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アングル:疲弊する経済、かすむ原発是非の議論 国政と隔たり=新潟知事選

ロイター / 2022年5月27日 18時14分

 原発の再稼働は国政レベルでの関心の高さに比べ、地元ではその是非をめぐる議論は盛り上がりに欠く。資料写真、東京電力・柏崎刈羽原子力発電所、2012年11月撮影(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[柏崎/東京 27日 ロイター] - ホテルニューグリーン柏崎の支配人・柴野孝宏さん(44)は営業環境が思わしくないことに頭を悩ませている。JR柏崎駅前という好立地にあるものの、1998年開業当時の全盛期と比べると169ある部屋の稼働率は現在、半分程度に落ち込んでいる。東京電力・柏崎刈羽原子力発電所のバスツアーなど観光需要が消失したほか、原発作業関係者の宿泊も減っている。

「宿泊者の半分以上が原発関係者という時期が多かったが、今は少ない。昔は2-3カ月の長期出張もあったが、現在は短期でのお客さん」という。原発関係の宿泊客は、全体から見て3割から4割程度といい、安全工事などの作業員が多く、原発が稼働していた時のような定期点検はないため、長期の宿泊客は少なくなっている、と話す。

今月29日に投開票される新潟県知事選挙では、現職の花角英世氏(64)と新人の片桐奈保美氏(72)の2人が立候補。ともに無所属で花角氏は4年間の実績をアピール、片桐氏は原発再稼働への反対を訴えている。

<薄れる関心>

原発の再稼働は国政レベルでの関心の高さに比べ、地元ではその是非をめぐる議論は盛り上がりに欠く。新型コロナウイルス禍で地元経済が疲弊して関心が生活の立て直しに向かっている影響も大きい。

地元の有力紙、新潟日報が21日に実施した調査によると、今回の県知事選で有権者が最も重視するのは景気・雇用対策(38%)で、原発への対応は8%の5位にとどまった。前回知事選の2018年の時はそれぞれ17.4%、21.7%と原発への対応が最多だった。

18年の県知事選で野党統一候補を支持していた連合新潟は今回、現職支持に転じた。牧野茂夫会長は、「コロナ禍で経済が疲弊しているのが前回と異なる」といい、「有権者は(脱)原発より先に経済対策ではないのか」と理由を説明する。

原発が立地する柏崎市の経済規模をみると、市が独自試算した市内総生産は、12年の3608億円から19年は3211億円に11%縮小。人口も11年1月の9万0998人から22年4月は7万9668人まで減少している。

経済規模縮小の原因について新潟県統計課は「発電電力量がゼロとなり、原発を動かすことによって生み出す付加価値つまり発電金額がゼロになった」ためとみている。

柏崎市で産業機材の卸などを営む石坂泰男さん(57)は「原発が動かないことによって、定期検査など常に回っている仕事がなくなっている。7基どれかが定期検査していれば当然どこかで仕事がある」として早期の再稼働を切望する。

原発再稼働反対派の星野幸彦・柏崎市議(58)は「ロシアによるウクライナの原発攻撃は推進派も衝撃だったのではないか」と指摘する。しかし「つなげよう脱原発の輪 上越の会」代表の植木史将さん(47)は「ウクライナ問題で原発反対論が盛り上がっているはずだと反対派の人たちは言うが、私の予想を超えて原発反対の世論は下がっている」といい、「住民は良くも悪くも関心がないという感覚」と話す。

総出力で世界最大級の柏崎刈羽原発では昨年テロ対策の不備が発覚。原子力規制委員会は今年1月、東電側に原因究明の再検証を求めるなど、運営体制が疑問視されており、現時点で再稼働のメドは立っていない。

現職の花角氏は原発再稼働を争点として前面に打ち出していない。自民党新潟県連の小野峯生幹事長は「柏崎刈羽については、(花角)知事も(テロ対策不備で)東電に厳しい態度を取っており、(再稼働が)近づくという認識は私は持っていない」と話し、花角知事が再選しても「再稼働はまだ白紙状態」と明言する。

<原発再稼働、加速への思惑>

一方、政治の中枢、永田町では違った風景がみえてくる。今回の知事選の結果を全国の原発再稼働につなげたい、との思惑だ。

自民党の電力安定供給推進議連(会長・細田博之衆院議長)は原発再稼働の加速を提唱しており、全国の原発再稼働前倒しの契機にしたい考え。同議連幹部は「再稼働反対派の前・元知事(米山隆一氏や泉田裕彦氏)と花角さんは異なる」として、柏崎刈羽原発の再稼働に期待しており、日本全国の原発についても「動かさないといけない」と強調する。

11年の東日本大震災による東電福島第1原発事故により停止した全国の原発で現在稼働しているのは定期点検中のものを含め10基のみ。停止中の原発で最も早く再稼働が見込まれている島根原発2号機では、島根県議会が26日再稼働に正式に同意したものの、安全対策に必要な工事は完了しておらず、中国電力は再稼働を23年度以降としている。

自民党内では、ロシアのウクライナ侵攻を受け、「ロシア(サハリン2)から輸入している液化天然ガス(LNG)の代わりに、米シェールが(価格高騰などの)競争で入手が困難なときに、原発再稼働で賄うべきとの意見が増えている」(幹部)。

岸田文雄首相は今月5日、英国での講演で「既存の原発1基が再稼働すれば、年間100万トンのLNGを世界市場に新規に供給するのと同じ効果がある」と述べ、原発再稼働への意欲を示唆した。現時点で政府側から再稼働を加速するとの議論はないが、「参院選後に本格的に検討する」(与党関係者)との見方が多い。

(竹本能文、小宮貫太郎、久保信博 取材協力:杉山健太郎 グラフィック作成:照井裕子 編集:橋本浩)

*写真を追加して再送します。

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