アングル:コロナ禍の不動産投資、生命科学施設への関心高まる
ロイター / 2021年4月26日 11時49分
4月20日、英ロンドンの「ナレッジ・クォーター(知識集積地区)」と呼ばれる一角にあるフランシス・クリック研究所は、以前から投資家の注目を集める存在だった。画像はオックスフォード大が計画する生命科学研究棟のCG。提供写真(2021年 ロイター/Arqui9/ NBBJ)
Carolyn Cohn
[ロンドン 20日 ロイター] - 英ロンドンの「ナレッジ・クォーター(知識集積地区)」と呼ばれる一角にあるフランシス・クリック研究所は、以前から投資家の注目を集める存在だった。だが、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)に伴い、生命科学関連のオフィス・研究所物件に対する関心は新たなレベルへと引き上げられた。
投資家はこれまでも、医療機器から製薬などのセクターにまたがる生命科学系の企業・研究所が利用する欧州域内の不動産に関心を注いでいた。人口の高齢化や、欧州域内における充実した学術研究といった背景があったからだ。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックによって、その流れはさらに加速している。
不動産投資企業アシュビーキャピタルのピーター・フェラーリ最高経営責任者(CEO)は、「皆がこのパンデミックに苦しんでいるせいで、生命科学は過去に例のないほど脚光を浴びている」とロイターに語った。
アシュビーキャピタルは1月、モントローズ・ランドとの提携により、生命科学研究の中心地である「ナレッジ・クォーター」の中心部にあるエドワード朝時代のビルを購入した。フランシス・クリック研究所の生物医学研究センターにも近い。
このビルは、2024年に生命科学関連のテナントへの賃貸を開始するべく改装を進める予定だ。アシュビーキャピタルによる同セクターへの投資はこれが最初だが、フェラーリCEOは、「さらに1、2件」似たようなプロジェクトに着手する足掛かりにしたいと希望している。
投資家らは、英国及び他の欧州諸国における都市中心部・郊外双方のサイエンスパーク(科学研究機関の集積地区)では、景気後退に強い傾向がある生命科学産業の入居に向けた不動産需要があると話している。
アナリストや投資家らによれば、オンラインショッピングや在宅勤務の拡大により店舗・オフィス物件が不振に陥る中で、不動産投資の新たな行き先が求められているという。
不動産仲介会社CBREによれば、欧州における2020年の商業不動産投資は、総額2770億ユーロ(約35兆9800億円)で、パンデミックの結果、前年比17%減となった。
欧州の不動産投資のうち生命科学セクターに向かうのは1%未満だが、アーバン・ランド・インスティテュート(ULI)による最近の報告書によれば、同セクターに対する政府やベンチャーキャピタルによる活発な投資が、不動産投資家がこれに便乗する動きを促しているという。
不動産仲介会社JLLの試算では、最大150億ポンド(約2兆2600億円)が英国内の生命科学関連の不動産投資のために用意されているが、これまでに実際に投資されたのは、そのうち10%に満たないという。
JLLで英国内の生命科学担当部門を率いるグレン・クロッカー氏によれば、1月には不動産デベロッパーや投資家から、生命科学セクター関連の不動産投資について協議したいという打診が20件あったという。2020年に100件の相談があったのに続き、関心の強さが反映されている。
生命科学の中心地となるにふさわしい地域は限られる。近隣には大学や病院といったインフラが求められるし、良好な生活・文化環境も必要だ。
UBSで欧州域内不動産担当のアナリストを務めるザカリー・ゲージ氏は、最近の記者会見で「急に関心が高まったことには、やや懐疑的だ」と語った。生命科学関連の不動産物件には専門的な性質が伴い、取引が難しい場合がある、と同氏は説明する。
<「黄金の三角地帯」>
