「洞窟」と呼ばれる世界初の「核のごみ」最終処分場、建設現場を記者が歩いた フィンランド、地下深く放射線の影響がなくなるまで「10万年」眠らせる
47NEWS / 2024年4月26日 10時0分
むき出しとなったごつごつした黒っぽい岩盤を頭上の蛍光灯が照らし出す。地下約450メートルのトンネル。息苦しさはなく、気温11度で氷点下の地上よりいくぶん暖かく感じる。ここはフィンランド南西部、オルキルオト島にある世界で初めて建設が始まった原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分場、「オンカロ」(洞窟)だ。2月下旬、内部が報道陣に公開された。原子炉から取り出された使用済み核燃料は放射線の影響がなくなるまで10万年、ここに眠ることになる。早ければ年内に操業開始の可能性がある。(共同通信ロンドン支局 伊東星華)
▽総延長50キロの巨大地下空間
オルキルオト島はバルト海に面する。自然が豊かでトナカイなど野生動物も出没し、夏季は狩猟目的の客も訪れる。フィンランド国内で稼働する原子炉5基はオルキルオトと南部ロビーサの2カ所に分かれる。このうち、オルキルオトには欧州最大級の3号機を含め、3基が集中し「原発の島」と化している。
蛍光色の安全ベストと緊急用酸素吸入器を身につけ、地上から数人乗りのエレベーターで約1分。あっという間にオンカロ内部に到着した。オンカロの地下坑道は、人の出入りや機械を運び込む曲がりくねった地下道と核燃料を保管するトンネルからなる。これまで掘削したトンネルは5本だが、操業開始後も掘り続けて最終的には100本以上になる予定だ。将来は総延長が約50キロの巨大な地下空間が誕生する。
オンカロの事業者ポシバ社が用意した乗用車で暗い地下道を数分走ると、トンネルにたどり着いた。足元は工事で使用した水などでぬれていた。「やがてはこの下に使用済み核燃料が埋められることになる」と、ポシバ社の地球物理学者トミー・ピルティッサロ氏は説明した。
フィンランドのオルキルオト原発。三つの原子炉建屋が並ぶ。左奥は使用済み核燃料の中間貯蔵施設=2月28日(共同)
フィンランドで初めて原発が稼働したのは1970年代後半、ロビーサ1号機だ。その後、1980年代初頭にかけてロビーサ2号機、オルキルオト1号機、オルキルオト2号機が相次ぎ稼働した。2011年に日本で起きた東京電力福島第1原発事故後も、フィンランドでは原発推進の方針を維持した。
政府は、2035年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指している。近年は風力やバイオマスによる発電にも力を入れているが、ロシアが2022年にウクライナに侵攻した影響により欧州でエネルギー危機が起きると、原発を支持する世論が高まった。
フィンランド・オルキルオト島の高レベル放射性廃棄物の最終処分場「オンカロ」の最終予想図(ポシバ社提供・共同)
原発は、2023年はフィンランド国内電力需要の40%超を占め、最大の電力供給源となっている。オルポ首相は今年3月21日にブリュッセルで開かれた原子力エネルギーの首脳会合で「フィンランドは45年も原発を安全利用してきている。欧州最大級の原子炉によって安価な電力をより多く供給できるようになる」と技術を誇った。
使用済み核燃料が埋められる予定のトンネルで事業計画を説明するポシバ社の地球物理学者トミー・ピルティッサロさん=2月28日、フィンランド・オルキルオト島(共同)
▽「トイレなきマンション」に初のトイレ
国際原子力機関(IAEA)によると、世界で初めて原子力による発電が始まった1954年から2016年末までの間、地球上で生じた使用済み核燃料は39万トンに上る。環境保護団体グリーンピースの報告書は、世界で毎年約1万2千トンのペースで増えていると指摘する。これだけの核のごみが増えているにもかかわらず、最終的な処分に至った国はない。原発が「トイレなきマンション」とも言われるゆえんだ。
使用済み核燃料の処分方法として、他国への輸送や、再処理してウランやプルトニウムを取り出して再び燃料として利用する核燃料サイクル構想、再処理せずにそのまま廃棄する直接処分がある。
高レベル放射性廃棄物の最終処分場「オンカロ」にある使用済み核燃料を保管する縦穴の模型=2月28日、フィンランド・オルキルオト島(共同)
