アングル:米「洪水多発地域」で開発急増、不動産活況と土地不足で
ロイター / 2024年3月25日 13時44分
米東海岸のノースカロライナ州ニューハノーバー郡に、大西洋の沿岸からほど近い場所に新たに完成した建物群がある。写真はハリケーン「ドリアン」の直撃後、冠水したホテルの駐車場と倒木。2019年9月、同州ウィルミントンで撮影(2024年 ロイター/Jonathan Drake)
David Sherfinski
[ウィルミントン(米ノースカロライナ州) 14日 トムソン・ロイター財団] - 米東海岸のノースカロライナ州ニューハノーバー郡に、大西洋の沿岸からほど近い場所に新たに完成した建物群がある。元海洋学者のロバート・パー氏は、白いピックアップトラックでそのそばを通りながら、こう口にした。
「どうかしている。ここで開発が行われるべきではなかった」
パー氏は「郡政府と電話で連絡するとほぼ必ず、30日以内に深刻な洪水が起きるんだ」と話し、冠水した道路などのスライドを示した。
気候変動リスクを追跡する団体「ファースト・ストリート財団」によれば、急速に発展する同郡はここ数年、度重なる暴風雨被害に見舞われている。同地は今後30年以上の間、重大な洪水の再発リスクにさらされ続けるという。
パー氏ら活動家は、この場所からウィルミントン中心部を隔てて北にある約8エーカー(約3万2400平方メートル)の土地で予定されている新たな大規模開発を阻止しようと奮闘している。その土地も、洪水被害が起きやすいためだ。
人口が増加し続ける中、氾濫原や気候変動リスクの大きな地域でどのように建設を進めるべきか──。洪水や山火事といった危機が差し迫る地域に流入する住民や開発事業が後を絶たないため、米当局はこうした問題の対応に追われている。
<開発>
ウィルミントン周辺では、海面上昇など複数の要因により、豪雨以外でも洪水が繰り返し発生しやすいケープフィア川の西岸地域一帯の対処に、自治体政府は長年頭を悩ませている。
近隣の大部分は、いまだ工業地帯に指定されている。空地の拡大から、高密度な複合利用目的の再区分まで、開発の構想は多岐にわたる。
開発業者はこれまでに、「ポイントピーター」という名で知られるケープフィア川とノースウエストケープフィア川が合流する地点で、3棟の高層ビル、550戸のコンドミニアムユニット、300戸のアパートの建設を提案した。ただ、郡当局が長期プランの査定にさらなる時間を要求したため、この計画は2021年に頓挫した。
KFJデベロップメントグループのカーク・ピュー氏は、対応の遅さに不満を示し、ケープフィア川流域周辺での建設は支障なく竣工できると話す。
当初の案には「犠牲になる1階」や雨水の集水と放出を可能にする 設計が含まれており、淡水の洪水が起きた場合には水が「自由に」移動する仕組みだとピュー氏は説明した。
「氾濫原で建設を行うべきでないという議論に関して言うならば、郡の大部分が氾濫原だ」
開発反対派は、海面上昇や気候変動により同地域での豪雨や洪水被害が悪化の一途をたどっている傾向を踏まえると、規模を縮小させても建設を進める意味はないと主張する。
「『リスキー』という言葉はふさわしくない」と河川保護団体ケープフィアリバーウォッチ(CFRW)のケンプ・バーデット氏は言う。
「リスクという言葉は、洪水が起きる可能性も、起きない可能性もある場合に使うものだ。あの場所では、洪水は不可避だ」
米セントラルフロリダ大学の2021年の研究によると全米40地域の中でもウィルミントンでは、過去70年の潮位変化の影響で、高潮による浸水被害に見舞われる日数に最も顕著な増加が見られたという。
ニューハノーバー郡内にある約4割の物件で、今後30年間で洪水の甚大な被害を受ける可能性が26%を超えるとファースト・ストリート財団は予測している。
<「どの毒を選ぶか」>
米南東部や国内で急成長を見せる地域で、開発計画者が直面している課題の1つが、より強力なハリケーンや豪雨の可能性が高まっているにもかかわらず、人口急増と相まって開発可能な土地が不足していることだ。
昨年発表された研究によれば、洪水リスクを軽減するため政府が買い上げて住民を退去させたノースカロライナ州の氾濫原の土地1カ所につき、10軒以上の住宅が1996年から2017年の間に新たに建設されたという。
ニューハノーバー郡の人口は2010年から20年までに11%増え、約22万5000人になった。同期間の全米での人口増加率は7.4%だった。
不動産企業レッドフィンが2023年に実施した調査によれば、 比較的低い生活コストや海に近いといった立地の魅力に引かれ、気候変動による洪水や森林火災、熱波などの悪化リスクを抱える地域へと全米から人々が流入しているという。
レッドフィンのチーフエコノミスト、ダリル・フェアウェザー氏自身も2020年、ワシントン州シアトルから中西部ウィスコンシン州に移り住んだ。悪化する山火事の煙から避難することが移住理由の一つだったが、昨年カナダで発生した史上最悪規模の森林火災により米国の広範囲が煙に覆われ、移住先でも深刻な大気汚染に見舞われる結果となった。
「米国内で気候変動リスクに直面していない場所はどこにもない」とフェアウェザー氏は言う。
「どの気候変動危機になら耐えられるか、どの毒を選ぶか、というだけの話だと思う」
<水と生きる>
ポイントピーターから川を下った場所にある戦艦「ノースカロライナ」は、第二次世界大戦で実際に使われた艦船で、現在は主要な観光地だ。この場所で、駐車場の一部を生き物が暮らす湿地に復元させ、残りの駐車場部分を高台に作り変える「水と生きる」プロジェクトが始動した。
数週間前に行われたプロジェクトの開幕式では、駐車場が冠水していた。
「美しい光景だった」と、元米海軍司令官で同戦艦の責任者を務めるテリー・ブラッグ氏は、艦内を案内しながら振り返った。
「冠水で駐車場から観光センターまで直接抜ける歩道が閉ざされ、小走りで通るか、茂みをよじ登るしかなくなった。(洪水リスクを周知する)メッセージとしては、まずまずだ」
米国内の他の州も環境の変化に順応すべく、さまざまな手段を模索している。リスクがある地域での開発に制限を設けることもその一つだ。
昨年、豪雨被害に見舞われたバーモント州では複数の議員が、河川付近での建設に州の許可を義務付ける法整備を進めている。
また、テネシー州では今月、湿地帯開発に関する規制撤廃を求める動きを州議会議員らが退けた。
ニューハノーバー郡などの沿岸地域に残された時間はわずかだ。CFRWのバーデット氏は、2050年までにポイントピーターは水没すると予測している。
「2050年というとまだ先のように聞こえるが、住宅ローンを払い終えるよりも前の話だ。次世代のことではない。(ポイントピーターでの開発は)無謀な話に思える」
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