英国における生命科学の中心地である通称「黄金の三角地帯」、つまりロンドン、オックスフォード、ケンブリッジに囲まれた地域は欧州の最先端を走っているが、オランダの都市ライデンのバイオサイエンスパークといった地域も、欧州における主要な生命科学研究拠点の1つであり、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)傘下のワクチン製造企業ヤンセンが立地している。
プライベートエクイティ投資大手であるブラックストーンによる英国内における生命科学関連の不動産投資は、企業価値200億ドル(約2兆1640億円)のポートフォリオ企業バイオメッド・レアルティを介して行われており、ケンブリッジのサイエンスパークに立地する複数のビルが含まれている。
バイオメッドで東海岸・英国市場担当プレジデントを務めるビル・ケイン氏はロイターに対し、「パンデミックにより、生命科学産業とその研究者らは最前線に立った」と指摘。「人材とスペースに対して非常に大きな需要がある」と語った。
一方、英国の保険・投資グループであるリーガル&ジェネラル(L&G)は昨年、オックスフォード大学の建築プロジェクト「ライフ・アンド・マインド・ビル」に2億ポンドを投資した。
L&Gで上級投資マネジャーを務めるエレナ・ジュークス氏は、「生命科学セクターに大きな関心が集まっているという事実があり、今のところリスクは回避されている」と語り、購入意欲の高い「膨大な資本」があるため、関連の不動産の評価額は上昇していると付け加えた。
L&Gは最近、ケンブリッジのサイエンスパーク内のビル5棟を売却した。入札競争は激しく、売却額合計は評価額を59%上回る9700万ポンドに達した。
不動産関連の人材派遣会社スースー・パートナーズのギャダ・スースーCEOによれば、米国の投資家とカナダの年金基金だけでなく、中東諸国の資本も関心を見せているという。
不動産への需要は供給を上回っている。不動産コンサルタント企業ビッドウェルで調査ディレクターを務めるスー・フォクスリー氏によれば、研究所関連の需要は40万平方フィート(約3万7000平方メートル)以上に達しているが、供給は10万平方フィートに満たないという。
<求められる特別仕様>
だが、このセクターは気の弱い人には向いていない。
生命科学関連のビルは、通常のオフィスや研究室から、テクノロジー上の特別なニーズを伴う「ドライ・ラボ」に至るまで、さまざまである。
ビルには、電力供給の追加、危険物を安全に廃棄できる体制、平均よりも高い天井といった特別な条件が課される場合がある。
不動産コンサルタント企業エイビソン・ヤングでマネジングディレクターを務めるカール・ポッター氏は、「そうした点で追加のコストが発生する」と語る。
「そのコストは賃料に転嫁せざるをえない」
ULIの報告書によれば、「ナレッジ・クォーター」内のキングスクロス駅周辺の一流オフィスの賃料は1平方フィートあたり年83ポンドで、シティ地区の81ポンド、カナリーワーフ地区の51.50ポンドを上回っている。
投資家・デベロッパーとしては、将来のテナントが誰になるのか、単独なのか複数なのかが必ずしも明らかでないまま、ビルの改装を進めざるをえない。
ビンチUKデベロップメントで開発担当ディレクターを務めるリチャード・ファッグ氏は、これによって「投資価値を確保できるのか」という疑問が生じると指摘し、「強い確信が必要になる」と言葉を添える。
デベロッパーには、不動産物件の用途を比較的容易に変更できるような柔軟性が求められる。業界関係者によれば、ビルを特別仕様にしてしまうと、それ以外の新たなテナントに売り込むことは難しくなるかもしれない、と語る。
設計事務所パーキンス&ウィルで首席マネジングディレクターを務めるスティーブン・チャールトン氏は、「商業用不動産のデベロッパーはどこも皆、生命科学セクターに関心を寄せている」と語る一方で、現実的な難しさが足かせになるかもしれないと指摘する。
だがUBSのゲージ氏は、生命科学関連の不動産のブームが短命なものに終るリスクがあると言う。「COVID-19に対する条件反射的な反応が起きているのではないかという懸念がある」
(翻訳:エァクレーレン)
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