焦点:親と離散し米国へ、再会待ち望むアフガンの子どもたち
ロイター / 2021年11月15日 11時53分
親や法定後見人の同伴なしにアフガニスタンから米国に逃れてきた子どもたちは約1300人に及ぶ。写真はいとこと歩くサダムさん。ワシントン州レントンで10月30日撮影(2021年 ロイター/Lindsey Wasson)
[レントン(米ワシントン州) 12日 ロイター] - 10歳のマンスール君は、8月にイスラム主義組織タリバンが権力を奪還したアフガニスタンから辛うじて脱出した。現在は米ワシントン州の親戚のもとで安全に暮らしているが、母国に戻れるのかどうか大人たちに毎日尋ねている。
米軍が撤退し、さらには7万人以上のアフガニスタン人が米国に脱出する混乱の中で、マンスール君は両親と兄弟と離ればなれになってしまった。
マンスール君は親戚のショゴファさんの幼い子どもを抱いて、首都カブールの空港に足を踏み入れた。その瞬間、銃声が響き、兵士らがマンスール君と両親を隔てるゲートを閉鎖してしまった。空港で3日間過ごした後、彼はショゴファさんと共に飛行機に乗った。残りの家族も続く便で追いかけてくるだろう、とショゴファさんは願っていた。
ショゴファさんは、自身の幼い子ども2人とマンスール君、それに他の親戚らと、ニュージャージー州の米軍基地にたどり着いた。数週間後、シアトルに住む姉のニロファルさんと合流した。マンスール君の両親は現在、アフガニスタン国内に身を潜ませている。父親が同国政府で役職に就いていたためだ。
ニロファルさんによれば、このところマンスール君は独りポツンと座っている時間が長く、他の子どもたちと一緒に遊ぶことはめったにない。一家は、アフガニスタンに残るマンスール君の両親をはじめとする親戚の安全を考え、記事にはファーストネームだけを掲載するよう希望している。
マンスール君をはじめ、親や法定後見人の同伴なしにアフガニスタンから米国に逃れてきた子どもたちは約1300人に及ぶ。この数はこれまで報道されていなかったが、保護者のいない未成年者への対応を統括する米保健社会福祉省(HHS)が明らかにした。
支援者らによれば、アフガニスタンからの未成年者には、不慮の事態によりカブールで親と離散してしまった者が多いという。
こうした未成年者が置かれた複雑な状況は、言葉の壁や、米国内に保護者のいない子どもを引き取る文化的に相性のいい里親家庭が不足していることと相まって、米国政府に容易に解決できない課題を突きつけている。何より困るのは、現在米国にいる子どもたちと国外に留まっている親たちを再会させるための明確な制度が存在しないことだ。
匿名を条件に取材に応じた米当局者2人は、バイデン政権が、子どもがすでに米国内で暮らしている場合は親が迅速に入国できるようにする措置を検討している、と述べた。
人道的理由による米国入国を申請しているアフガニスタン人は多く、例外的な迅速対応がなければ、国外の親たちは長く待たされてしまう可能性が高い。
子ども・成人の避難民のほとんどは米国への一時的な入国が認められているだけで、強制送還の心配はないものの、恒久的な法的地位が与えられるわけではない。子どもたちが複雑な移民制度に対応していくには法的な支援が必要になる可能性が高い。
米政府は、国外のアフガニスタン人からの一時入国申請について、2021年8月以降で2万6000件以上に上るとしている。米市民権・移民業務局(USCIS)によると、7月1日以降に条件付きで承認された申請は100件に満たない。在カブール米大使館が閉鎖されているため、アフガニスタン人は第三国に行かなければ申請すらできない。
マンスール君の両親は、タリバン新政権に追跡されることを恐れ、基本的には携帯電話の使用を控えている、とニロファルさんは話している。マンスール君は11月1日、8月末の別離以来、初めて両親と通話することができた。
ミシガン移民権利センターのジェニファー・バネガス指導弁護士は、「自分がこの先どうなるのか分からない上に、家族がいつどのように避難してくるのか、無事でいられるかも分からない」ということが、子どもたちにとって非常に大きなストレスとトラウマになっていると指摘した。
<保護施設の状況は>
政府機関系の保護施設に収容されている保護者不在の子どもたちは、今年に入って記録した2万2000人以上をピークに、現在では1万1000人超まで減少しているが、その大半が中米出身だ。アフガニスタン出身の子どもとは異なり、中米出身の子どもたちは、すでに米国にいる両親や家族との再会を目指して自発的に単独で旅立つことが多い。
HHSは、移民の子どもたちをできるだけ早期かつ安全に米国内の保護者と再会させることを目指していると表明している。
HHSによると、保護者のいないアフガニスタンの子どもたちのうち、1000人以上が保護施設を出て、大半はマンスール君のように当初一緒に移動していた親戚と共に暮らしている。
通常、両親や法定後見人ではない家族と一緒に移動している保護者のいない子どもは、同行者から引き離されて政府の保護下に置かれる。だが米当局は9月4日に発表した政策指針の中でこの規則に例外を設け、アフガニスタンからの子どもについては、米当局者の審査で「善意の」関係にあると確認できた成人に委ねることができるものとした。
