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焦点:バーナンキ氏の「評決」待つ英中銀、インフレ予想失敗で批判の矢面に

ロイター / 2024年3月16日 8時36分

3月11日、イングランド銀行(BOE、英中央銀行)が、インフレの高騰を予測し損ねたとして議会から批判され、経済予測方法の見直しを迫られている。写真はロンドンの同銀。2023年7月撮影(2024年 ロイター/Hollie Adams)

David Milliken

[ロンドン 11日 ロイター] - イングランド銀行(BOE、英中央銀行)が、インフレの高騰を予測し損ねたとして議会から批判され、経済予測方法の見直しを迫られている。

BOEはノーベル経済学賞を受賞したバーナンキ元米連邦準備理事会(FRB)議長に予測方法の見直しの指揮を依頼し、4月に同氏の報告書が発表される見通し。BOEの予測方法、そして市場との対話方法を刷新する「一世一代の」チャンス(BOEのチーフエコノミスト、ヒュー・ピル氏)となりそうだ。

新型コロナウイルスのパンデミックに伴う供給の混乱と、ロシアのウクライナ侵攻による天然ガス価格の高騰を背景に、英国のインフレ率は22年10月に41年ぶりの最高水準である11.1%を記録した。

英議会上院の経済委員会は昨年11月、調査報告書を発表し、BOEの予測方式の「不備」と狭い視野が、インフレ抑制に失敗した原因だと指摘した。この報告書をきっかけに、科学とアート、そして当て推量の組み合わせである難解な経済予測の世界を、一般市民が垣間見ることになった。

ロイターは、BOE金融政策委員会(MPC)の現職と元職を含む8人の主要エコノミストにインタビューし、BOEのアプローチの弱点や、変更すべき点などを聞いた。

22年にMPCから退任したマイケル・ソーンダース氏は、「多くの、そしてしばしば大半のMPCメンバーが経済実態を現実的に描写していないと思っている予測を、BOEは発表している」と指摘し、インフレや成長率などの重要指標の予測を出す際の内部プロセスの機能不全を改革すべきだと語った。

これに対する抜本的な解決策としては、FRBのような経済・金利予測の「ドットチャート」を導入する案がある。またインタビューで幅広いエコノミストの支持を得たのは、メーン予測と併せて複数の代替シナリオを公表する方法だ。

現MPCメンバーのジョナサン・ハスケル氏は代替シナリオの活用を支持すると述べ、そうすればBOEの外の人々にとってBOEモデルの機能を理解する一助になる上、不確実性についての「合理的なパラメーター」にもなると述べた。

<特殊な事情>

BOEと他の中銀が直面した大きな試練の1つは、インフレ率が過去に22年ほどの水準まで上がったのが何十年も前だという事実だった。大半の経済モデルはそこまで昔のデータに基づいて構築されていない。

数十年前の数字を算入してモデルを再構築することは可能だが、1980年代の英国と今では、労働組合、エネルギー源、貿易相手など、多くの要素が変わっている。

しかも、BOEのモデルは世界金融危機時を除き、過去30年間はおおむね穏やかな環境下で経済を予測してきていた。それが突然、欧州連合(EU)離脱、パンデミック、ウクライナ侵攻と、立て続けに大きな出来事に見舞われたわけだ。

インベステックの首席英国エコノミスト、フィリップ・ショー氏は、「英国のインフレ率が諸外国より高かったためにBOEは批判を浴びたが、英国は欧州の天然ガス市場への依存度が他国より高い」と説明し、「そのことでBOEを責めようとは思わない」と述べた。

<ドットチャート採用案>

予測モデルは本質的に、足元の基調から近未来を推定するか、もしくは過去のデータに基づいて失業と賃金上昇率など、経済理論上の関係に肉付けするかの、いずれかの手法を採る。

これに国際エネルギー価格や為替レートなど、一連の「前提条件」を組み込んで予測を導き出すため、条件が変われば予測結果も変わる。

BOEが用いている重要な前提条件のうち、(1)金融市場の予想通りに金利が動く(2)政府の税制・財政支出政策は変更されない――という条件が見直しの対象になるかもしれないと一部専門家は予想している。

上院経済委員会は11月の報告書で、BOEの文化に多様な見方が欠如していると批判した。

MPCは現在、インフレ率その他の指標について集合的な予想しか発表しておらず、内部の意見相違が隠されてしまう可能性がある。エコノミストらへのインタビューによると、バーナンキ氏の見直しでは、FRB型のドットチャートの採用が検討される可能性がある。

FRBは12年以来、当時のバーナンキ議長による透明性強化の取り組みの一環として、連邦公開市場委員会(FOMC)メンバー各々が金利、成長率、インフレ率の見通しを出し、それを匿名でドットチャートの形で公表している。

ソーンダース氏は「個々のメンバーに、今後の金利見通しを示す機会を与えている」点がドットチャートの利点だと解説し「これはかなりうまく機能したと言わざるを得ない」と語った。

現MPCメンバーのミーガン・グリーン氏も、同じ理由でドットチャートが「かなり気に入っている」と述べたが、金利に関するコミットメントだと市場に誤解されないかが心配だと付け加えた。

ドットチャートの採用には反対意見もある。

シンクタンク、レゾリューション・ファウンデーションの調査ディレクターで、長年BOEのスタッフだったジェームズ・スミス氏は、MPCが集合としての予想を示しているため、他の中銀に比べて政策委員が嫌でもお互いに対話するようになっていると指摘。個々の予想を示す方式に変えれば「何か非常に大切なものが失われる可能性がある」と語った。

<代替シナリオ案にも異論>

複数の代替シナリオを示す案にも批判がある。

BOEは既に、メーンシナリオ以外に1つの代替シナリオを発表している。BOEが市場予想通りに金利を変更するのではなく、据え置いたと仮定した場合の成長率、インフレ率、失業率の予想だ。

サラ・ブリーデンBOE副総裁は先月の講演で、需要が予想外に弱い場合と、インフレが予想外に長引く場合という2つの代替シナリオを検討することは、政策を考える上で非常に有用だと述べた。

しかしインベステックのショー氏は、代替シナリオの策定には時間を要する上、BOEのメッセージがぼやけかねないと指摘。「シンプルなメッセージを出すことと、複数のリスクを検討することの間には、間違いなくトレードオフが発生する」と述べた。

BOEとしての公式予想を誰が作るかも重要な問題だ。

FRBと欧州中央銀行(ECB)は政策メンバー自身ではなく事務方が予想を作成しているため、公式予想は市場との対話における重要度は相対的に低い。

しかしBOEの公式予想はMPCが作成しているため、投資家はそれを政策シグナルだと受け取る。例えば、2、3年後のインフレ率が目標の2%を大幅に超えているとの予想を出せば、現在の市場の金利予想は適切ではないとBOEが考えていることになる。

英国立経済社会研究所の副ディレクター、スティーブン・ミラード氏はBOEの公式予想について「3つのことを同時にやろうとしている。予想を作成し、MPCの政策決定を助け、MPCと市場との対話を助けているのだ」と明かし、バーナンキ氏には、MPCメンバーの仕事から予想作成を取り除くよう提言してほしいと要望した。

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