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楠本修二郎・ZEROCO社長「生鮮食品の鮮度保持期間を延ばす約0度保管は、日本の叡智〝雪下野菜〟から着想を得ました」

財界オンライン / 2024年5月12日 11時30分

楠本修二郎・ZEROCO社長

「人類は220年間にわたって冷蔵か冷凍かの二択しかありませんでした」とZEROCO社長の楠本修二郎氏。食材や加工品を約0度で保管することで、鮮度を保つ保管庫(ZEROCO)を開発。鮮度保持期間が延びれば農業、漁業、畜産業は安定的な値付けができ、物流の納期の問題にもゆとりができ、ドライバー不足にも貢献が可能。さらには飲食店でも鮮度保持期間が伸びることで廃棄ロスも減る。この新たな技術の着想は、日本人の受け継いできた叡智。〝雪下野菜〟にヒントがあった。日本人だけが知っていたそのヒントとは─。


食産業に革命を起こすというZEROCO(保管庫)とは

 ─ 食産業は農業から物流、卸、飲食店と全てバラバラになっているという楠本さんの指摘ですが、ZEROCOがそれをつなぐ役割だと。詳しく聞かせてくれませんか。

 楠本 はい。日本はこれから人口減少が加速していきます。その中で、人が減ってもおいしさをキープして維持発展できるテクノロジーがいりますよね。それがZEROCOという保管庫です。大事なのは、『鮮度保持』なんです。

 ZEROCOは鮮度を保ちながら保存できて、なおかつおいしくする技術です。おいしく保存するための日本人が持っていた知恵は4つの要素があります。

 1つは鮮度保持です。2つ目は熟成です。そして3つ目が発酵、4つ目が乾燥です。

 1つ目の鮮度保持と2つ目の熟成を同時に達成する技術がZEROCOのテクノロジーです。これを「冷蔵庫でもない、冷凍庫でもない、第三の道」という言い方をしています。なぜ第三の道かといいますと、まず、冷蔵庫ができたのは1803年、冷凍庫ができたのは1805年に遡ります。つまり、人類は220年間にわたって冷蔵か冷凍か、この二択で今日まできました。

 ─ 中間がなかったと。

 楠本 ええ。食料とエネルギーの獲得戦争に明け暮れていた人類ですが、エネルギーは水力、風力、原子力に至るまで、イノベーションが起きています。

 しかし食料保存は冷蔵か冷凍しかありません。ZEROCOはこの間の『約0度保管』を可能とする新しい技術です。ですから社名も「0庫」という意味でつけました。この約0度保存は実は概念としてはあったのですが、人類がまだ到達していなかった技術なんです。

 たとえば冷蔵庫や冷凍庫はドアを開けたら急に10度になって、ドアを閉めたらぶんぶんラジエーターが回って今度はマイナスになったりします。

 つまりゼロ度にとどまらずにいったりきたり、プラスマイナスと何度も温度が変化することが食材の細胞に一番良くないのです。

 そこで、われわれは芯温から全体的に温度ムラがないように均一にゼロ度にし、保管庫内環境を徹底的に湿度100%弱にキープするという技術を開発しました。

 ─ この湿度も大事だというのはどう気付いたのですか。

 楠本 湿度100%弱ということは、酸化が起きないということです。水の元素記号、H2OのO(酸素)が、ほかのものと付着することが酸化の原因になります。人間でいうと、年を取るというのは細胞に酸化が起きているのです。細胞を破壊することなく高い鮮度をキープするためには、約0度にすることと、超高湿状態でキープすることだと。実はこのことは昔からの日本人の生活の知恵にヒントがあったのです。


ヒントは雪下野菜にあった

 ─ 具体的にどんな知恵ですか。

 楠本 寒い地域で雪の中に食材を入れて保管するという文化『雪下野菜』です。

 これは私が東北にずっと関わっている中で、農家さんから教えてもらいました。この文化は東北に限らず北海道から北陸も含めて寒い地域ではごく一般的にある文化です。

 新潟は酒造組合さんなどが雪室をつくって、お酒をそこに保管しておくとおいしくなるというのを今でもやっています。北海道も農家さんが雪室を使っていたり、古くはアイヌの方々がシャケを雪下で保管して、アミノ酸が増すことを知っていました。

