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裏金質問はNG…知事は指示否定、責任は? 規制でないと強弁から一転謝罪、記者が見た山梨県の「ドタバタ劇」

47NEWS / 2024年4月18日 11時0分

裏金事件の関連質問を扱わないよう山梨県が報道各社に求めた問題について、答弁する長崎幸太郎知事=2024年2月28日午後、県議会本会議場

 2024年2月、山梨県庁で県の広報担当者が口にした言葉に耳を疑った。「政治資金の質問は削除してほしい」「削除しなければ取材に応じるのは難しい」。報道各社による長崎幸太郎知事への個別インタビューの実施に先立ち、県が自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の関連質問を扱わないよう、突如求めたからだ。
 当初、県は取材活動規制の意図を否定し「調整を提案した」と強弁。報道側の抗議を2度受け、一転して謝罪する事態に至った。長崎氏は一貫して自身の指示を否定。一方、県職員には「政治資金関連の質問は別の場で聞いてほしい」との趣旨を伝えたと認めたものの、知事の責任の所在は曖昧なままだ。
 有識者からは「質問封じは国民の知る権利を阻害する」との指摘も続出。県側の対応が約2カ月にわたり「ドタバタ劇」を繰り広げた面は否めない。県政取材を担当する一記者として、一連の問題を振り返る。(共同通信=味園愛美)

 ▽自民元幹事長に近い知事が政治資金不記載疑いで告発される

 発端は1月20日の記者会見にさかのぼる。長崎知事が、自身の資金管理団体「日本金融経済研究フォーラム21」の2019~22年分の政治資金収支報告書に、自民党二階派からの寄付金1182万円を記載していなかったと発表。二階派から現金を受け取り、事務所の金庫に保管したまま失念したと説明した。
 長崎氏は財務省出身。2005年衆院選で初当選し、衆院議員を3期務めた。2017年の落選後、二階派会長で自民党の二階俊博幹事長(当時)が幹事長政策補佐に起用。長崎氏は衆院議員時代から2019年の知事就任後の現在まで一貫して、二階派に所属する。


日本産食品PRイベントを終え、取材に応じる自民党の二階幹事長(左、当時)と山梨県の長崎幸太郎知事=2019年4月27日、北京

 会見前日の1月19日、東京地検特捜部は政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で二階派の元会計責任者を在宅起訴。関係者によると、2018年からの5年間に収入と支出を計約3億8千万円少なく記載したとされる。
 こうした中、1月30日に市民団体が政治資金規正法違反容疑で長崎氏に対する告発状を甲府地検へ提出。裏金事件への注目が集まっており、報道各社がインタビューで長崎氏に不記載問題を尋ねるのは必然と言えた。


自民党二階派の総会後、記者会見する派閥会長の二階元幹事長=2024年1月19日、東京都千代田区

 ▽質問取りやめ要請巡り県職員と押し問答

 そもそも長崎知事が就任6年目のインタビューに応じるとして、山梨県政記者クラブ加盟の14社中12社が希望し、県の広聴広報グループが調整を進めた。当初の計画では(1)新聞・通信各社が一斉に取材するグループ方式(2)テレビ各局が別々に取材する個別方式―の2通りで実施する予定だった。
 取材前日の2月1日、県の担当者から突然、取材延期と方式変更の連絡が届く。2日予定のグループインタビューを取りやめ、新聞・通信各社のインタビューも個別方式に変更するとの内容だ。当然「複数の記者から不記載問題を矢継ぎ早に質問され、集中砲火を浴びるのを避けるためでは」との見方が広がる。担当者は変更理由について「知事の公務のため」としか答えなかった。


 質問封じ問題の舞台となった山梨県庁=2024年4月12日

 2月2日、担当者から直接電話がかかってくる。事前に伝えた質問項目に対する要請だ。「インタビューで政治資金の不記載問題を質問するか」「インタビューでなく、会見で聞いてくれないか」「会見で答えている以上の回答はないと思うが…」
 これまで閣僚や首長ら政治家を取材してきた経験でも、不利益を被るような質問は受け付けないと言われたのは初めてだった。驚き呆れながらも、要請に応じられない旨を伝えた。担当者も譲らず、押し問答が続いた。簡単に引き下がれないよほどの事情があるのかと感じた。
 共同通信のインタビューが行われた2月5日。いざ不記載問題を切り出すと、長崎氏は「説明責任を果たしている。別に法的に問題ない」などと語り、自身の対応は適切だったとの考えを示した。
 なお、担当者からは1月11日までに質問項目を出すよう求められていた。インタビュー取材は、限られた時間を有効に使う必要がある。取材を受ける側は根拠となる法律や条例、予算額など細かい数字を示す場面も多い。
 事実関係を間違わず円滑に進められるよう準備してもらうため、質問項目を前もって通知することがある。もちろん必要に応じ、事前に伝えていない質問をぶつける場面も少なくない。


