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育児給付延長「保育園落選ねらい」ストップの厚労省方針 働くママ6割「ルールが問題」と反論 専門家が解説

J-CASTニュース / 2024年2月15日 18時31分

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保育園の送り迎え(写真はイメージ)

育児給付の延長をあてこむ「保育園『落選ねらい』」が横行しているとして、厚生労働省が審査の厳格化の検討を始めたことが働くママたちにどよめきを与えている。

働く主婦・主夫層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2024年2月6日に発表した緊急調査「保育園『落選狙い』って、どう思う?」によると、「保育園落選狙いは迷惑」とする声より、「落選しないと育休延長できないルールが問題」とする声のほうが上回った。

問題の解決策を専門家に聞いた。

あえて倍率高い保育園を希望する目的

働くママたちにショックを与えたのは、朝日新聞(2023年12月5日付)「保育園の『落選狙い』抑止へ 育休審査を厳格化、厚労省が検討」といった新聞各紙の報道だ。

そもそも育児休業給付は原則1歳までだが、例外的に保育園に入れない場合などは最長2歳まで延長でき、賃金の50%まで支給される。保育園に落ちた際に自治体から受け取る「保留通知書」があれば、ハローワークで育休給付の延長申請ができる。

報道によると、子どもを保育園に入れて復職する意思がないのに、育休給付を得るために、あえて倍率が高い保育園を希望する「落選ねらい」が各地で横行。本当の入園希望者が落選したり、自治体の業務が増えたりする問題が指摘されていた。

このため、厚生労働省はハローワークで延長申請を受ける際、復職の意思をしっかり確認するなど、審査を厳格化する方針の検討に入ったというのだ。

そうしたなかでおこなわれたのが、しゅふJOB総研の調査(2024年1月17日~24日)。就労意向のある主婦層589人が対象だ。

まず、「育休をとるとしたら、2年まで延長したいと思うか」と聞くと、「保活の結果に関係なく思う」(35.0%)と「保活がうまくいかなければ思う」(27.3%)を合わせて、6割以上(62.3%)が「延長したい」と答えた【図表1】。

そして、保育園の落選ねらいが起きていることに関して意見を聞くと(複数回答可)、「落選しなければ育休延長できないルールが問題」(64.3%)が最も多かった。ついで、「本当に保育園に入りたい人に迷惑をかけている」(37.5%)、「自治体が保育園を十分提供できていないことが問題」(31.93%)と続いた【図表2】。

しゅふJOB総研では、同じ調査を5年前の2019年にも行っている。そこで、落選ねらいについてどう思うか、2024年と2019年を比較したのが【図表3】だ。

これを見ると、「ルールが問題」とする意見が5年前より3.8%増える一方、「迷惑をかけている」とする意見も3.4%増えている。

これは、落選ねらいを擁護する意見、批判する意見の双方が増えたかたちだ。また、「自治体が保育園を十分提供できていないことが問題」とする意見が、5年前より15.4%も減ったことが目立った。

「会社にも迷惑をかける、卑怯な考えです」

フリーコメントでも、落選ねらいに対する賛否両論が相次いだ。まず、批判的な意見をみると――。

「私自身、自営業なので(入所の家庭状況をポイント化した)点数が低く、育休もなく、保育園に2年連続落ちてしまいました。運良く4年保育の幼稚園に入れたが、本当に大変だったので、ただただ迷惑です」(30代:フリー/自営業)
「会社にも迷惑をかけているし、卑怯な考えだと思う」(30代:パート/アルバイト)
「どんなルールにも穴はある。それをわかってやるか、やらないかは個人次第」(40代:パート/アルバイト)
「そういう人が周りにたくさんいる」(50代:パート/アルバイト)

一方、ルールや制度を変えるべきだとする意見をみると――。

「性の差に関係なく、育休を取りたい人、1年くらいで働きたい人、それぞれの事情に柔軟に対応出来る社会に全くなっていないなと思う」(40代:パート/アルバイト)
「そもそも育休を取れない会社が多すぎることが問題」(40代:今は働いていない)
「落選しても、違う保育園を探したらよいのではないでしょうか?」(50代:フリー/自営業)

また、

「自社に保育所を設ける、子連れも曜日や時間を決めてでもいいからOKにするなど、みんなで助け合う必要がある」(40代:今は働いていない)
「時短正社員のように、正社員のまま時短を選べるようになるとよい」(40代:正社員)

