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【政界】自信を付け始める岸田首相 財政再建で元首相が神経を尖らせる場面も…

財界オンライン / 2022年6月20日 7時0分

イラスト・山田紳

※2022年6月8日時点

就任当初はショートリリーフという見方さえあった首相の岸田文雄が手堅い政権運営を続け、大きな波乱なく夏の参院選を迎えようとしている。立憲民主党をはじめ、野党の覇気のなさにも助けられて自民党には安泰ムードが漂う。岸田政権が当分続くことを前提に、党内の実力者による主導権争いが陰に陽に進行する。政調会長の交代論もささやかれる中、各派のバランスに神経をとがらせる岸田でもある。

【政界】安定政権か、それとも衰退を辿るのか?7月の参院選で分水嶺を迎える岸田首相

「アベノミクス批判か」

「君がアベノミクスに否定的だという人がいる。本当にそうなのか」。電話口から聞こえてきた元首相・安倍晋三の詰問調の声に、元副内閣相の越智隆雄(安倍派)は震え上がって弁明した。「そんなことは絶対にありません」

 自民党総裁直轄の財政健全化推進本部(本部長・額賀福志郎元財務相)は5月19日、昨年12月の発足以来、13回にわたる議論を政府への報告書案として集約し、出席者に諮った。そこには、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を2025年度に黒字化する政府目標について「財政健全化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む」と明記されていた。

 起草に関わったのが越智だ。報告書案には「近年、多くの経済対策が実施されてきたが、結果として過去30年間のわが国の経済成長は主要先進国の中で最低レベルである」など、アベノミクスを暗に批判したように読める部分もあった。それが安倍の逆鱗に触れたのだろう。

 その2日前、安倍が最高顧問を務める党財政政策検討本部がまとめた提言は「カレンダーベースでの目標設定が、マクロ経済政策の選択肢をゆがめることがあってはならず、今後、十分に検証を行っていくべきである」と政府に求めた。

 積極財政派が主導する検討本部はPB目標の破棄をもくろんでいたが、財政再建派との路線対立が深まらないよう、安倍と、推進本部最高顧問の麻生太郎(副総裁)が事前に書きぶりをすり合わせたはずだった。

  推進本部も報告書案に「状況に応じ必要な検証を行っていく」とは記した。しかし、基本線はあくまでPB目標の堅持であり、積極財政派は会合に乗り込んで公然と反対。同本部は翌20日も報告書案を了承することができず、軟着陸に時間を要した。

 内閣府が1月に公表した経済・財政に関する中長期試算によると、高成長が続いたとしてもPBが黒字化するのは26年度。自民党の積極財政派には、今の目標は形骸化しているという思いが強い。一方、岸田は目標年度の変更を考えていない。

 政府は経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を6月に策定する。自民党の両本部の主張が方針にどう反映されるかが焦点だ。積極財政派の党幹部は「参院選前にはもめない。勝負は選挙後だ」と息巻く。



防衛費は1兆円増?

 新型コロナウイルスの感染状況は大型連休後も落ち着きをみせているものの、楽観はできない。ロシアによるウクライナ侵攻に伴う物価高対策にも引き続き取り組む必要があり、自民党内の積極財政派は勢いづく。

 さらに同党は、現在は国内総生産(GDP)比1%程度の防衛費について、5年以内をめどに2%以上に引き上げるよう政府に求めている。これを強く後押ししてきたのが安倍だ。

 共同通信の5月の世論調査で防衛費を「大幅に増やすべきだ」「ある程度増やすべきだ」は計54・8%に上り、「今のままでいい」の35・8%を上回った。軍備を増強する中国や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に加え、ウクライナ危機が有権者の安全保障への関心を高めたとみられる。

 5月23日に東京・元赤坂の迎賓館で行われた日米首脳会談で、岸田は「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」と米大統領のバイデンに約束した。

 日本政府筋によると、会談で具体的な金額は議論にならなかったようだが、これを伝え聞いた安倍はある会合で「抜本的ということは、おそらく6兆円の後半という意味ではないか」と勝ち誇ったように語った。政府の22年度当初予算で防衛費は約5・4兆円。安倍は年末の来年度予算編成で1兆円を超える増額を視野に入れていることになる。

 自民党にも「国を守るために何が必要か積み上げて議論すべきだ」(前防衛相の河野太郎)という慎重論はある。公明党も「真に必要な予算措置」を主張し、防衛費増額に傾く自民党をけん制する。参院選後の概算要求段階から、さや当ては激しくなりそうだ。

 財政政策だけではない。選挙対策でも党内の意見対立が表面化した。

 参院選の準備段階で野党に先行している自民党だが、山形選挙区(改選数1)では候補者擁立を見送る方針だった。同選挙区で改選を迎えるのは国民民主党の舟山康江。選挙に強い舟山に勝てる候補がなかなか見つからず、与党に接近してきた国民民主党に恩を売る形にして、不戦敗を選択しようとしたのだ。

 しかし、山形は自民党選挙対策委員長の遠藤利明の地元。擁立見送りだけならともかく、舟山を推薦するという奇策まで浮上すると、党内で批判が噴出した。しかも、同党が5月中旬に実施した情勢調査では、候補者未定にもかかわらず、舟山に善戦するとの結果が出たという。

