Infoseek 楽天

「越えてはならない一線」を明確に、バイデンがイスラエルの戦争拡大を防ぐためにやるべきこと

ニューズウィーク日本版 2024年4月24日 15時8分

トリタ・パールシー(クインシー研究所副理事長)
<ネタニヤフに肩入れするバイデンが払う代償...イスラエルの暴走をアメリカが止めなければ、アメリカは自国の利益にならない戦争に巻き込まれ、中東から足を抜けなくなる>

少なくとも今までのところは、絵に描いたような「限定的」報復の連鎖だ。

イスラエルがシリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館領事部にミサイルを撃ち込み、革命防衛隊の幹部らを殺害したのは4月1日のこと。

同月13日の深夜、イランは大量のミサイルなどをイスラエルに向けて発射したが、その大半がまだイスラエルの空域に達してもいない時点で、イラン政府は早々に「作戦完了」を宣言した。

ミサイルの大半が迎撃されることは承知の上で、取りあえず果敢に「報復」した事実を誇示できれば、それで十分だったからだ(同月19日未明にはイスラエルがイラン中部にミサイルを撃ち込んだが、あえて首都テヘランは狙わなかった)。

イラン側の目的は復讐ではなく、自国の抑止力を見せつけ、戦争の拡大を回避することにあった。ただし1つだけ、大事な点を見逃していた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が一貫して、イランを巻き込む戦争の拡大を望んでいるという事実だ。

昨年10月にイスラエルとイスラム組織ハマスの間で戦争が始まると、戦火の拡大を恐れたアメリカはネタニヤフに圧力をかけ、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラへの先制攻撃を思いとどまらせた。

しかしジョー・バイデン米大統領も政権内の外交筋も、まさかネタニヤフの狙いがイランとの戦争にアメリカを巻き込むことにあるとは思っていなかった。

だがネタニヤフには、現下の対ハマス戦を長引かせたい理由がある。戦争が終われば自分の政治生命も終わり、長年にわたる汚職の責任を問われて刑務所行きとなりかねないからだ。

しかもネタニヤフはイランを自国にとって最大の戦略的脅威と見なしており、どこかで決着をつけたいと本気で考えている。

イランと一戦を交え、その戦いにアメリカを引きずり込む。このシナリオはイスラエルにとって願ってもない展開だ。そうすればイランの核武装は遅れ、通常兵器による軍事力も低下するだろう。

結果として中東のパワーバランスはイスラエルに有利な方向に傾き、アメリカとイランの和解という(イスラエルにとって最大の)悪夢を回避できる。

一方でレバノンやイラク、イエメンなどにいるシーア派武装組織の力もそがれるはずだ。

歴代米大統領の判断は

だが戦争の拡大はアメリカの戦略的目標に合致しない。またも中東の泥沼に足を突っ込むような事態になれば、バイデンの再選は危うい。イランからのミサイル迎撃でイスラエルに手を貸したのも、戦争の拡大を防ぎたいからだ。

イランによる攻撃後、回収したイランのミサイルについて語るイスラエル軍報道官 AMIR COHENーREUTERS

そもそも歴代の米大統領は、イランとの軍事対決を望むネタニヤフに同調してこなかった。ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ、そしてドナルド・トランプですら、イスラエルの暴走を牽制してきた。

軍事力でイランの核開発を止めることは不可能であり、中東での新たな戦争はアメリカの国益に反するという認識があるからだ。

あの地域が再び不安定化すれば、イラクとアフガニスタンにおけるアメリカの立場は一段と悪くなる。軍事力を今以上に中東方面に振り向ければ、もっと深刻な戦略的脅威、つまり中国に立ち向かう余裕もなくなる。

確かにブッシュ(息子)政権はイランに強硬な姿勢を示していたが、それは表向きのことだった。

2008年5月に当時のイスラエル首相エフド・オルメルトがイランの核施設攻撃についてアメリカの支持を求めたときも、ブッシュは自分が大統領である限り拒絶すると答えていた。

オバマはさらに一歩踏み込み、アメリカはイスラエルによるイラン攻撃にゴーサインを出さないと公言した。

そして政権に復帰したネタニヤフがイラン核武装の脅威を振りかざしてアメリカに軍事行動を迫ったときは、逆に外交的解決へと舵を切った。その結果が15年の、いわゆる「イラン核合意」である。

