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アングル:インドで総選挙控えネット遮断頻発、農家などのデモ抑圧

ロイター / 2024年3月9日 8時6分

 警棒で殴られ、催涙ガスを浴びせられ、コンクリート製の障害物や有刺鉄線で足止めされつつ、農作物価格の引き上げを求める何千人ものインド人農民らは首都に向けて行進を続けている。だが、目に見えない障害も待ち構える。ネット接続の遮断だ。写真はパンジャブ州とハリヤナ州の州境にあるシャンブーバリアで野営する農民ら。2月22日撮影(2024年 ロイター/Francis Mascarenhas)

Mehran Firdous Abrar Fayaz

[シャンブー(インド) 4日 トムソン・ロイター財団] - 警棒で殴られ、催涙ガスを浴びせられ、コンクリート製の障害物や有刺鉄線で足止めされつつ、農作物価格の引き上げを求める何千人ものインド人農民らは首都に向けて行進を続けている。だが、目に見えない障害も待ち構える。「デジタル・ブラックアウト(停電)」、つまりネット接続の遮断だ。

2月、トラクターとトラックを連ねて北部パンジャブ州から首都ニューデリーに向かっていた農民らは、携帯電話が使えなくなっていることに気づいた。州当局による一時的なインターネット遮断が原因だった。

これが初めてではない。2022年、ネット遮断の回数が世界で最も多かったのはインドだ。抗議デモの主催者は、5月に予定される総選挙を前にデジタル領域での弾圧が増えることを警戒している。

農業協同組合の指導者らが求めているのは、州からの補助金や農作物の最低買取価格に関する、法的な裏付けのある保障だ。

2月上旬、「デリー・チャロ」(デリーに行こう)と銘打った抗議行動に参加した農民らは、首都から北に約200キロメートルの地点で治安部隊に制止された。抗議参加者を押し返すため放水銃や催涙ガスが使われた。

抗議参加者は現在、パンジャブ州とハリヤナ州の州境にあるシャンブーバリア周辺で野営している。

2月12日以来、ハリヤナ州当局は数日間ずつ、定期的にモバイル接続を遮断してきた。地元メディアによれば「デマと噂の拡散を防ぎ」、「扇動者、デモ参加者の集団」が膨れあがるのを防ぐのが目的だという。

この農民らは宗教的マイノリティーであるシーク教徒のパンジャブ州出身者が多く、ネット遮断により負傷者の治療や食料の調達が難しくなったと話す。抗議活動の指導者との連絡が途絶え、活動の調整も難しくなっている。

「コミュニケーション手段を奪えば、かえって噂が拡散し、私たちの家族を悩ませるだけだ」と語るのは、28歳のハーディープ・シンさんだ。先日の警官隊との衝突で片方の目を負傷し、回復を待っている。

「ただでさえ家から遠く離れている。通信手段を奪われれば、ますます悲惨な状態になる」とシンさんは言う。

ハリヤナ州首相府と同州電気通信省にコメントを求めたが、いずれも回答は得られなかった。

抗議主催者は、モディ首相率いるヒンズー至上主義を掲げるインド人民党(BJP)政権が、抗議を圧殺するためにネット遮断の措置を繰り返してきたと批判する。

「ネット検閲の広がりと合わせて、ネット遮断という憂慮すべき傾向は、デジタル独裁主義を色濃く反映しており、選挙が近づく中でそれがますます顕著になっている」と語るのは、デジタル人権擁護団体「インターネット・フリーダム・ファウンデーション」のガヤトリ・マルホトラ氏だ。

同氏はトムソン・ロイター財団の取材に対し「こうした流れが続けば、人々の情報へのアクセスは著しく阻害され、選挙においても情報に基づいて判断することが難しくなる。集会・結社の自由、有権者としての要求を平和的に伝える自由も制限されてしまう」と語った。

<アンテナ立たず>

インドは、領有権を巡り対立しているカシミール地方や、部族間の紛争により昨年以来数十人の死者が出ている北東部のマニプール州などで、抗議行動を抑圧するため頻繁にネット遮断を実施している。

選挙や試験の期間中にモバイル接続が遮断されることも多い。2020年の最高裁判所の判決にもかかわらず、発表なく無期限で実施される例も珍しくない。

デリーで活動する啓発団体「ソフトウエア自由法センター」によればハリヤナ州におけるネット遮断の件数は、ジャンムー・カシミール州、ラジャスタン州、マニプール州に次いで国内第4位にランクされる。

農家による抗議行動に対しては、すでにネット遮断以外の権利制限も発動されている。

SNSサイトのX(旧ツイッター)では、農民らを支援しているとして数十件のアカウントが停止された。人権擁護団体や停止対象となったアカウントの所有者はこの処分について、5月に予定されている総選挙に向けて10億人近い有権者を抱える世界最大の民主国家として、憂慮すべき兆候を示していると述べている。

農家による抗議行動は今のところパンジャブ州に限られているが、収入減少への不安は広い範囲で共感を集めている。内陸の広大な農村地域で、農業コミュニティーの支援と生活水準の向上に関してモディ政権の取り組みが不十分だと見られていることが鮮明となっている。

インドの総人口14億人のうち40%以上が農業で生計を立てており、モディ政権下で家計が苦しくなっているという声は多い。

冒頭で紹介したハーディープ・シンさんは1.6ヘクタールの農地で小麦とコメを育てているが、多くの農家と同じく、農薬や農業機械などへの投資に対する見返りは乏しいという。農作物の買取価格保証がないせいで生計を立てることがますます難しくなっていると語る。

世論調査ではモディ首相があまり例のない3期目に突入することがほぼ確実視されているが、農家の不満は今後数年にわたり同氏にとって頭痛の種になるだろう。

抗議参加者が全農作物について最低買取価格の引き上げを求めていることについて農業省にコメントを求めたが、今のところ回答はない。

<「暗闇」に投げ込まれる抗議者>

農民らはネット遮断によって自分たちのメッセージを外部の世界に拡散できずにいるが、それだけではなく、受け取るべき情報や指示からも遮断されていると語る。

「私たちを否定的に描きがちな主要メディアに干渉されることなく、この抗議に十分な注目を集め、広い範囲の人々に声を届けるためには、インターネットが何よりも大切な手段だった」。こう語るのは農家のタランジート・シンさん(34)だ。

この困難を乗り越えるため、多くの農家は自分のトラクターにテレビを載せて最新のニュースを入手している。

ネット遮断によって、病人やけが人が治療を受けたり、救急車など緊急サービスに通報することも難しくなっている。

デモ行進の先頭に立つ農業協同組合の1つ、キサン・マズドール・サングハーシュ委員会のボランティア、ババ・スクデブ・シンさん(50)は「安定した無線ネットワークにアクセスするには、抗議の現場から何キロも歩かざるを得ない。貴重な時間を無駄にしているし、けがなどで緊急治療を必要としている人にとっては命取りになりかねない」と憤る。

さらに農家の多くは、この地域では通信妨害装置が使われていて、自分たちの村に残る人々に連絡して食糧の補給を頼むこともできないという。

タランジート・シンさんによれば、農民らは途方に暮れて歩き回るだけで、抗議行動のリーダーたちが自分たちに次はどんな行動を求めているのか、お互いに確認し合っているという。

タランジート・シンさんは「通信遮断のせいで、私たちは暗闇に投げ込まれている。混乱と困惑が増すばかりだ」と語った。

(翻訳:エァクレーレン)

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