フィンランドの場合、旧ソ連から原子炉を導入したロビーサ原発では過去に使用済み核燃料をロシアに返還していた時代もあった。だが1994年に原子力法が改正されて使用済み核燃料の輸出入が禁止となり、再処理せずに高レベル放射性廃棄物として国内で処分することになった。現在はロビーサとオルキルオトそれぞれの原発に併設される中間貯蔵施設で使用済み核燃料が保管されている。
放射線レベルの高い使用済み核燃料は地下深くの安定した地層の中に埋設する処分方法「地層処分」が最も好ましいとされている。フィンランド政府は1983年、地層処分の方針を決定した。国内100以上の調査候補地を4カ所にしぼり、2001年に議会は原発が立地するオルキルオトを処分場建設地とすることを承認した。
フィンランド国内5基の原子炉から生じる使用済み核燃料は全て、オンカロで最終処分することになる。政府は最大6500トンの搬入を承認しており、満杯となるのは2120年代だという。
フィンランド・オルキルオト原発のビジターセンターに展示された、原発3基とオンカロの位置関係を示した図解=2月28日(共同)
▽20億年の岩盤内に10万年
核燃料の処分手順はこうだ。原子炉から取り出した燃料は高温のため中間貯蔵施設のプールで40年かけて冷やしながら放射線レベルが減衰するのを待つ。その後、オンカロの真上に立ち、地下につながる「カプセル化工場」と呼ばれる建物に運ぶ。核燃料はそこで筒状の鉄製鋳造物に入れられ、さらに腐食に強い銅製キャニスターに封入した上で、オンカロのトンネルに降ろされる。
トンネルの床面には8メートルほどの間隔で深さ8メートルの縦穴が掘られている。そこにキャニスターを入れ、さらに浸水を防ぐためにベントナイトという粘土鉱物で周囲を覆う。最後はトンネル自体もベントナイトなどで埋める。全てのトンネルが埋まった後は地下道も閉鎖する。処分場に人が立ち入れないようにし、10万年の時がたつのを待つことになる。
使用済み核燃料を保管するキャニスターの模型について説明するポシバ社のパシ・トゥオヒマー広報部長=2月28日、フィンランド・オルキルオト島(共同)
恐ろしく長い時間をかけた処分計画だ。地震の恐れはないのか気がかりになっていると、ポシバ社のパシ・トゥオヒマー広報部長は「岩盤は20億年前にできたもので、現在も原状をとどめている。とても安全だ」と強調した。
放射性物質が漏れ出すことはないのか。ピルティッサロ氏は「漏れることがあるとすれば水分に混ざって地上に運ばれることが考えられる。だが核燃料を収容するキャニスターは腐食しにくいし、ベントナイトも水を通しにくい。オンカロ一帯の岩盤は水がほとんどしみ出ないので、問題ない」と語った。
埋め戻したトンネルの模型について説明するポシバ社のパシ・トゥオヒマー広報部長=2月28日、フィンランド・オルキルオト島(共同)
▽決め手は「地元の理解」
使用済み核燃料の最終処分場建設は世界各国が手探り状態だ。フィンランドに次いで事業が進むのが隣国スウェーデン。2022年、スウェーデン政府は南部エストハンマルのフォルスマルクに建設する計画を承認し、世界で2例目となった。処分方法はフィンランドと同様、銅製キャニスターに核燃料を入れ、地下約500メートルに埋める計画。稼働は2030年以降の見通しだ。
米国は法律で西部ネバダ州ユッカマウンテンを最終処分場建設地と定めたが、政府は手続きを中断。フランスは2023年に事業者が政府に設置許可を申請した。
日本は、最終処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)が今年2月、全国初の文献調査を行った北海道の寿都町と神恵内村について次の段階に進めると判断した。だが、鈴木直道知事が反対の意向で調査は実現が見通せず、建設地選定が難航している。
北海道神恵内村で開かれた国と原子力発電環境整備機構(NUMO)による住民説明会=2020年9月26日
トゥオヒマー氏は、オンカロとオルキルオト原発がある人口9200人超の自治体エウラヨキでは「原発での勤務経験のある親戚や友人のいる住民が多く、原発に理解がある。大きな反対運動はなかった」と解説し、「中間貯蔵施設から近く、地元の理解もあることが決め手となった」と振り返った。
ただ原発から12キロ離れた町ラウマの博物館職員の女性(49)は「気候変動など将来何が起こるか分からない中で、完全には賛成できない」。町の別の女性(42)も「放射線漏れのリスクは残る。(オンカロは)ない方がいい」と打ち明けた。
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