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焦点:日本企業が海外M&Aで存在感、低金利や株主圧力背景に

ロイター / 2024年3月18日 10時34分

 3月18日、日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)が活発化している。写真はニューヨークのビル群。2023年7月撮影(2024年 ロイター/Amr Alfiky)

Makiko Yamazaki Scott Murdoch Kane Wu

[東京/香港/シドニー 18日 ロイター] - 日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)が活発化している。余剰資金を成長力の高い国外へ振り向ける流れが加速し、年初からの総額は5年ぶりの高水準で推移。買い手としての経験も積み重ね、M&A市場で世界的に存在感を増している。

低金利が続く国内で買収資金の借り入れコストが依然低いことや、株主からの圧力を受けて資本効率向上のための投資を積極化していることなどが背景にある。日銀が近く利上げをしても金利の上昇は緩やかとみられる一方、金融緩和策の修正を受けて円安圧力が和らげば、日本企業による海外M&Aの意欲はさらに高まる可能性がある。

<日本企業は安定的な買い手>

ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のデータによると、2023年に日本企業が手掛けた海外企業の買収案件は前年比81%増の580億ドル。日本を除くアジア太平洋地域のM&A市場が26%減少する中で日本の活況ぶりが目立った。今年に入っても流れは継続し、3月中旬までの総額は166億ドルと、2019年以来の高い水準だ。

成長余力のある海外での収益基盤強化を狙った企業買収は2000年代から増えてきたが、足元は大型案件が相次いでいる。

昨年12月に日本製鉄が米鉄鋼大手のUSスチールを約2兆円で、今年2月にはルネサスエレクトロニクスが半導体ソフトウエア開発のアルティウムを約9000億円で買収することを発表した。東京ガスは、昨年末に約4000億円で買収した米シェールガス開発のロッククリフ・エナジーを通じて米国で成長を狙う。

投資銀幹部や弁護士らM&Aのアドバイザーによると、コロナ禍で対象会社の調査などが抑制されていた反動が出ているほか、東京証券取引所による資本効率改善要請やアクティビスト株主からの余剰資金の還元圧力を背景に、収益力向上を目的とした資金の使途としてM&Aに着目する企業が増えていることが要因の1つにあるという。

バークレイズ証券投資銀行部門M&Aアドバイザリー部長の大塚雄三氏は、「株主からのプレッシャーが高まる中、成長のために待ったなしで前に進まなければいけない、という感覚は日本企業の中で徐々に強まっている」と話す。

日銀による大規模金融緩和の転換点が近づいているものの、金融引き締めは緩やかなペースに留まると予想されており、日本企業が買収資金の調達コストで有利な状況は変わらないというのが業界関係者の一致した見方だ。利上げで円安基調が修正されれば円建てでの買収価格は割安となるため、海外M&Aをさらに促す可能性も指摘されている。

国際法律事務所フレッシュフィールズブルックハウスデリンガーのパートナー、ノア・カー氏は「数年前と比べて、日本企業は買い手としてより歓迎されている」と話す。欧米での金利高止まりや中国経済の低迷などで世界のM&A市場の回復が遅れる中、日本企業は取引相手として信頼度が高く、安定して資金調達ができることなどが評価されているという。

<なお高づかみのリスク>

海外M&Aは、組織文化の違いや現地の情報不足などを理由に難易度が高いとされる。日本企業はかつて、M&Aの「意思決定が遅い」、「買収先の経営関与が不得意」といった印象を持たれていたが、成功、失敗両方の経験が蓄積されてきたことで状況は変化しつつある。

みずほ証券グローバル投資銀行部門グローバルアドバイザリーヘッドの木戸明宏氏は、M&A人材の流動化も日本企業の経験値の底上げに寄与していると話す。投資銀行で経験を積んだ後に事業会社に転職してM&A業務を担う人材が増え、「案件の落とし穴を事前に把握し、おかしな高値づかみやリスクに目をつぶった買収などはなくなってきた」と語る。

また、ビジネス経験のある社外取締役の増加が案件の選別に一役買っているほか、不得手とされた買収先の経営についても、買収した企業の現地の幹部を目利き役として取り込んで新たな買収につなげるルネサスのような企業も出てきている。

一方、株主や東証からの資本効率改善のプレッシャーによって、精査が不十分なまま海外M&Aに乗り出すリスクを懸念する声もある。コンサルティング会社、ベイン・アンド・カンパニーのパートナーで日本法人会長の奥野慎太郎氏は、「世界経済の不確実性や地政学的リスクの高まりによって買収によるシナジー多く見込んだ買収価格設定が難しくなっており、海外の事業会社はこのところ、買収に対して非常に慎重になっているが、例外は、借り入れコストが低くキャッシュを持っている日本企業」と指摘する。

過剰なキャッシュに対する株式市場の目が厳しくなる中、解決策として安易に海外買収を選択すると、高値づかみや将来の減損リスクを高めることになると警鐘を鳴らす。

日本企業によるM&Aの活況を背景に、一部の金融機関や弁護士事務所ではM&Aの人員を増強している。みずほ証券の木戸氏によると、同社のM&Aチームはこの3年で1割ほど増員した。フレッシュフィールズは最近、日本で複数の米国法弁護士を新たに迎えた。別の国際法律事務所のクリフォードチャンスも、日本市場の成長に合わせ、この一年間でチームを拡大したという。

(取材協力:清水律子、Selena Li 編集:久保信博)

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