HHSは、11月8日の時点で、アフガニスタン出身の保護者を伴わない子ども266人が国内の政府系保護施設や長期養護施設に留まっていると明らかにした。
そのうち数十人については、引き取り先となるような米国在住の親戚や家族ぐるみの友人がいない。アフガニスタン出身の子どもを数多く保護しているシカゴの非営利団体(NPO)、全米移民公正センターのアシュリー・ヒューブナー氏は、こうした子どもの事例は制度の中で棚上げにされていると話す。
「この問題に関して全般的に動きが見られないというのは大変ショッキングだと思う」と同氏。「(国外脱出が始まって2カ月になるのに)これほど困難な状況のままではいけない」
前出のミシガン移民権利センターのバネガス氏によれば、ミシガン州内のスター・コモンウェルス緊急保護施設は現在126人の子どもを預かっており、9日の時点ではそのうち27人が40日以上収容されているという。
里親として候補に挙がる家庭があっても、多くは子どもたちの母国語を話せるわけではなく、アフガニスタンの慣習にも馴染みがない、と支援者らは語る。
複数のアフガン系米国人団体では、子どもを引き取ってくれる人々を地域で見つけたにもかかわらず、障害に突き当たった。里親の認可取得のための州レベルの手続きが面倒で時間を要するものだったのだ。これらの団体は11月3日に連名でHHSに書簡を送った。ロイターが閲覧したところでは、HHSに対し、「里親制度や支援、人道的理由による臨時入国許可等、親子の再会や里親あっせんのプロセスを迅速かつ簡明なものにする」ことで、子どもが直面している「疎外、不安、喪失、悲しみ」を最小限に抑えるよう求めている。
HHSは、保護施設と協力しつつ設備が文化的に適切であるよう配慮し、トラウマを負った子どもに心理的なケアを提供しているとした。また、子どもの居場所については国外の親の希望を反映するよう努めているとも説明した。
<子どもたちの苦悩>
子どもたちは、親の安否が分からないという苦悩に加えて、望んだわけでもない移住のショックにも苦しんでいる。サダム・アジズさん(15)もその1人だ。サダムさんも両親と一緒に移動するものと思っていたのに、カブール空港で長時間待機しているときに水をくみに行ったところ、両親と離ればなれになってしまった。彼が水を持って戻ってきたとき、家族の姿はなかった。
米ワシントン州に住む伯父ジャマルディン・ロハニさんによれば、家族を見失ったサダムさんは空港にいた米兵に助けを求めた。米兵らもアジズ一家を見つけられなかったため、サダムさんにカタール行きの便に搭乗し、そこで両親を探すよう指示したという。
年齢のわりに幼い顔付きできゃしゃな体格のサダムさんは、カタールに到着すると、保護者のいない移民児童のための施設に移された。
ロハニさんが最初に甥の所在を知ったのは、国連児童基金(ユニセフ)からの電話だったという。電話は、サダムさんが独りぼっちでカタールにいる、と告げた。ユニセフにもロハニさんにも、サダムさんの両親がどこにいるのかはまったく分からなかった。
「3日間、眠れなかった」とロハニさんは言う。
ロハニさんはようやく、自身の弟であるサダムさんの父親は無事だが、前政権と米軍に協力していたため、アフガニスタン国内で潜伏生活を送っているという情報を得た。
サダムさんには、ロハニさんを頼る以外の道はなかった。伯父といっても、もう何年も会っていなかった。
サダムさんはまず、ミシガン州の緊急児童保護施設に移され、新型コロナウイルス感染症(COVID─19)のための検疫期間を過ごした。「甥は私に電話をかけ、『怖いよ、ここには何もないよ』と言った」とロハニさんは話す。政府の児童養護担当者がロハニさんに語ったところでは、サダムさんは両親がいつ迎えに来るのかと繰り返し尋ねていたという。
数週間後、彼は伯父に引き取られていった。その後サダムさんは家事の手伝いをしつつ、学校にも通っている。だが、警備員として働いているロハニさんは、長期的に甥の面倒を見ることはできないのではないかと気を揉んでいる。「1年間はたぶん大丈夫。その後は厳しい。稼ぎは少ないし、大家族だから」とロハニさんは語った。
行きがかりで他人の子どもと一緒に移動することになった国外避難者も、そうした子どもをいつまでも世話することはできないと語る。支援者らによれば、同行者との関係が破綻した何人かの子どもたちは、政府系の保護施設に入所することになったという。
先日の土曜日、サダムさんは従兄弟たちと共にビデオゲームやバスケットボールを楽しみ、隣人がリモコンの自動車で遊んでいるのを眺めていた。ロハニさんは、新たな家庭のリズムに合わせるためにサダムさんは精一杯がんばっている、と言う。
だがロハニさんによれば、サダムさんが今も「お父さんお母さんはいつやってくるの」と聞くという。ロハニさんには「分からない」としか答えられない。
(Kristina Cooke記者、Mica Rosenberg記者、Lindsey Wasson記者、翻訳:エァクレーレン)
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