 なぜこのことを日本人だけといっているかというと、この日本の複雑な地形に理由があります。見れば見るほど非常に稀有な地形で、地球上の大きなプレートの約10分の4が日本に集中しているのです。それらのプレート同士が押し合いへし合い状態になっています。その結果、約3000万~2000年前に日本列島はペキッと折れてしまったんですね。ペキッと折れてくぼんだところが日本海です。このくぼんだところに世界第2位の黒潮という暖流が、一気に対馬海流としてなだれ込んでいます。こんな地形は世界にございません。

 日本は地形的に日本海側から冷たい風が吹きつけます。日本列島は花崗岩が隆起して山地が形成され続けそれが蓋になることによって、超高湿度帯の雨雲をキープしたままどか雪が降り続ける。そこに人の営みがある。この雪下で保管するという知恵は日本人だけが知っていたものだといっていいと思います。

 この知恵をテクノロジーで再現したということで、日本人にとっては非常に伝統的で、なおかつ革新的なものです。

 H2Oしか使いませんので、電磁波を流したり、微弱電流で細胞を揺らしたり、アルコールに沈めたり、塩水を使ったりを一切しません。ですから非常に自然と調和するナチュラルな技術なのです。


食産業の構造を変える一手となるか─

 ─ 鮮度を保つ保管ができるようになれば、今の産業構造も変わってきますね。

 楠本 おっしゃる通りです。これが意味することは、結論様々な食材の在庫が可能になります。

 サステイナブル農業、漁業、畜産業をどう実現するかという議論に対し、担い手不足問題の解消を大上段に論じても若者はついてこないので課題解決に繋がっていません。

「YouTuberの次は農業だ」と若者が思えるぐらいに第一次産業が儲かり、リスペクトされ、なおかつ週2日休める状態になると、普通の職業よりは大変だけれどやりがいがあるということで就農に戻ってくると思います。

 ですから農業、漁業、畜産業の在庫が持てるというのは、価格決定プロセスを第一次産業側が持てるということになりますので、結果的に儲かる農業、儲かる漁業、儲かる畜産業が戻ってきます。

 このZEROCOを開発をしたメンバーとわれわれは食のスペシャリストなので、決して冷蔵庫屋さんではありません。

 冷蔵庫と同じようにZEROCOを売りたいのではなくて、このテクノロジーを広げながら、日本の食産業全体をよくしていく。流通をいい方向に変えていく。それから、よりおいしいものに変えていく。輸出を促進する。誰も敵とはしない、皆がハッピーになるためのソリューションやプロデュースを、僕らはZEROCOを使って日本各地や世界でやっていくというようなことを考えています。

 ─ 具体的にはどれくらいの鮮度が延びるのですか。

 楠本 野菜はだいたい4、5カ月から葉野菜は6カ月ぐらい。根菜、ニンジンとかビーツとかになりますと1年もちます。

 キノコ類は目視しているだけで8カ月です。バラは1年きれいに咲いたバラが、そのまま温存されています。

 ─ 食材だけでなく、例えば加工品はどうなんですか。

 楠本 これも驚きなのですが、ZEROCOに入れれば、寿司、ローストビーフ、イチゴのショートケーキまでもがおいしい状態で保管・実食が可能となるのです。

 調理したものをZEROCOに入れて食材をZEROCOと同一状態となるよう予備冷却します(以下「ZEROCO状態」といいます。)。大きさによりますが、調理済み品は小一時間で細胞の状態が整います。つまり、これはオートメーション化できるんです。

 そのあとは緩慢冷凍でいいです。緩慢というのは、急速ではないということです。急速冷凍と緩慢冷凍は、エネルギー効率が最大で約8倍も違うので。

 ZEROCOに入れてZEROCO状態にしたあとに緩慢冷凍をし、食べるときにはレンチンで解凍するだけで、おいしさが復元してきます。

 業務用でも例えばマグロや牛肉、豚肉を冷凍して解凍すると通常ドリップ(液体)が出て味が落ちてしまいますが、ZEROCO解凍をすると、あまりドリップが起きずにクオリティの高い品質で常温に戻すことが可能です。

 ─ そうするとZEROCOはインテグレーターという立ち位置ですか。

 楠本 そうですね。この技術をもって、食産業全体に縦串・横串を刺し、海外で食産業が勝てる仕組みづくりをしたいと考えています。

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