次のトランプはどうだったか。彼は歴代大統領の中で最もタカ派の男で、自分の利益になると思えばイランとの関係を荒立てることもためらわず、18年には核合意の破棄を求めるネタニヤフにあっさり同調した。

それでもネタニヤフの代わりにイランと戦争を始めることはなかった。

トランプ政権の元高官によると、トランプはネタニヤフがイランとの戦争で「米兵を最後の一兵まで戦わせる」つもりなのを見抜いていた。

こうして歴代の米大統領は、アメリカをイランとの戦争に引きずり込もうとするネタニヤフの策略に乗らずにきた。しかし、もはやそんな時代ではないらしい。

昨年10月以降、バイデンはほぼ無条件でイスラエルの戦争を支持している。それがアメリカの一貫した立場だと言うのだが、実は伝統から逸脱している。

ロナルド・レーガンもブッシュ(父)もオバマも、イスラエルに対しては常に自制を求めてきた。しかしバイデンはそれをしていない。

アメリカをイランとの戦争に引きずり込もうとするイスラエル側の試みを断固として拒絶するという、従来のアメリカ政府の立場を放棄したに等しい。

軍事パレードに出席したイランのライシ大統領 MORTEZA NIKOUBAZLーNURPHOTOーREUTERS

バイデンは歴代大統領よりもネタニヤフに肩入れしているだけではない。

彼は相反する2つの目標を掲げている。地域的な戦争を防ぐと言いつつ、戦争になれば(たとえイスラエルが仕掛けた戦争でも)断固としてイスラエルを支持すると表明している。

イスラエルはシリアにあるイラン大使館の施設を攻撃し、イラン軍最高幹部の1人を殺害した。イラン政府はこれをイラン領土への攻撃と見なし、戦争行為と断定した。

そしてイランが報復に出ると、米軍は英、仏、ヨルダン軍と連携してイランのミサイルを迎撃し、イスラエルを守った。

その後、バイデンはイスラエルによるイランへの「攻撃的」軍事行動には参加も支援もしないが、イスラエルが再び攻撃された場合には「防衛的」に支援すると宣言した。

だが攻撃的支援か防衛的支援かの区別は、戦争が始まった瞬間に不可能になる。

「一線」を明確にすべき

バイデンの論理は、ネタニヤフにイラン攻撃の動機を与えた。アメリカが最初の攻撃に参加しなくても、イランが本気で反撃してくればアメリカは否応なく戦闘に巻き込まれる。ネタニヤフはそれを承知している。

どう転んでもアメリカは自国の利益にならない戦争に巻き込まれ、中東から足を抜けなくなる。そうなればイランは核兵器の開発を急ぐに違いない。

バイデンが本当に戦争を防ぎたいなら、越えてはならない一線を明確に設定する必要がある。戦闘の拡大は絶対に許さない、アメリカのイスラエル支援は無条件のものではないと、明確に通告すべきだ。

1991年の湾岸戦争に際し、当時のブッシュ(父)大統領はイスラエルに対する敵味方識別(IFF)信号の提供を拒み、イスラエルのイラク攻撃を許さなかった。おかげで参戦した「有志連合」の団結を維持できた。

バイデンはこの先例に学ぶべきだ。

ネタニヤフは政治家人生の最後に待ち受ける刑務所行きを避けるために、この戦争を長引かせ、拡大させようと必死だ。ハマスとの戦争が始まって以来、彼はバイデン政権の遠回しな、あるいは水面下の要請に耳を貸さずにきた。

それでも今のところ、何のとがめも受けていない。そうであれば、彼の態度は今後も変わらないだろう。

思えば、バイデンが開戦直後にイスラエルへ飛び、ネタニヤフを固く「抱擁」したのが間違いだった。あのシンボリックな抱擁のせいで、既に3万3000以上のパレスチナ人の命が奪われた。

もしも2度目の抱擁があれば、ネタニヤフはそれを対イラン戦争のゴーサインと受け止めるだろう。その場合の代償は、アメリカ人とアメリカ兵の命で支払うことになる。

From Foreign Policy Magazine

この記事の関連ニュース