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タワマンの「当たり前」に潜むリスク…「一体どうしろと?」宅配業者を悩ます“配達の難所”がごろごろ

オールアバウト / 2025年1月24日 21時50分

タワマンの「当たり前」に潜むリスク…「一体どうしろと?」宅配業者を悩ます“配達の難所”がごろごろ

タワマンは一見、一棟に多くの世帯が集中しているため配達効率がいいように思えますが、実態は異なり「配達の難所」に宅配業者が悩まされています。ECや物流業界に環境変化が起こる中、タワマンの「当たり前の利便性」が大きな岐路を迎えていそうです。

美しい外観と利便性で、快適な暮らしを象徴する超高層マンション「タワマン」。しかし、そこにはこれまで予想できなかった「配達の難所」が潜んでいます。厳重なセキュリティー、限られたエレベーターの数、複雑な動線。荷物1つの配達に30分以上かかることも珍しくありません。

物流業界は人手不足に直面し、配達の担い手確保に悩む物流会社が悲鳴を上げている今、タワマンにおける「当たり前の便利さ」が、大きな岐路を迎えています。タワマンにおける宅配便配達の現状と課題をお伝えします。

建設が続くタワマンと拡大するEC市場

タワマンと呼ばれる超高層マンションの建設が続いています。不動産経済研究所が2024年5月8日に発表した「超高層マンション動向 2024」(※1)では、2024年以降に完成予定の超高層マンション(2024年3月末現在)は321棟、11万1645戸となっており、この数は2023年3月末時点の前回調査と比べると、93棟・1万5161戸増加しています。

またEC市場も拡大しています。経済産業省が行った「令和5年度電子商取引に関する市場調査」(※2)によると、2023年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は24兆8000億円となっており、2022年の22兆7000億円に対し9.23%増加しています。

超高層マンションの増加とEC市場の拡大によるタワマンの配送課題について、因果関係や相関関係を明示することは難しいですが、これまでとは異なる環境変化が起きているとはいえるのではないでしょうか。

宅配物をたった1個届けるにも、とにかく時間がかかるタワマン

都市部に増え続けるタワマンは、一見、多くの世帯が集中しているため、効率的な配送を行えるように思えます。しかし、実態は大きく異なっています。日鉄興和不動産が、大手物流会社に東京都内のタワマンの集配状況をヒアリングしたところ、次のような状況が明らかになりました。

約50階・約1000戸のタワマンにおいて、1日当たりの配達が31件(宅配BOX含む)、集荷5件、不在5件の対応で合計225分を要したそうです。また、このうちの約3分の1にあたる75分がエレベーターの待ち時間と乗車時間に割かれていました。

さらに、エレベーターの待ち時間と移動時間を含めたマンション内の移動時間の合計は、全体225分のうち、およそ半分を占めたそうです(※3)。

中には1つの荷物を配送するだけで30分を要するケースもあり、こうした時間がかかる原因の1つが「エレベーター」です。タワマンのエレベーターは居住者用と、清掃業者や宅配業者が利用する事業用・荷物用に明確に分かれています。

そもそも数が少ない事業用や荷物用のエレベーターに台車や作業道具を持ち込む清掃業者や複数の宅配業者、さらに工事関係者が集中すれば、スペースも限られ、上下の移動もままなりません。事業用・荷物用のエレベーターといえど、タワマンでは一棟当たりの戸数が多い分、多くの人が利用しています。

さらにフードデリバリーなどの配達員や、ときにはペットを連れた居住者が事業用・荷物用エレベーターに乗り込んでくることも。ペットを連れた住民が乗っているときは、配送ドライバーは「お先にどうぞ」と、順番を譲らざるを得ないため、さらに待ち時間が増加します。

配送業者の行く手を阻む強固なセキュリティー

配達時間が増える要因はエレベーターだけではありません。タワマンで配送を行うためには“多くの関所”をクリアしなければいけないのです。

まず、マンション敷地内の荷さばき用の駐車スペースが限られていること。駐車時間に制約があったり、駐車可能な台数が限られていたり、ルールが無視され住民の車が停めてあったりと、“駐車スペースの争奪戦”が発生しています。ときには搬入口から遠いところにトラックを駐車して荷物の積み下ろしをすることも起きています。

駐車スペースを確保できたとしても、次なる関所はタワマンへの入館です。多くのタワマンでは、住民の安全を確保するため「厳重なセキュリティー」を設けています。実はこの複雑で強固なセキュリティーは、住民の安全を確保する反面で、配送上の大きな障壁となっているのです。

例えば、配送ドライバーは居住者とは異なる搬入専用口から入館し、警備室で受付を行います。配達先の在宅が確認できたらエレベーターへと進みます。特に厳重なセキュリティーを採用しているマンションではエレベーターに乗り込むときにもチェックが。さらに降りたフロアでも確認されることも。荷物1個の配達に対して複数回のセキュリティーをクリアする必要があるのです。

また、最近では下層階と上層階でオフィスや商業施設、居住エリアが分かれているタワマンも増えています。こうした建物は搬入口がオフィスエリアと居住エリアで異なるなど、配送ドライバーにとっても、ハードルが高い関所になっています。

台車の利用禁止や、宅配ボックスの不足も

タワマンでは共用部分の破損を防ぐため、“台車”の利用が禁止されている物件もあります。「大理石の床材を傷つけないためとはいえ、一体どうやって大量の宅配用ペットボトルを運ぶのか……」ネット上には配送業者の苦悩があふれていました。

また、不在時に利用する宅配ボックスも潤沢に用意されているとは限りません。宅配ボックスが満杯の場合は空くまで再配達が繰り返されるため、配送効率が著しく低下します。

タワマンは、居住者にとって眺望に優れ、セキュリティーが高い反面、配達などの利便性との両立が課題となっています。昔のお屋敷には勝手口があり、業者はそこから出入りをしていました。

現在のタワマンでは搬入口と警備室があるとはいえ、厳し過ぎるセキュリティーとエレベーターによる垂直移動によって、大変な時間がかかるようになってしまったのかもしれません。

<参考>
※1:不動産経済研究所「超高層マンション動向 2024」
※2:経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査」
※3:日鉄興和不動産「タワーマンションの物流問題、ロボットで解決しよう。」

【この記事の筆者:蜂巣 稔】
物流ライター。外資系コンピューター会社で金融機関・シンクタンク向けの営業、輸出入、国内物流を担当。その後2002年から日本コカ・コーラにて供給計画、在庫適正化、物流オペレーションの最適化などSCM業務に18年以上従事。2021年に独立。実務経験を生かしライターとしてさまざまなメディアで活躍中。物流、ビジネス全般、DXやAIなどテクノロジー領域が中心。通関士試験合格、グリーンロジスティクス管理士。
(文:蜂巣 稔)

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