1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

韓国の若者は食事の回数や野菜を減らし、中高年は会社の倒産や老後資産に頭を抱える 「半地下」の格差社会は今…与党大敗の総選挙ルポ

47NEWS / 2024年4月23日 11時0分

3月21日、ソウル最大規模の青果市場「清涼里市場」で売られる野菜(撮影・宋慶碩、共同)

 韓国の生鮮食品の値段は今年2、3月、前年同月比で2割高くなった。2019年のポン・ジュノ監督の映画「パラサイト 半地下の家族」が問題提起した経済格差も依然深刻だ。2022年のデータでは、大企業労働者の月平均所得は591万ウォン(約66万円)だった一方、中小企業の労働者は286万ウォンで、ほぼ2倍の開きがある。
 4月10日の総選挙で、与党は全300議席の3分の1をわずかに上回る108議席で大敗した。韓国の人たちは今の暮らしと政治にどんな思いを抱いて投票へ行ったのだろうか。(共同通信ソウル支局 富樫顕大)

 ▽失業率改善と破産増大

 2022年5月に発足した尹錫悦政権は、法人税や、複数の住宅を持つ人の固定資産税を減らした。導入予定だった、株式投資などで得た利益への課税「金融投資所得税」の廃止も打ち出した。


4月10日、ソウルで韓国総選挙に投票する人(撮影・金民熙、共同)

 失業率は2021年の3・7%から、2022年は2・9%、昨年は2・7%と改善した。尹政権は、減税や規制緩和の成果だとアピールしている。
 一方、韓国最高裁の資料によると、昨年の企業の破産申請件数は、前年より65%増えた。政策の恩恵は、どこまで及んでいるのだろうか。


4月10日、ソウルの体育館で行われた韓国総選挙の開票作業(撮影・宋慶碩、共同)

 ▽会社続けられるか

 ソウル西方の仁川市には、自動車やスマートフォン向けの金型を製造する小規模の工場が集まる工業団地がある。従業員4人を抱える会社の男性社長(54)は「原材料価格は上がるのに、大企業は納品価格を上げない。2、3年前より利益は3、4割減り、会社を続けられるかどうか悩んでいる」と打ち明けた。


金型を製造する小規模の工場が集まる韓国・仁川市の工業団地=3月14日(撮影・富樫顕大、共同)

 以前は日本への輸出が売り上げの7割を占めたが、2019年からは日本企業の発注を中国に取られてしまったという。「長持ちしなくても安い製品が好まれるようになり、質が劣っても単価が安い中国の物が選ばれるようになった」と男性社長はこぼした。


韓国・仁川市の工業団地で金型製造会社を営む男性=3月14日(撮影・富樫顕大、共同

 ▽食費代補助アップを

 ソウルの名門大学、延世大で、非正規の清掃員として働く黄琴淳さん(62)は、毎月の手取りが190万ウォン(約21万円)ほどだ。50代前半まで中小企業の事務職を勤め、貯金も蓄えた。しかし詐欺に遭って財産を失ってしまった。1人暮らしの黄さんは、食費をできるだけ節約しても、老後資金への貯金に回すお金が毎月20~30万ウォンしか残らない。清掃員らは、毎月の食費代補助を2万ウォンアップさせることを求めて労使交渉をしている。


ソウルの延世大の清掃員、黄琴淳さん=4月5日(撮影・富樫顕大、共同)

 「(自分の大学時代が)軍事政権時代だったのに比べると、今の大学生は自由でいいなと思う」と語る一方で、「就職準備のために図書館で勉強ばっかりでかわいそうだ」とおもんぱかった。
 格差問題は受験、就職の競争の激化にもつながっている。黄さんは「韓国の経済構造が変わらないといけない。資本主義社会でしょうがないのだろうが、頭の良い人が改善させなければいけない」と願う。


ソウルの延世大で清掃業務を終えた後、取材に応じる黄琴淳さん=4月5日(撮影・富樫顕大、共同)

 ▽リンゴ値段88%上昇

 昨春以降、韓国の物価上昇率は前年同月比で3%前後で推移している。特に深刻なのは食品で、今年3月、リンゴは88%、ミカンは68%、トマトは36%、ネギは23%、コメは8%、前年同月比で上昇した。


 3月下旬、ソウル最大規模の青果市場「清凉里市場」ではリンゴ3~5個が1万ウォン(約1110円)、キュウリ1本は千ウォンといった値段で売られており、店主らは「客足が遠のいた」「売値を抑え、利益が減った」と口をそろえた。

 ▽食事を減らし…

 総選挙での与党大敗は、尹大統領の家族の不正疑惑や「独断的」な政治スタイル、「日本に寄りすぎ」と批判される外交などに不満が積もっていた上に、食品物価の高騰が響いたとみられる。
 ソウルのデザイナーの女性(23)は「食事の回数や野菜を減らしている。私の友人たちもそうだ。政治は何かが変わらなければいけない」と、野党に投票したと語った。
 尹大統領は3月、視察先のスーパーで特売で売られていた長ネギ1束を手に取り「875ウォン(約100円)とは合理的だ」と述べた。普通は、長ネギ1束の平均価格は3千ウォンほどということを知らなかったようだ。「庶民感覚がない」との批判を招き、政権批判の材料になった。


長ネギを掲げる反尹政権集会の参加者ら=3月30日、ソウル(聯合=共同)

 ▽江南スタイル

 与党はソウルを中心とした首都圏の小選挙区122のうち、19しか勝てない惨敗だった。それでも、ソウルの中で抜群に与党支持が高い地区がある。歌手PSY(サイ)の世界的ヒット曲「江南スタイル」で知られる江南地区だ。
 ビジネス街であり、美容クリニックや有名進学塾なども集中する。このエリアの高層マンション街で候補者遊説に立ち止まっていた子連れの主婦(39)は、尹政権が国家債務の増加を抑えようとしていることを評価した。また、不動産賃貸業を営む男性(68)は「革新系野党は財閥の立場を考えておらず、労働者の側に寄りすぎている」と指摘した。


ソウルの江南地区のオフィス街=4月16日(撮影・宋慶碩、共同)

 ▽格差対策への反発

 就職準備のための予備校が集まり、若者が多い新林地区に暮らすプログラマーの男性会社員(27)は、尹政権が「財政健全性」を主張して研究開発予算を減らしたことを問題視し、小選挙区は白票を投じたという。革新系野党を支持しないのは、革新系の文在寅前政権が公共企業の非正規職員を正規職に転換する政策を進めたため「自分が公共企業の正規職に就職したかったのに、それが(非正規職の人たちに)取られた」と考えるのが理由だと話した。
 3月に結成されたばかりで、総選挙で躍進した革新系野党「祖国革新党」は、大企業の賃金の一部を下請け企業へ回す「社会連帯賃金」という制度を提案した。与党は「祖国革新党の候補者自身は資産家なのに、平凡な(大企業)会社員の賃金をカットさせようとしている」として「公約を撤回して謝罪しろ」と主張した。現代自動車などが参加する「全国金属労働組合」も「(大企業の)労働者が損をする」とけん制した。


社会学博士で、ソウルの地下鉄の駅員として働く張庚泰さん=4月14日(撮影・富樫顕大、共同)

 このように、格差問題は深刻だと言われる一方で、その対策は亀裂や反発も招いている。社会学博士で、ソウルの地下鉄の駅員として働く張庚泰さん(58)は「就職などでの失敗が許されない社会の風潮で、(大企業の人が中小企業や非正規職の人に対するように)自分よりも弱い立場の人に攻撃的になる悪循環が生じている」と分析した。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください