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焦点:ガザ混乱に乗じるプーチン氏、反欧米色鮮明に「影響力強化」狙う

ロイター / 2023年11月21日 19時9分

 イスラエルに対するイスラム組織ハマスの奇襲攻撃で多くの犠牲者が出たのは、ロシアのプーチン大統領の71歳の誕生日だった。同大統領がコメントしたのは事件の3日後、非難の矛先はハマスではなく米国だった。写真はヨルダン川西岸で、デモの最中にロシアのプーチン大統領の写真を掲げる女性。10月20日撮影(2023年 ロイター/Yosri Aljamal)

Andrew Osborn

[ロンドン 17日 ロイター] - イスラエルに対するイスラム組織ハマスの奇襲攻撃で多くの犠牲者が出たのは、ロシアのプーチン大統領の71歳の誕生日だった。同大統領がコメントしたのは事件の3日後、非難の矛先はハマスではなく米国だった。

プーチン氏はイラクのスダニ首相に対し、「中東和平プロセスを独占しようと試みた米国の、中東政策の失敗の実例であることに多くの人が同意すると思う」と語った。

プーチン氏がイスラエルのネタニヤフ首相に対し、約1200人のイスラエル国民の死に対し哀悼の意を示したのは、さらに6日後だった。その10日後、ロシアはハマスの代表団が協議のためモスクワを訪れていることを明らかにした。

ロシア、西側諸国の政策専門家によれば、プーチン氏はイスラエルの対ハマス戦争を利用して、西側諸国に対する「存亡を賭けた戦い」と称するものをエスカレートさせようとしているという。目指すのは、米国の優位に代えて、すでに誕生しつつあると同氏が考える多極的システムに移行する新世界秩序だ。

元ロシア政府顧問のセルゲイ・マルコフ氏は、「米国・欧州はイスラエルを全面的に支持しているが、米欧は今や悪の象徴になっており、どうしても正義になりえないというのがロシアの理解だ」と自らのブログに投稿し、プーチン氏には米欧とは別の立場を打ち出す必要があると説明する。

「したがって、ロシアは米欧と同じ立場には立たない。イスラエルにとって最も重要な同盟国は、当面ロシアの主敵である米国だ。そしてハマスは、ロシアの盟邦であるイランと手を結んでいる」

ロシア政府はますますイラン政府との関係を強化している。イラン政府はハマスを支持し、米政府は、ロシアがウクライナとの苛酷な消耗戦で運用しているドローン(無人機)はイランからの供給によるものだとして、イラン政府を非難している。

ベルリンで活動するロシア外交政策の専門家ハンナ・ノッテ氏は、カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターに対して、ロシアはかつてのようなバランス重視の中東政策をすでに捨てており、「露骨にパレスチナ寄りの立場」を採用している、と語った。

「ロシアはこうした政策全般を進めるなかで、中東全域の、そしてもっと広くグローバルサウスの人々が抱くパレスチナ問題に対する意見に寄り添っていることを理解している。こうした地域ではパレスチナ側の主張が共感を呼んでいるからだ」とノッテ氏は指摘する。

米国の影響力を低下させる新世界秩序へと突き進んでいく中でプーチン氏が獲得したいと思っているのは、まさにこうした地域の人々からの支持だ。

「ロシアが今回のガザ危機を利用する際に一番重要なのは、グローバル世論という法廷において得点を重ねることだ」とノッテ氏は言う。

プーチン氏はこれまでに、「(ガザにおける)苦悩と血塗れの子どもたちを見れば、誰もが拳を握りしめ、目に涙を浮かべる」と語っている。

<米欧の「ダブルスタンダード」を批判>

ロシアの政治家は、米国政府がイスラエルによるガザ空爆を無条件に認める一方で、ロシアによるウクライナ侵攻に懲罰的な対応を取るという姿勢を指摘する。ウクライナでは多数の民間人が殺害されているが、ロシア政府は意図的に市民を標的にすることはないと弁明している。

イスラエルの国連大使は、ウクライナにおける所業を考えれば、ロシアは他国に何か説教できる立場にはないと述べている。

だがロシアのアレクセイ・プシュコフ上院議員は、西側諸国は、私利私益に基づく政治的な好き嫌いをもとに相手国によって扱いを変えるダブルスタンダードぶりを自ら露呈するという落とし穴にはまった、と指摘する。

「米国と西側諸国は異口同音にイスラエルの行動を支持したが、アラブ世界やグローバルサウス全域から見れば、それによって西側諸国の外交政策は手痛い一撃を受けた」とプシュコフ上院議員は通信アプリ「テレグラム」に投稿している。

またマルコフ元ロシア政府顧問は、ロシアは今回の危機について、あらゆる当事者とのルートを持つ有力な和平仲介者として振る舞うことで、中東地域における存在感を増大させるチャンスだと捉えているという。

ロシア政府は中東諸国外相会議の開催を呼びかけており、プーチン氏は、ロシアには支援の用意ができていると述べている。

プーチン氏は10月、アラブのテレビ局に対して、「私たちはイスラエルとの間にとても安定した実務的な関係を維持しているし、パレスチナとも数十年にわたる友好関係があり、私たちの友人たちはこれを承知している。私としては、ロシアは和平プロセスにも独自の貢献をなしうると考えている」と語った。

マルコフ氏は、経済面でも潜在的なメリットがあると指摘し、西側の財政的・軍事的リソースがウクライナから逸らされることもありがたい副産物だと続ける。

「この戦争による原油価格の上昇もロシアにとっては有利だ」とマルコフ氏は言う。「(さらに)米国とEUがリソースを投じなければならない紛争が生じればロシアの利益になる。ウクライナの反ロシア体制を支えるリソースがそれだけ減るわけだから」

<対イスラエル関係は悪化>

一方で、これまで緊密で実用主義的だったロシアとイスラエルの関係は悪化しつつある。

10月7日のハマスによる攻撃から2週間も経たない時点でハマスの代表団を受け入れたロシアに怒ったイスラエルは、ロシアのアナトリー・ビクトロフ駐イスラエル大使を呼び出し、「テロを正当化するメッセージ」を送ったとして抗議した。

不満はお互いにある。イスラエルのアレクサンダー・ベン・ツビ駐ロシア大使も少なくとも2回、ロシア外務省との協議に呼び出されており、ロシアの国連代表がイスラエルの自衛権の範囲について疑問を呈したことを受けて、両国の代表団のあいだでは厳しい言葉が飛び交っている。

ロシアの外務副大臣の1人であるミハイル・ボグダノフ氏によれば、イスラエルはロシアの同盟国であるシリアに対する空爆を行うときは事前にロシア政府に警告するのが習慣だったが、これを取りやめているという。

イスラエルの閣僚がガザに対する核攻撃も選択肢の1つと示唆してその後停職処分となった件について、ロシアはそうした発言が「非常に多くの疑問」を呼び起こしたと述べている。

ネタニヤフ首相の与党リクードでリバタリアン系の派閥を率いるアミール・バイトマン氏は、イスラエルはいずれ、ロシア政府の姿勢に罰を与えるだろうと述べた。

バイトマン氏は10月、ロシア国営放送RTによるインタビューの中で、「私たちは(ハマスとの)戦争を終わらせようとしている。その後、ロシアは代償を払わなければならない」と述べた。

「ロシアはイスラエルの敵を支援している。私たちは彼らがやっていることを今後も忘れはしない。私たちはいずれ、ウクライナに勝利をもたらすことになる」

(翻訳:エァクレーレン)

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