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「女性は『管理職』を目指さなければならないのか」 あなたの人生と、「おひとり様」老後の貧困回避のため(2)/ニッセイ基礎研究所の坊美生子さん

J-CASTニュース / 2024年3月5日 18時6分

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管理職になると喜びが増える

管理職は「罰ゲームか?」といった否定的な論調が多いなか、女性が管理職に就くことは「メリット」が大きいと言う女性研究者がいる。

「おひとり様」の老後を襲う「貧困リスク」の防止になるばかりか、「管理職になると、これまで見えなかった地平が開け、人生のプラスになる」というのだ。

全女性にエールを贈るニッセイ基礎研究所の坊美生子さんの渾身のリポートと、インタビューをお届けする。

ドラマ『逃げ恥』「百合ちゃん」が理想の管理職

<「女性は『管理職』を目指さなければならないのか」 あなたの人生と、「おひとり様」老後の貧困回避のため(1)/ニッセイ基礎研究所の坊美生子さん>の続きです。

――女性が管理職を目指すためには、どんな心構えが大切だと思いますか。

坊美生子さん 『逃げ恥』という大ヒットしたテレビドラマをご存知ですか。2016年にTBSで放送された、『逃げるは恥だが役に立つ』です。「契約結婚」した新垣結衣さんと星野源さん演じる「偽装夫婦」が、本当の恋愛に発展するストーリで、実生活でも2人は本物の夫婦になってしまいました(笑)。

このドラマでは、主演の2人以上に中高年女性から人気を博したのが、脇役で登場する石田ゆり子さん演じる「百合ちゃん」でした。独身のバリキャリで、管理職。仕事はできるが、グイグイと部下を引っ張っていく、昭和の古典的な管理職タイプではありません。

上層部にはいっさい忖度しないかわりに、部下には本音で溶け込んでフラットな関係を築いていきます。自然体でチームをまとめる新しいタイプの管理職なのです。ネットでは「アラフィフ女性の心に刺さる、百合ちゃん名言集」といったサイトまで登場したほどです。

――「百合ちゃん」みたいな管理職を目指そう、ということですか。

坊美生子さん 「百合ちゃん」にヒントがありますが、「百合ちゃん」になれ、というわけではありません。管理職像はいま多様化しており、いろいろなタイプがいます。グイグイ引っ張っていく人もいれば、協調型もある。自分らしい、自分に合ったタイプの管理職になればいいということです。

一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年(2023年)10月に行ったアンケートで、大企業で働く45歳以上の女性のうち、管理職希望のある456人に「自分が管理職になるとしたら、どのようなタイプを目指すか」と聞きました。

圧倒的に一番人気だったのが「部下の意見をよく聞き、強調して仕事を進める協調型」(約39%)で、「百合ちゃん」タイプに近いです。次に多いのが、「部下をグイグイ引っ張っていくグイグイ型」と「言葉で説得する論理型」と「温厚で、人望でまとめていく人望型」で、いずれも15~17%とほぼ同じでした。

もう、グイグイいくだけが管理職の時代ではありません。自分の性格に合った、自分らしい管理職を自然体でやっていけばよいのです。特別な気構えや気負いは必要ありません。また、管理職の業務が多すぎて「これは部下に任せても問題ない」という仕事がある場合は、権限を部下に委譲すればいいでしょう。

企業に対するインタビュー調査では、管理職昇進と育児の時期が重なった女性は、積極的に「権限移譲」を行って業務量を減らし、管理職の仕事を回していた、という事例も聞きました。

夫は家事育児をしっかり分担して

――なるほど。女性が管理職を目指すには周囲、特に夫や企業はどういう取組が必要でしょうか。

坊美生子さん 女性が職場で活躍するためには、家庭において、夫婦が家事育児を適切に分担することが必須です。

調査では、「自分が管理職になっても構わない」と回答した女性の条件に、「育児や介護など、家族のケアが一段落すること」とともに「夫が、家庭の仕事をもっと分担すること」を挙げた人が多かったです。

一方、企業に対しての希望で多かったのは「管理職の給与水準の改善」と「管理職の評価水準の改善」です。これは、責任が重くなり、業務負荷が大きくなるので当然の要望です。

ほかにも注目されるのは「管理職の業務内容や職務範囲の見直し」と「上位の管理職からの支援やアドバイス」、「管理職の残業時間を抑える仕組みや風土づくり」を求める声が高かったことです。

もっと、企業のマネージメントや風土、慣習を変えてほしいということです。

女性の昇進意欲のネックになっているのは、組織運営のあり方や働き方の問題です。アンケート結果を眺めていると、管理職を敬遠する女性側から「管理職の給与が低すぎる」「業務が多すぎる」「残業が多すぎる」という声が聞こえてきそうです。