 現時点では、自民党は一部野党の力を借りなければ参院選後の国会運営が難しくなるような状況にはない。国民民主党代表の玉木雄一郎は与党との連携に前のめりだが、それはあくまで生き残りをかけた同党側の事情だ。しかも、玉木の方針には党内に異論もくすぶる。山形選挙区を巡る自民党執行部の当初の対応が弱腰に映るのは無理もなかった。

 安倍や参院幹事長の世耕弘成はもともと見送りに懐疑的で、幹事長の茂木敏充はついに党内の主戦論に抗しきれなくなった。遠藤ははしごを外され、同じ谷垣グループのある議員は「遠藤さんも昔はほかの派閥とうまくやっていたのに、最近は岸田さん一本やりになっている」と他派閥からの風当たりの強さを嘆いた。



勢いは本物か

 山形選挙区を含む全国32の「1人区」(改選数1)の行方は参院選全体の勝敗を左右してきた。16年と19年は共産党を含む野党が全選挙区で候補者を一本化して自民党に挑んだが、結果はそれぞれ11勝、10勝と大きく負け越し、当時の安倍政権は揺るがなかった。

 しかも、昨年の衆院選では野党共闘を主導した立憲民主党が議席を減らし、国民民主党は早々とこの枠組みから離脱。両党を支援してきた連合は、参院選に向けて共産党との決別を迫った。立憲民主、共産両党は5月9日、「勝利する可能性の高い選挙区を優先して候補者調整する」ことで妥協した。

 その結果、野党の協力が今回も何らかの形で続く1人区は11選挙区(5月24日現在)にとどまる。今後、情勢が大きく変化しない限り、野党は過去2回以上に苦戦する可能性が高い。

 元気がない野党の中で自民党が警戒するのが日本維新の会だ。維新は昨年の衆院選で公示前の11議席から41議席に躍進した勢いに乗り、次期衆院選で野党第1党の座を狙う。参院選と来年春の統一地方選は足場を固める重要な意味を持つ。

 参院選の目標は改選6議席から倍増の12議席。地盤の大阪から外に支持を広げようと比例代表に複数のタレント候補を擁立し、全国的な票の掘り起こしを図る。

 安倍、菅両政権は維新と良好な関係を保ってきた。安倍や官房長官時代の菅義偉には、維新代表の松井一郎(大阪市長)を通じて同党の協力を取り付け、国会で憲法改正論議を進める思惑があったからだ。一方、岸田政権にはそうしたパイプがなく、維新は参院選を前に野党色を強めている。

 自民党幹事長の茂木は5月、大阪市での街頭演説で「維新の創設者(元大阪市長の橋下徹)がロシア寄りの発言を繰り返しているのに、維新の国会議員は何も言えない。身内に甘い政党だ」と維新を批判した。「維新に昨年の衆院選ほどの勢いはない」とみて攻勢に出たのだ。これに対し、松井は「幹事長としては薄っぺらい」とすぐさま反論した。

 維新は参院選の公約として、看板の統治機構改革などに加え、自衛隊を憲法に明記する9条改正や防衛費増額などを掲げる構え。自民党の主張と重なるのは、「全国政党」に脱皮するには保守層への浸透が不可欠と考えているからだろう。

 世論調査によっては、参院選比例代表の投票先として維新が立憲民主党を上回っているケースもある。選挙に詳しい自民党関係者は「維新が議席を伸ばすのは間違いない」と分析する。



風向き急変の過去も

 岸田政権に今のところ大きな懸念材料はない。参院選前に補正予算を編成すると与党に不利になるというジンクスにかまわず、岸田が公明党の要望を受け入れて22年度補正予算案を今国会に提出したのも、野党の力量を見極めてのことだろう。

 ただ、第1次安倍政権時代の07年は「消えた年金」問題や閣僚の相次ぐ不祥事で国会終盤に風向きが変わり、自民党は参院選で惨敗した。1998年参院選では、当時首相だった橋本龍太郎の「恒久減税」を巡る発言がぶれ、事前の予測で優位とみられた同党が敗北。橋本は選挙後に退陣した。

 政界は何が起こるかわからない。麻生は5月中旬の麻生派の会合で「参院選がある通常国会の会期末としてはベタなぎのように見えるが、最後の詰めが一番だ」と引き締めた。

 参院選で自民党が勝てば、25年まで大型の国政選挙の予定がなく、岸田は長期政権が視野に入ってくる。新型コロナ対策は言うに及ばず、「新しい資本主義」の肉付けや、インド太平洋地域への米国の関与と歩調を合わせた防衛力強化、憲法改正など日本の将来に関わる課題に対し、岸田がどうリーダーシップを発揮するかが問われる。今までのように「聞く力」一辺倒というわけにはいかない。

 そのカギを握るのが選挙後の内閣改造と自民党役員人事だ。党内では、岸田が安倍に配慮して政調会長に起用したものの、実質的な政策決定権を与えていない高市早苗の交代論がささやかれている。最大派閥の安倍派には政権発足時に幹事長ポストを握れなかった不満がくすぶる。岸田を支える各派のバランスが崩れたら、政権の足元はたちまち揺らぐ。

 参院選を乗り切ったとしても、25年までの3年間が岸田にとって「黄金」になるとは言えないだけに、岸田の緊張感は続く。(敬称略)

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