自動車の進化は著しい。今後もEVやPHEVなどが台頭してくれば、いまふつうに存在している技術や用語も、何年かすれば消えていくものもあるかもしれない。かつてクルマ好きは誰もが知っていた、でもいまは消えてしまった自動車用語を振り返る。
■1970年代チューニングの“三種の神器”
自動車の技術は日々進化している。昨日までの常識が、今日に刷新されるのは当たり前。その結果、数多くの技術が使われなくなり、それに伴う用語などが消えていった。そんな消えた自動車用語を振り返ってみたい。
●「ソレ・タコ・デュアル」
まず、昭和のクルマ好きのヤング(若者)であれば、知っていた、いや、知っていないとまずかった言葉が「ソレ・タコ・デュアル」だ。
これは「ソレックス」「タコ足」「デュアルマフラー」の3つをまとめた言葉で、1970年代から1980年代にかけてのチューニングの“三種の神器”とされていた。
ソレックスとは、フランス製の高性能キャブレターを製造していたメーカーである。いまと違って1980年代までのクルマは、燃料と空気を混合させるのはキャブレターの仕事。ソレックスは、高性能キャブレターの代名詞的存在であったのだ。
またタコ足は、社外品となるエキゾーストマニホールド(排気管)だ。エンジンの各気筒につながったエキゾーストマニホールドがエンジンルーム内で、まるでタコの足のようにとぐろを巻いたことから、タコ足と呼ばれた。
そしてデュアルマフラーは、文字通りの2本の排気管のこと。排気経路を2本とすることで排出ガスの通り道が広くなり、それだけ排出ガスの抜けるときの抵抗が減る。
つまり、この3つのアイテムを使うことで、効率よく燃料と空気をガソリンにエンジンに送り込み、効率よくガスを排出する。その結果としてエンジンのパワーがアップするというわけだ。
クルマ好きの若者であれば、愛車を少しでも速く、そしてカッコ良くしたいと思うもの。そうしたクルマ好きが、こぞって「ソレ・タコ・デュアル」を愛車に装着することが勲章のように思われていたのだ。
しかし、「ソレタコデュアル」がもてはやされるのは1980年代まで。1980年代後半から、徐々にクルマは電子制御化されていき、キャブレターが使われなくなる。
また、チューニング技術も高まって、さまざまな手法が広まってゆく。三種の神器をポンと付ければOKという時代は過ぎ去り、それにあわせて「ソレタコデュアル」という言葉も使われなくなってしまうのであった。
■技術の進化で消えたものだけでなく法規制で消えたものも
●「チョーク」
キャブレターが使われなくなると同時に、やはり他の言葉も消えていった。それが「チョーク」だ。
キャブレターを使っていたクルマは、基本的に燃料と空気の混合具合は一定となる。しかし、比率によっては気温が低いときにエンジン始動がしにくくなるときもある。
そこでチョークという機構を使って混合比率を変化させ、エンジン始動性をアップさせるのだ。ちなみに、パワーを重視したスポーツカー用のエンジンは始動性が悪く、エンジンをかけるために独特の手順を踏む必要のあるものも存在した。
そうした手順を高性能車ならではの作法と見て、ありがたがる向きもかつてはあった。しかし、混合比を機械的に自動で調整するオートチョークが普及していくにつれ、チョークの存在感は薄れてゆく。そして電子制御化の結果、完全にチョークという言葉は消えていったのだ。
●「リトラクタブルヘッドライト」
技術の進化ではなく、法規制の変化で消えていった言葉もある。そのひとつが「リトラクタブルヘッドライト」だ。
これは、引っ込める(リトラクタブル)ことのできるヘッドライトのこと。日本語的にいえば「収納式前照灯」となる。日中など、必要ないときはフェンダーやフロントグリル内に引っ込めて収納することのできるヘッドライトのことだ。
空力性能に優れるだけでなく、デザイン性にも貢献するということで、1960年代から1980年代のフェラーリやランボルギーニなど、数多くのスーパーカーに採用された。
もちろん、日本車でもトヨタ「2000GT」をはじめスポーティモデルにも数多く採用された。1990年代までは、スポーツカーのカッコ良さを盛り立てる重要なアイテムのひとつであったのだ。
しかし、安全性や重量増などの問題もあって、2000年ごろから法規制で禁止される国が増え、今ではすっかり絶滅することになってしまった。
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他にも、技術の進化や法制度や流行の変化によって、消えた自動車用語は数多く存在する。
いま現在、盛んに使われている用語も、いつかは消え失せてしまう可能性もあるのだ。次に消えてしまう言葉は、いったい何であろうか。そうしたことを予想するのも、またクルマの楽しみのひとつではなかろうか。