アングル:欧州大手銀、融資の返済猶予が隠れた脅威に
ロイター / 2020年11月12日 16時28分
11月11日、欧州では新型コロナウイルスの大流行に伴い巨額の融資が返済を猶予されており、コロナ禍を乗り切ろうとする銀行の取り組みを揺るがしかねない隠れた脅威となっている。ローマで6日撮影(2020年 ロイター/Remo Casilli)
[フランクフルト 11日 ロイター] - 欧州では新型コロナウイルスの大流行に伴い巨額の融資が返済を猶予されており、コロナ禍を乗り切ろうとする銀行の取り組みを揺るがしかねない隠れた脅威となっている。
新型コロナの感染拡大直後に欧州各地で銀行や政府によって返済を猶予された何百万人もの借り手の一部は、移動制限第2弾で経済が収縮して人々が職を失う中、依然として救済措置が欠かせない状態だ。
だが返済猶予期間が長くなればなるほど、銀行が抱える潜在的な問題は大きくなる。債務は積み上がり、対処が一段と難しくなるためだ。
欧州中央銀行(ECB)のアンドレア・エンリア銀行監督委員長は、未返済融資の「巨大な波」は規模が1兆4000億ユーロを超える可能性があると警告し、返済猶予期間の終了を座視すれば多数の借り手が「一度に破綻する」恐れがあると指摘。不良債権の償却を先送りすべきでないとの見方を示した。
返済を猶予されている融資の総額は夏場に大きく減少したが、ロイターの調査や最新データの分析結果によると、欧州の大手10行で総額約3200億ユーロ(3800億ドル)相当の融資が依然として返済を猶予されている。
移動制限第1弾の期間中に返済猶予の動きが広がった際、貸し手側は損失への備えを進め、大手10行は貸倒引当金として約450億ユーロを計上した。
大手10行はサンタンデール
10年前の債務危機のような事態の再発を回避したい銀行としては、借り手への手厚い対応を求める政府の要求に応じつつ、融資を不良政権に分類しないという、微妙な舵取りが必要になる。
クレディ・アグリコルのフィリップ・ブラサック最高経営責任者
(CEO)は「誰もがこの局面を乗り切れるようにしなければならない」と述べ、移動制限によって打撃を受けた顧客を支援する考えを示した。同行は約240億ユーロの融資が返済猶予扱いとなっている。
債務不履行リスクの計算は複雑で、銀行は融資の種類、借り手の状況、全般的な経済情勢といった多数の要素を織り込む。
銀行側はリスク判断において現実を直視していると主張しており、多数の借り手が猶予期間終了後に返済を再開しているとの指摘も多々ある。
スペインのサンタンデールは390億ユーロの融資が返済猶予中で、96億ユーロの貸倒引当金を計上した。イタリアのインテーザは480億ユーロが返済猶予中だが、今年の貸倒引当金計上は27億ユーロにとどまっている。
インテーザの広報担当者は、返済を猶予された顧客には立ち直る力があり、危機で打撃を受けた観光業向けの融資は規模が小さいと説明した。サンタンデールはコメントしなかった。
ドイツとポルトガルの中央銀行は、仮に個人の債務問題が悪循環を引き起こせば銀行も巻き込まれる恐れがあると懸念している。ドイツ連銀は各行に「最悪のケース」に備えるよう指示。ポルトガル中銀は経済対策が縮小するリスクを警告している。
アクシオン・オルタナティブ・インベストメンツのジェローム・レグラス氏は「一部の銀行は融資の20%超が返済猶予となっている」と指摘。「ある時点で通常のビジネスに戻る必要がある」とした。
ヨーロピアン・データウェアハウスの推計によると、イタリアでは感染が最も拡大した際に住宅ローンの約10%が返済を猶予された。この比率は英国では15%を超え、ポルトガルでは12%に達した。
これ以降、大半の借り手は返済を再開している。
HSBCのイーウェン・スティーブンソン最高財務責任者は最近ロイターに、経済は徐々に改善すると予想していると語った。BNPパリバは、貸し倒れ損失は来年には次第に減少するとしている。
それでも問題は尾を引いている。
アイルランド中銀のエド・シブレイ副総裁は「欧州全域にかなりの不良債権がある」と指摘。「新型コロナ禍のせいで不良債権は増えるだろう」と話した。
アイルランド中銀による最近の調査によると、同国では返済猶予の件数が6月以降で4分の1以上減少したが、融資の9%が依然として返済を猶予されている。
感染拡大によって最も打撃を受けた業種の中でホテルやレストランは今なお休業中とみられる。
スペイン選出の欧州議会議員、エルンスト・ウルタスン氏は「現在は雇用対策が実施されているが、こうした措置は期限を迎え始める」と語り、「返済に行き詰まった借り手の数は向こう数カ月で爆発的に増えるだろう」と予想した。
だが銀行は、欧州各国で延長されている政府の支援措置が支えになると期待している。
ポルトガルの大手銀行ミレニアムBCPのミゲル・マヤCEOは「この先は企業と経済に対する支援措置の撤回が時限爆弾だ」と強調。「経済に一息つく余裕を与えなくてはいけない」と話した。
(John O'Donnell記者)
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