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アングル:電子書籍貸出ブームの米国、図書館と出版社が「所有権」で対立

ロイター / 2024年3月4日 11時28分

 電子書籍が図書館にとって頭痛の種となっている──。複数の米図書館職員から、そうした声が上がっている。写真は地下鉄のホームで電子書籍を読む人。2011年3月、マサチューセッツ州ケンブリッジで撮影(2024年 ロイター/Brian Snyder)

Carey L. Biron

[ワシントン 21日 ロイター] - 電子書籍が図書館にとって頭痛の種となっている──。複数の米図書館職員から、そうした声が上がっている。紙の本のように紛失や破損の心配はないものの、電子出版社側から高額かつ制限の伴うデジタルライセンス契約を要求されているという。

「1回貸し出されるごとに料金を支払わなければならず、保有できる部数にも重大な制限が設けられている。他にも電子書籍ならではの特殊な問題が数多く存在する」と司書のアリソン・マクリーナ氏は言う。同氏は活動団体「図書館の自由プロジェクト(LFP)」のディレクターも務めている。

電子書籍やオーディオブック、音楽などのデジタル蔵書は、図書館職員が担う仕事において占める割合が大きくなりつつある。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)以降は、ロックダウン下でも電子書籍の貸出継続が認められるようになり、特にそうした傾向が高くなったという。

大手プラットフォーム「オーバードライブ」によれば、2023年には年間6億6200万冊の電子書籍やデジタル蔵書が図書館から貸し出された。この数字は前年比で19%高く、史上最多を更新した。

数社ある米国の電子書籍の発行・販売関連企業はこの15年以上、自社商品の権利を手放して販売するのではなく、図書館に有料で貸し出す形を取っている。

一部の司書に「ネットフリックス型」とも称されるライセンス認証システムは、より高額なだけではない。企業側が人々の読書習慣データを追跡したり、システムから本を削除したり、内容を検閲したりしかねないという懸念も生じている。

デジタル権利を擁護する非営利組織「ファイト・フォー・ザ・フューチャー」のリア・ホランド氏はこう指摘する。

「デジタル書籍の大半について電子出版大手は、個人か図書館かにかかわらず、利用者が本を丸々1冊保有できるという選択肢を設けていない。利用者は書籍の内容を閲覧する権利を購入しているだけだ」

こうした出版社と図書館の利害を巡る衝突は近年、法廷闘争へと発展している。

出版社は電子書籍のライセンス契約に制約を課すことについて、業界全体の経済損失になりかねないと懸念を示す。一方、本へのアクセスを容易にし、読書を奨励するという目的を実現するにあたり、高い利用料などが障壁になっていると図書館側は主張する。

ホランド氏は、「人々の教育を犠牲にしてでも利益の最大化を追求しようとする姿勢が表れている」と、出版社側を非難した。同氏はこの件について、連邦議会議員に面会して問題提起を行っている。

これまでに複数の州が、図書館が電子書籍を「妥当な条件で」利用できるよう出版社に義務付ける法案を検討している。ただ、電子出版社や著者は出版物の価値を下げかねないと危機感を示しており、連邦裁判所は2022年、こうした内容を規定していたメリーランド州の州法が違憲だとする判決を下している。

<図書館訴訟>

図書館におけるデジタル蔵書の扱いを脅かしかねない2件の著作権訴訟が現在、係争中だ。

出版大手4社は2020年、約4400万の印刷物と世界最大のウェブサイトのアーカイブを保存している非営利法人インターネットアーカイブを訴えた。

出版社側は、図書館が購入した書籍をスキャンしてデジタルコピーとして貸し出す「制御デジタル貸出(CDL)」と呼ばれる手法の制限を求めている。

インターネットアーカイブに対しては音楽出版社も、録音された音源を巡る訴訟を行っている。

「争点は所有権だ。図書館が所有しているものか、ライセンスか。これら2つの異なる管理方法の間には対立がある」とインターネットアーカイブのライブラリサービス責任者クリス・フリーランド氏は言う。この争点は、利用者のアクセスと資料保存という観点からも重大だと同氏は指摘する。

