金改革はありえない。

国民の納得を得ながら、老後の所得保障をしっかりと行ってゆくことが重要である。

土居 丈朗:慶應義塾大学 経済学部教授

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