 ▽日々強まる「圧力」、テレビ局が取材拒否される事態に

 こうした要請を受けたのは共同通信だけでない。インタビュー希望の12社中、9社が質問を扱わないよう何らかの形で伝えられていた。うち2社は「不記載問題を聞くなら、インタビューに応じるのは難しい」と迫られ、地元民放のテレビ山梨は取材自体を拒否される事態に至る。複数社が不記載問題をただしたものの、やむなく紙面掲載を見送った社もあった。
 報道各社の話を総合すると、インタビューが実施された2月5~15日、県の担当者による要請が日に日に強まっていく様子も浮き彫りになった。記者クラブは一連の対応を問題視し、21日に長崎知事と広報部門責任者の小林徹地域ブランド・広聴広報統括官の2人宛てに抗議文を提出。「県の意に沿わない報道に圧力をかけた」「質問規制は異例で到底受け入れられない」と批判した。


山梨県が知事インタビューで裏金事件の関連質問を扱わないよう報道各社に求めた問題を巡り、山梨県政記者クラブが提出した抗議文

 ▽取材規制でなく「調整提案」…県の強弁にあ然

 2月27日、山梨県の回答文書を読み、あ然とした。県はインタビューの時間的制約から、県政以外の内容を長崎知事の会見で尋ねるよう「調整を提案した」と主張。「規制は到底あり得ない」と反論した上で、記者クラブと「行き違いが起きないよう、意思疎通に努める」とした。


山梨県が知事インタビューで裏金事件の関連質問を扱わないよう報道各社に求めた問題を巡り、県が回答した文書

 つまり取材活動の規制でなく「調整の提案」だったのに、記者クラブとのコミュニケーション不足から「行き違い」が生じただけ―。回答文書から、そう言わんばかりの県の姿勢がうかがえた。
 翌28日、長崎氏は担当部局への指示の有無を記者団に問われ「なかった」と明言。県の対応も「問題なかった」として擁護した。この日の県議会本会議では、定例会見で質問制限を一切行っていないとし、インタビューは「付加的なサービス」だとの持論を展開。報道各社に「趣旨が伝わっておらず誠に遺憾だ」と開き直ってみせた。
 県は規制しようとした事実を認めず、詭弁を弄する姿勢を改めなかった。記者クラブは看過できないとして、3月5日に再度抗議。県の回答は「一方的な決め付けで事実誤認だ」と非難し、認識を改めるよう求めた。

 ▽一転謝罪で幕引きか、知事は職員の忖度示唆

 1週間後の3月12日。山梨県が5日の回答内容を一転させ、報道各社に謝罪した。広報部門責任者の小林氏の名前が記された文書で、原因に関し「当方の見識不足に端を発した」と明記。一連の対応を「前例のない深刻なもの」と捉え「認識を新たにし、深く反省する」とした。
 小林氏は知事政策補佐官や知事政策局次長、秘書課長も兼ねており、長崎知事をかばう姿勢をにじませた。イメージ悪化から早期幕引きを図る狙いがあったとみられる。


 3月22日の知事定例会見。長崎氏はインタビュー実施に当たり「県政運営を中心に発信したい」との趣旨を担当者に伝達したと明らかにした。理由はこれまでの会見で政治資金関連の質問が集中しているからだとした。自身の発言が指示と受け取られ、質問規制につながった―。担当者が忖度したとの見方を記者から問われ「あるのかもしれない。その点は反省している」と述べた。一方、自身の指示は頑なに認めなかった。

 ▽有識者「不適切な対応は徹底抗議せよ」

 一連の山梨県の対応について、専修大の山田健太教授(言論法)は「国民の知る権利を阻害し、決して許されない」と糾弾する。行政機関が不都合な質問を拒んだり、特定のメディアの取材を受けなかったりして、報道をコントロールしようとする行為に警鐘を鳴らす。
 同時に「新型コロナウイルス禍の影響で、取材される側が1社1人、1問までといった制限を設け、取材する側も慣れてしまった側面が否めない」とも指摘。報道機関の役割は権力監視だとした上で「不適切な対応が見られれば、徹底して抗議し、権力側の姿勢を正すべきだ」と訴える。

 ▽トップの責任、曖昧なまま釈然とせず

 2通の回答文書を見て気になったのは、長崎知事に回答を求めていたのに、いずれも長崎氏の名前がなかった点だ。山梨県トップとしての責任をどう考えているのか。3月22日の会見で問うと「メディアの皆さんと意思の齟齬ができたのは大変残念。今後こういうことがないようコミュニケーションを密にする」などとして、正面からの回答を避けた。質問封じ問題は収束に向かっているよう見える中、肝心な部分は曖昧なままで釈然としない。


記者会見する山梨県の長崎幸太郎知事=2024年3月22日、県庁

 ある山梨県職員は「誰でもハレーションは予想できるはずだ。組織で不祥事が起きれば、トップが自身の責任を説明して謝罪するのが筋だ。県庁も例外ではない」と断言。自身の関与を否定し続ける長崎氏の姿勢に、疑問を投げかけた。
 今回の一件を通じ、記者が取材先の対応を問題視し、声を上げる重要性を改めて実感した。取材先に報道機関をコントロールできると思わせないよう、身を引き締めなければならないとも思った。二度と質問封じが起きないよう、引き続き取材を進めたい。

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