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日本の優秀な高校生は「なぜ“海外の有名大学”を目指さないのか」。東大合格者の併願校からわかること

日刊SPA! 2024年3月10日 15時54分

―[貧困東大生・布施川天馬]―

◆世界に羽ばたかないエリートたち
 みなさんは東大生と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか? 「エリート」な印象を受ける方もいらっしゃるでしょう。日本でも最難関クラスの東大に突破するのだから、それなりの能力は持っているはずだと期待されるかもしれません。
 
 東大側もエリートの育成学校である意識があるようです。東京大学のアドミッションポリシーには『国内外の様々な分野で指導的役割を果たしうる「世界的視野を持った市民的エリート」(東京大学憲章)を育成すること』を使命として掲げており、ゆくゆくは世界を股にかけて活躍できるエリートの育成が至上命題となっています。

 ですが、いまの東京大学には、果たして「世界に羽ばたくエリート」が何人いるのでしょうか? 私は、独自に現役東大生、東大卒業生100人を対象として、幼少からの学びの環境についてアンケートを実施しました。その結果からは、東大の理想の真逆に思えるような現状が透けて見えます。

今年の2月20日に、このアンケート結果を分析し、そこから考察できる内容をまとめた『東大合格はいくらで買えるか?』を上梓しています。今回は、「世界に羽ばたいていかない日本のエリートたちの現状」についてお伝えします。

◆アンケート調査でわかった驚きの事実

 私は、今回のアンケートで、東京大学以外の併願校の合否についても尋ねました。さすが東大というべきか、併願校にも早稲田大学、慶應義塾大学をはじめとする首都圏の難関大学が数多く並びます。

 ですが、私はここで違和感を抱きました。早慶、東京理科大学、上智大学、MARCHあたりの名前はあるのですが、逆を言えば、それ以外の名前が全く上がらないのです。つまり、海外の大学を併願している人が非常に少ない。

 今回調査をとった100人の中では、海外大学を併願し、合格しているのはただ一人だけでした。この方はアメリカの有名大学をいくつか併願し、合格をもらったうえで、東大を選んだようでした。

 そして、今回のアンケートの現役/浪人比率は77:23です。80%近い人が、現役での東大進学を決めています。これは、一般的に言われている東大生の現役/浪人比率とほぼ同等な数字です。

◆東大生も安全志向である

 これらのデータからは、「東大に入れるレベルの学生といえども、安全志向で、チャレンジ精神に欠けている」事実が見えてきます。すなわち、東大に入ってくる学生の多くは、「東大にチャレンジしてみよう」と考えていないのです。東大は、あくまで「安全で安定したキャリアルート」の一つだとみなされているのです。

 つまり「自分でも東大なら受かるだろうから、東大を受けよう」と考えている学生が非常に多いと思われます。その証左として、仮にチャレンジ精神にあふれているのであれば、日本にこだわらず、世界の大学を受験する学生がもっと多くてもいいはずです。

 世界大学ランキングでも東大は30位台であることはもはや周知の事実。海外大学のほうが進んだ研究をしている学問分野もたくさんあります。しかし、今回のアンケートでは、海外大学を受験した人は、たった1人だけ。1%しか、海外に目を向けた人がいませんでした。

◆東大に入れれば満足……なのか?

 東大生の出身家庭は年収1,000万円以上の比較的裕福な家庭が多い。奨学金なども活用すれば、海外進学が経済的に難しいとする家庭は限られるでしょう。それにも関わらず、世界の大学へ進学を考えないのは、国内の受かる大学に留まり、より多数派の通るであろうキャリアルートを歩みたいからではないでしょうか。

「日本のエリートは国際競争力が低い」と言われることがありますが、それはすべて能力があるのに「東大で妥協すればいい」と考えるエリートたちの思考や、それをよしとするような日本の教育環境に原因があるのではないでしょうか。それなりの能力とその挑戦を可能にする環境がそろっているのであれば、もう少し世界に目を向けて一歩踏み出す高校生がいても、いいはずです。

 一部の進学校が大量の東大生を輩出するからくりは、「毎年大量の東大生が出るから」にほかなりません。「あの人がいけるなら自分も行けるはず」「とりあえず東大を目指しておけばいいや」とする空気が学校内に蔓延しているから、安定して大量の東大生を輩出し続けることが可能なのです。

 ですが、これはまったくチャレンジ精神からかけ離れた進学動機です。東大の熱望する「世界的視野を持った市民的エリート」が、それらの中から生まれるとは到底思えません。そのような現状に見かねたからこそ、東京大学は推薦入試を導入したのでしょう。

 現代の日本では、海外大学に進学する人は少数派。進学を希望すれば、自然と他人と違う道を行くことになる。「出る杭は打たれる」ことを恐れ、他人と同じ安定した道に進む。これが日本の誇れるエリートの姿でしょうか。私にはそうは思えません。

 せっかく海外大学と日本の大学では入学時期が異なるのです。併願も容易でしょう。そのうえで、東大に入りたいならば、改めて東京大学を志望すればいいのではないでしょうか。それこそが、あるべき主体的な進路選択でしょう。

 経済的事由や家庭の事情など特別な理由がないのであれば、日本の優秀な高校生たちには、東大なんかで妥協せず、世界の大学を目指してほしいと切に願います。

<文/布施川天馬>

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Twitterアカウント:@Temma_Fusegawa)

―[貧困東大生・布施川天馬]―

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