「所有権がないものを保存していくことはできない」

全米出版社協会(AAP)の顧問弁護士を務めるテレンス・ハート氏は昨年、「インターネットアーカイブが行っている、産業規模の書籍や資料のデジタル化は、著作権の侵害にあたる」と指摘。「作者や出版社の同意や補償もなしに、インターネットアーカイブや図書館が紙の本から作成した数百万冊もの電子書籍を一般に公開するという考え方は、法的に支持しようがない」と述べた。

裁判官は昨年、出版社側の主張を支持する判決を下したが、インターネットアーカイブが控訴し、訴訟は継続している。

所有権を巡る長年の争いが配信経路に関する議論にも拡大している、と非営利団体オーサーズ・アライアンスのデイブ・ハンセン代表は言う。同団体はインターネットアーカイブとの訴訟において、作家を代表して答申書を提出している。

ハンセン氏によれば、現在米国には4つの大手電子書籍出版社が存在し、それぞれが独自のルールを設けているという。

「著作権のもとで保証されるべきより一般的な規則が、独自の契約・条件・テクノロジーに置き換えられている」

ハンセン氏は、米出版社ジョン・ワイリー・アンド・サンズが2022年、多くの図書館で利用されている教育向け電子書籍の一覧から1380タイトルを突然削除したことを例に挙げ、こう指摘する。

「利用者がどのコンテンツにアクセス可能か、一方的に規定できてしまう力を出版社が手にしていることが示された」

その後、ジョン・ワイリー・アンド・サンズは決定を撤回し、学生に向けの安価な電子書籍の提供や、アクセス可能な書籍の拡大に尽力するとの声明を発表した。

<AI主導の図書規制>

教育委員会は、州議会が「攻撃的」だと判断した資料の閲覧を禁止する内容の新たな州法順守に向けて、新たなテクノロジーも導入している。

表現の自由を擁護する非営利団体「PENアメリカ」は、学校における禁書が近年大幅に増加し、より包括的になりつつあると指摘。2021年以降23年までの間に41州で5894件の規制が確認されているという。

米中西部アイオワ州では昨年、性的な描写を含む書籍の排除を求める州法が可決。同州メイソンシティにあるコミュニティースクールでは、本の内容が規定を確実に守っているかどうか分析する手段として人工知能(AI)が活用されている。

「9階建て規模の図書館で館内にある数千冊の蔵書を管理するにあたって、コンプライアンスを順守していない可能性のある書籍を効率的に絞り込めるツールがAIだ」と同校のパット・ハミルトン校長はメールで述べた。

昨年12月には、連邦判事が係争中はこの州法の施行を停止する判断を出した。

米シンクタンク・ブレナン司法センターで自由と国家安全保障を専門とするエミール・アユプ氏は、新たなテクノロジーの使用について、過去のAIやソーシャルメディアでの教訓が繰り返されていると話す。

「私たちは幾度もこうしたツールの限界を目の当たりにしてきた。信頼できず、内容やニュアンスを理解せず、バイアスがかかっていて、少数派コミュニティーに偏った影響を及ぼし得る」

およそ1年前に公開された生成AIプログラム「チャットGPT」などのツールは、たとえ内容に一貫性がない場合でも、表面的には客観的に見える回答を出すと、アユプ氏は指摘する。

「アイオワ州で行われたような、範囲が膨大で曖昧な図書規制は表現の自由に対する基本的な脅威だ。生成AIを規制に使えば、そうしたリスクは増長する一方だろう」

ハーバード大学が設立した図書館イノベーション研究室の研究者らは昨年、チャットGPTなどの学習に使用されている複数の「大規模言語モデル(LLM)」を検証。LLMに、特定の本の禁止を正当化する理由の作成を指示した。

有害な要求に対して安全装置が作動するかどうかは「予測不可能」で、モデルによって程度の差はあるものの75%が要求に応じたことがわかったという。

「この例で頭にとどめておくべきなのは、こうした変動性はバグではなくLLMの特徴だということだ」と研究所のマテオ・カルネルッティ氏とクリスティ・マック氏はメールで応じた。

同研究所所長のジャック・クシュマン氏はこう述べた。

「いまのところ、実際に司書と話した方が多くのことを学べるだろう」

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