家庭や企業の状況が現在のままだと、管理職に就きたいという中高年女性は約1割にとどまりましたが、こうした家庭と企業の課題を解決できれば、管理職を希望する女性は「4人に1人」まで増えることが、今回のアンケートでわかったのです。

衝撃の調査「中高年女性正社員は4割が未婚」

――ところで、シングル女性の将来の「貧困リスク」に関連して、「中高年女性会社員は4割が未婚」(2024年1月22日付)という非常に衝撃的な調査を発表していますね。

私はこれを読み、ショックを受けました。【図表5】を見ると、女性正社員では40代後半で約42%、50代前半で約46%、50代後半で約39%の人が未婚という結果です。正社員として会社に残るために、結婚をあきらめなければならなかった(?)女性がこれほど多いのか、と。

坊美生子さん 今回のアンケートでは、総合職より一般職の方が、未婚の割合が大きいという結果が出ました。国勢調査では、40代後半から50代の正社員女性の未婚割合は15%~24%ほどですが、私たちの調査では、大企業で働く女性に限定したことや、回答者に占める一般職の割合が約8割と大きいことから、未婚割合が高めに出ている可能性があります。

現在の中高年の世代では、多くの女性が結婚・出産を機に退職していたため、結果的に、会社に残っている女性は「未婚」が多いと考えられます。特に、現在の50歳代以上は、育児休業が法制化される以前に出産期を迎えた人が多いため、出産退職が多かったでしょう。

そして、いったん退職した女性が再就職する時には、パートなどの非正規が多いというのが実情だったと思います。つまり、「未婚が4割」という数字は、日本では女性が結婚・出産を経て、中高年まで会社で正社員として働き続けることが、いかに困難だったかを示しています。

――ひどい話ですね。

坊美生子さん 私にとってもショッキングな調査結果で、このリポートを執筆しつつ心が苦しくなりました。

「未婚」であること自体がいい、悪いということではありませんが、中高年女性にとって、「働き続ける」ということが、結婚や出産とのバーターとなってきたということ、ライフステージを上がるためには、どちらかを「選択」しなければならなかったという状況には、胸が痛みました。逆にいえば、未婚であるほうが、転勤や残業などがある正社員の仕事を続けることに、有利であったともいえるのですから。

何歳からでもキャリアと収入アップの努力を

――最後に、今回のリポートのことで特に強調しておきたいことがありますか。

坊美生子さん 若い女性にとって、今は結婚・出産・子育てといったこれからのライフステージを考えることで精いっぱいだと思います。しかし、日本では、だんだん改善されてきているとはいえ、依然として男女の賃金格差が続いています。

ぜひ、はるか先ですが、自分の老後のことを想像していただきたいです。女性がシングルになれば、「貧困リスク」の可能性が高くなります。結婚すれば夫がいるから必ず大丈夫、とはなりません。離婚したり、死別したりするケースもあります。また現実には、未婚率が高くなっていますから、結婚しない可能性も大きいのです。

いまのうちから、自分のスキルを磨き、難しい仕事でも引き受けて、自分のキャリアと収入アップの努力を続ければ、老後の貧困リスクを遠ざけることができるでしょう。そして、自律的に働く女性を目指してほしい、というのが願いです。

中高年の女性も、働けるのはいまのうちです。定年が近い方も、「あと数年だから」と仕事の夢や目標を諦めるのではなく、新しいことにチャレンジすれば、きっと張り合いが増えるのではないでしょうか

――そして、やはり管理職を目指すのですか。

坊美生子さん 女性が管理職に就くことのメリットは大きいと思いますが、必ずしも管理職でなくてもいいと思っています。チームリーダーとか、係長とか、管理職の補佐的なポストでもいいでしょう。

大切なことは、さまざまな仕事にチャレンジして能力を発揮し、いまよりキャリアアップと年収アップを目指してほしいということです。

老後のリスクを避けるためということはありますが、それよりもっと、仕事の面で新しいことに挑戦したほうが面白いじゃないですか。結果的にモチベーションも上がり、毎日、生き生きとして楽しく暮していけるのではないかと思います。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)


【プロフィール】
坊 美生子(ぼう・みおこ)
ニッセイ基礎研究所生活研究部准主任研究員
2002年読売新聞大阪本社入社、2017年ニッセイ基礎研究所入社

主に中高年女性の雇用と暮らし、キャリアデザインを研究。日本は世界の中でもジェンダーギャップが最低ランクで、働く女性の賃金や老後の年金にも大きな男女格差があり、老後の女性の貧困リスクは増している。
そこで、女性がもっと自然体で、自律的に、生き生きと暮らしていくためには、社会全体のジェンダーギャップ解消が必須と考え、多くの研究リポートを発表。また、生活者の視点から、高齢者が利用しやすく、外出促進につながる移動サービスのあり方についても研究。
現在、「次世代自動車産業研究会」幹事、日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員。

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