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「うつるから話しかけないで」クラスの友だちが急によそよそしくなった…ある障害を抱えた女性は「注文に時間がかかるカフェ」を開いた

47NEWS / 2024年4月1日 10時30分

幼少期から吃音に苦しんでいた奥村安莉沙さん=2023年12月9日撮影、大阪府大東市

 小学2年の秋にあった授業参観まで、自分がみんなと違うなんて思ってもいなかった。けれど、その日を境に、クラスで一番仲の良かった友達の男の子が急によそよそしくなった。
 彼は私の机まで来て言った。「しゃべり方がうつるかもしれないから、話さない方がいいってお母さんに言われた」
 当時は言われた意味が分からなかった。でも今思えば授業参観の日、彼のお母さんは私より先に私の障害に気付いたんだ。
 話はあっという間に学校中に広がった。「話すとうつる」は「触ったらうつる」、「近づいたらうつる」と変わっていった。小学6年の時には、廊下を歩くと、どんなに人がいっぱいいても、私の前だけ人波がかき分けられ道ができた。
 いつしか、話すこと自体を避けるようになっていた。「人と違う」とされた話し方に気付かれたくなかったからだ。私にとって吃音(きつおん)という障害は当時まだ隠したいものだった。

【記者が音声でも解説しています】


昨年末始めた「号令に時間がかかる教室」の授業風景=23年12月9日、大阪府大東市

 ▽まぶしく見えた帰り道のカフェ
 奥村安莉沙さん(32)はカフェ店員に憧れていた19歳の時も、吃音を隠したい気持ちは変わっていなかった。飲み物を作って、カウンター越しにお客さんと会話する―。心の中ではそんなアルバイトを夢見たが、会話を避けていた自分には無理だと諦めていた。
 実際に働いたのは、地元・相模原市の町工場。車の部品を組み立てる工程に会話は不要だった。同世代のバイトはいない。工場からの帰り道、働きたかったカフェの前を通ると、店内の照明がきらきらして見えた。
 大学在学時の就職活動では、面接で自分の名字を言う段階でつまずいた。「お、お、お、お…」。持ち時間の2分が過ぎる。前に座っていた面接官が気まずそうな顔で「…次の方どうぞ」と遮った。
 結局、200社以上に落ちた。吃音について、面接官が知っていたのは、採用してくれた訪問介護会社1社だけだった。


オーストラリア留学中の奥村さん=2016年撮影、オーストラリア・メルボルン(奥村さん提供)

 ▽「こんなカフェを日本で作る」
 2016年、以前から興味があった語学留学のため、会社を辞めオーストラリアに渡った。24歳の時のことだ。語学学校の先生が勧めてきたのが現地のカフェでのアルバイト。障害がある人や移民などハンディのある人に社会経験を積んでほしいという考えのオーナーだった。
 そこで、奥村さんは言語障害のある40代ぐらいのオーストラリア人の男性スタッフと出会った。言葉は一切話せず、コミュニケーション手段は身ぶりと手ぶりだけ。奥村さんより症状は重そうだった。
 でも驚いた。彼が生き生きと楽しそうに接客していたからだ。しかもお客さんも彼の言語障害を気にするそぶりがなかった。
 「きちんと話せないと無理」という固定観念が、がらがらと音を立てて崩れていくような気がした。そして決めた。「こんな雰囲気のカフェを私も日本で作る」


帰国後、初めて実施した「注文に時間がかかるカフェ」の参加者=2021年8月撮影、東京都世田谷区(奥村さん提供)

