湯浅政明の貴重な短編群が上映― アニメーションの動きの楽しさ語る【新潟国際アニメーション映画祭】
アニメ!アニメ! / 2024年3月19日 13時0分
第二回新潟国際アニメーション映画祭で湯浅政明監督の短編特集上映「湯浅政明とアニメーションの動き 短編特集」が開催され、湯浅監督がトークショーを行った。
この特集上映は、これまで湯浅監督が手掛けてきた短編作品を集めたもので、上映される機会が滅多にない貴重な作品も含まれている。監督デビュー作である『なんちゃってバンパイヤン』や、イベント上映用に制作された『スライム冒険記 ~海だ、イエ~~』、『夢みるキカイ』に『キックハート』、そしてアメリカのカートゥーン・ネットワークで放送されたテレビアニメーション『アドベンチャー・タイム フードチェーン』の5作品が上映された。
湯浅監督は、上映前と後に登壇。湯浅監督は早めに新潟入りし、佐渡に行っていたそうだ。佐渡は能楽が大成した地域であり、今も能楽堂が残されているので監督作『犬王』にも通じるものがあるとのことで行ってみようと思ったのだとか。
今回の短編特集はそれぞれ制作年代も離れており、湯浅監督のキャリアを振り返るものになっている。『なんちゃってバンパイヤン』で初監督を経験し、その後、最初で最後のフィルム作品『スライム冒険記』でアナログ感を楽しんだという。『バンパイヤン』はテレビシリーズ向けのパイロット版として制作したために、あまり動かしすぎないことを意識し、『スライム冒険記』はイベントとして劇場上映するものだったので、劇場で観てもらうことを意識して作ったという。
監督デビュー前は、アニメーターだった湯浅監督だが、なぜ演出に移ったのかとの質問に対し、『クレヨンしんちゃん』で絵コンテをやってみたら面白いと感じた、それまでは仕事はつらいものだったしアニメーターとしての伸びしろはないと思っていたからだという。
そんな湯浅監督にとってアニメーションの面白い部分はどこかと尋ねられると、特集上映のテーマでもある「動き」だと返答。最近は、ネットに上がっている動きの良くない動画を観ると、趣味で修正したりしているそうだ。
クラウドファンディングで資金を集めた『キックハート』について尋ねられると、少人数で作ったのでかなり忙しかったそうだが、クラウドファンディングで支援した人の中に『アドベンチャー・タイム』の監督がおり、その流れで『フード・チェーン』を作ることになったのだとか。
上映後のトークでは、改めて湯浅監督のキャリアが振り返られた。湯浅監督は、キャリア初期には『クレヨンしんちゃん』や『ちびまる子ちゃん』などの児童アニメで活躍していたが、2000年代からは作風が変化したことについて、『ねこぢる草』を手掛けた頃から、自分の手の内にはあったものだという。
湯浅監督は海外で絶大に支持されている作家だが、海外からのオファーだった『フード・チェーン』はキャリアの転換点となった作品だ。『フード・チェーン』については、『アドベンチャー・タイム』のスタッフも以前から湯浅監督の作品を見ていたようで、『夢みるキカイ』に登場する足の長いキャラクターに似たものがオープニングに登場しているとのこと。また、日米のアニメーションの作り方の違いについて、アメリカではコンテを縦に描くのではなく、横に並べてディスカッションしていくスタイルだったとのこと。
また、なぜ海外で支持されると思うかの質問に対し、『マインドゲーム』を見た海外の視聴者から元気になれたと言われたことがあるという。本作はアニメーションはこうでなくてはいけないという縛りから解放されたような、自由に制作された作品だそう。
湯浅監督の監督デビュー作も含まれる今回の上映だが、デビューから25年経ち、内面の変化はあるかとの問いには、「テーマや何を伝えるべきかを考えるようになった」と述べた。カットのつなぎや展開だけを考えて作っていた短編の時代から、物語やテーマという、映画に求められるものを内包するようになったとのことだ。
また湯浅監督は、短編と長編映画だけでなく、テレビシリーズでも活躍しているが、それぞれの制作で意識の違いはあるかとの質問に対して、『マインドゲーム』で物語の弱点を指摘されたことで、ストーリーをいかに語るかを学ぶためにシリーズを手掛けるようになったと答えた。また、シリーズにはシリーズの良さがあり、長編映画には長編の良さがあるという。近年は、より異なる媒体で何か作れないかと考えるようになっているそうだ。
また、湯浅監督は音楽のセンスもいいが、初監督の『バンパイヤン』のときは音楽の発注の仕方がわからなくて怒られたらしい。それが、2作目の『スライム冒険記』のときに梶浦由記氏に発注の仕方を教わったのだそうだ。また『マインドゲーム』のときに渡辺信一郎氏から曲のアイディアの出し方などを教わり、『犬王』については、音楽担当の大友良英氏と音楽の方向性についてぶつかることもあったが、議論していくうちに現在の形となったと述懐した。
観客との質疑応答も行われ、湯浅監督はアニメーション制作の工程にどれほど関わっているのかとの質問に対して、監督をするときはなるべく原画を自分でやらないようにしていると回答。それは、アニメーターが監督をすると勝手に直されるのではと思われ嫌がられることもあるからだという。
最後に、アニメーションの楽しさは何かとの問いに対して、楽しい瞬間もあるが面倒くさいときもある、しかし、全て人が作ったもの、絵や音や色などいろんなものを使って表現し何かを語れるのがいいと締めくくった。
そして、この日が湯浅監督の誕生日だったので、監督から観客に向けてお菓子が配られた。
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