といった改革案も出された。

子育てに専念か、キャリアへの影響の心配か

J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――ここにきて、厚生労働省が「保育園の落選ねらい」阻止のために給付延長申請を厳格化する方針だというニュースが、働くママに動揺を与えています。「異次元の育児支援に逆行するのでは」と違和感を抱く人もいますが、背景には何があると思いますか。

川上敬太郎さん 政府としては、決して育休を2年取得することを否定したいわけではないのだと思います。ただ、育休の主旨としては原則1年であること、落選することを期待してあえて倍率の高い保育園に申し込む、いわゆる落選狙いは望ましい手法ではないことなどをしっかりと示したいという意図があるのではないでしょうか。

――しゅふJOB総研の2019年調査と今回(2024年)の調査を比較すると、育休を2年まで延長したい人が56%から62%(子どもがいる人は65%)増えています。

すでに、多くの働くママには「子育て社員には、最長2歳までに育休支援」がインプットされており、「改めてそうではないのか?」とショックを受けたとの意見も聞かれます。

川上敬太郎さん かつて、まだ育休を2年まで延長して取得できるようにするかどうかを検討していたころに調査した際も、すでに賛成の声のほうが多く聞かれました。賛成する主婦層の意見として多かったのは、子育てにその分専念できるという声です。

一方、延長に反対する意見としては、キャリアへの影響を懸念する声が多く見られました。その後、実際に育休が2年まで延長できるようになり、実際に取得する人が出てくるようになるにつれて、キャリアへの懸念より子育てに専念できることのメリットを実感する人のほうが徐々に多くなってきたということなのかもしれません。

いまも育休の延長は不要とする声もありますが、多くの人たちが育休の2年取得を受け入れていると感じます。

――2019年調査と今回調査を比較すると、「本当に保育所に入りたい人に迷惑をかけている」という項目と、「育休延長のためには致し方ない」という項目がともに減少しています。

これは、落選ねらいを批判する意見と、擁護する意見がともに減っており、矛盾する回答にみえますが、どういうことでしょうか。

川上敬太郎さん 落選ねらいという行為自体は望ましい手法ではないという認識がある一方で、育休期間を延長するためにはほかに方法がないというジレンマは、以前からずっと存在しています。

ただ、落選ねらいをめぐって「本当に保育所に入りたい人に迷惑をかけている」と「育休延長のためには致し方ない」との相反する項目がいずれも減少したのは、落選ねらいが個人の悪意というよりも、ルールが引き起こしている不可抗力だと認識する人が増えたということのように思います。

実際、今回調査で「落選しなければ、育休延長ができないルールが問題」とする意見が若干増加しているのは、その表われのように感じます。

「落選」の例外を設けず、ルールをシンプルに

――フリーコメントでも落選ねらいは賛否両論です。こうした問題を解決するには、ズバリどうしたらよいと思いますか。

川上敬太郎さん そもそも育休の2年取得自体に賛否両論があるため、誰からも不満が出ない解決策を出すのは難しそうです。ただ、落選狙いが起きている現行ルール自体は見直しが必要だと思います。

現状のままだと、育休延長したい人の落選ねらいはなくならず、その分、保育園に入りたい人は入りづらくなり、自治体はそのつど事務手続きや落選狙いをめぐるクレーム対応などに追われてしまいます。

落選したら延長できるという複雑な仕組みは改め、最初から2年まで育休取得できるようにするか。あるいは逆に、1年までとする、などルールをわかりやすくする必要があるのではないでしょうか。

――仕組みをシンプルにするということですね。

川上敬太郎さん ただ、問題なのはルールだけではありません。

潜在待機児童へのケアまで視野に入れた保育環境の整備や、育休取得者の女性偏重解消、子育てを通じて培われたソフトスキルに対する評価など、行政と家庭と企業それぞれのなかにある課題についても並行して取り組まないと、ルールを改めるだけで解決できるものではないのだと思います。

育休延長を選ぶ人も、保育園を選ぶ人も、どちらも選ばない人も、事情は人それぞれです。また、どの選択をしても課題があり、その内容もそれぞれです。

落選ねらいについてはルールの問題ですが、子育てをめぐる課題は支援環境の整備や性別役割分業、多様な働き方の選択肢など全方位的にまだまだ不十分。それだけに、総合的に対策を進めていく必要があるのではないでしょうか。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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