 ▽専業化のきっかけになった「吃音あるある」
 帰国後の2021年8月、「注文に時間がかかるカフェ」を始めた。交流サイト(SNS)で同じ吃音を持つ仲間を募り、一緒に店員をやった。カフェの名前は、店員がオーダーを聞く時、言葉に詰まるから。お客さんは友人に頼んだ。
 症状が出ても生き生きと接客する店員と、それを温かく見守るお客さん。オーストラリアで見た光景を再現した。
 楽しくて、これなら仕事が休みの日に、年1回ぐらいで続けたいなと思った。その時は、まさか仕事を辞めて活動に専念するなんて思ってもいなかった。
 きっかけは3回目の企画で、店員役として新潟から参加した男子高校生の言葉だ。
 「これまで同じ吃音のある人に出会ったことがなくて、一人で悩みを抱え込んでいた。みんなで接客ができて良かった」
 奥村さんは以前から吃音は外見では分からないから、隠して生きる人も多いと感じていた。「当事者同士で悩みを共有できず、孤立することがある。東京や大阪など都市部には当事者の団体があるが、地方には少ない」とも指摘する。
 彼の話は「吃音あるある」の一つだった。「だったら私が出向けばいいや」。思い切って勤務先を退職した。


奥村さんの活動を変えるきっかけとなった、3回目の企画に新潟から参加した高校生(当時)=2022年6月撮影、富山市(奥村さん提供)

 ▽沈黙はあるけど、気にしないで
 活動も今年で3年目。これまで全国30カ所以上で、100人を超す当事者が店員を務めてくれた。体験後、表情が明るくなったり、外出が怖くなくなったりしたという反応を聞くのが一番うれしいことだ。実際にカフェで働き始めた人もいる。
 カフェに参加した教員志望の大学生から「きちんと話せないんなら教員は諦めた方がいいと教授から言われてしまった」との相談を受けた。いてもたってもいられず、昨年末には「号令に時間がかかる教室」も始めた。教員志望の学生の当事者に模擬授業を通じて自信をつけてもらい、生徒役の一般参加者に症状を広く知ってもらいたいと思った。
 自身がカフェのアルバイトを諦めたように、吃音が原因でやりたい仕事に就けないという思いを、他の当事者の人たちにはもうしてほしくなかった。吃音があっても時間をかければできることは多いと思う。だからこそ、訴えたい。
 「沈黙は起きてしまうけれど、周りの人はあんまり気にしないでほしいな」
 奥村さんの願いだ。


「号令に時間がかかる教室」で授業を見守る奥村さん

 【編集後記】
 記者の私が奥村さんを取材する中で、気になる言葉があった。それは「注文に時間がかかるカフェ」の参加希望者の中で、時々急きょ参加をキャンセルする人が出るという話だ。
 奥村さんが、そのうちの一人の女性に理由を聞くと打ち明けられたという。
 「家族から『参加して吃音だということが周囲に分かれば差別されるから行くな』と言われた」
 奥村さんは「吃音は長らく恥ずかしいものとされ、当事者はいかに隠すかを考えてきた。そのため症状に対する一般の理解が広がっていないのでは」と懸念している。
 なぜこうした状況にあるのか。専門医で自身も当事者である旭川荘南愛媛病院(愛媛県)の岡部健一院長に問題の背景を聞いた。


「吃音相談外来」を開設した旭川荘南愛媛病院の岡部健一院長=2023年7月

 「吃音に関する正確な情報を持つ人は少なく、無知と誤解が偏見につながっている」。岡部院長は「吃音相談外来」を開設し、長年患者の相談に乗ってきた経験からそう話す。
 岡部院長によると、吃音がある人は100人に1人と言われており、大勢の前で話すと症状が出る人、リラックスしていると出る人など、症状が出るタイミングはさまざまだ。原因は遺伝や周囲の環境とされており、近くにいても症状がうつることは決してない。
 その上で岡部院長は打ち明ける。「症状を知られたくない人もいて、カミングアウトしづらい社会の雰囲気があるのが現状だ」
 奥村さんが言っていた「吃音があっても時間をかければできることは多い。周りの人はあんまり気にしないで」という言葉。そこから始めてみようと思った。(共同通信=西村曜、吉田梨乃)

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