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YouTubeが独自の「音楽生成AI」開発に本腰 初音ミクのクリプトンとコラボを発表

ASCII.jp / 2024年3月22日 8時0分

グーグルの日本法人が記者会見を開催。YouTube独自の音楽生成AIをつくるための「YouTube Music AIインキュベーター」が日本で始まることが発表しました。左側がグーグル & YouTubeの音楽部門グローバル責任者 リオ・コーエン氏、右側はクリプトン・フューチャー・メディアの代表取締役 伊藤博之氏

 アーティストに音楽家、プロデューサーなど音楽制作に関わるクリエーターが、YouTubeによる音楽生成AIへの取り組みに情報を提供するパートナープログラム「YouTube Music AIインキュベーター」が日本で始動します。

 3月21日にはYouTubeの音楽部門グローバル責任者であるリオ・コーエン氏が来日し、音楽創作にAIを活用するためのガイドラインとして2023年夏に「AI Music Principles(音楽AIの基本的な考え方)」を立ち上げた背景を記者会見の場で説明しました。日本で始まるインキュベータープログラムに、"初音ミク”の開発で知られるクリプトン・フューチャー・メディアが参加することも発表されました。

音楽業界と一緒にYouTubeの音楽生成AIをつくる

 YouTubeはグーグルのAI研究部門であるGoogle DeepMindが開発する音楽生成モデル「Lyria(リリア)」をベースにした、様々な音楽創作に関連する技術やサービスの可能性を模索しています。米国では2023年8月から、ユニバーサル ミュージック グループのアーティストやクリエイターをパートナーに巻き込む形でYouTube Music AIインキュベーターを開始しました。

 生成AIによる芸術創作のまわりには、新しい技術が生まれるたびに多くの課題が顕在化してきました。先行する写真や動画、テキストによる創作と同様に、これからは音楽をつくる生成AIの技術的な進化を追求しつつ、クリエイターの権利を護るためのルールづくりが求められます。YouTubeが制定した「音楽AIの基本的な考え方」には、YouTubeが音楽業界と密接に連携しながら、責任あるAI技術の活用と適切なクリエイターの権利保護を継続的に図ることなどが明記されています。

AIテクノロジーが音楽市場に与えるインパクトについて語るコーエン氏

 このたび、日本でYouTube Music AIインキュベーターのプログラムが始まった背景をコーエン氏が次のように語りました。

 「日本の音楽市場にもデジタルテクノロジーが広く浸透した。現在は配信型のコンテンツと、ディスクメディアなどに収録して販売されるフィジカルコンテンツが共存共栄する理想的な環境がある。日本の音楽業界で活躍する友人から、現在は日本の音楽市場が世界規模にスケールアップできる成長の手応えを感じているという声が多く私の元にも届く。実際にYOASOBI、imase、Adoなど日本のポップシーンを牽引するアーティストたちが、YouTubeのツールなどを活用しながら世界で活躍している。私たちの仕事はYouTubeを通じて、世界中のアーティストとファンを結び付けること。過去3年間を振り返れば、YouTubeがクリエイター、アーティスト、メディア企業に700億ドル以上の収益をもたらすこともできた。このモメンタム(勢い)を背にして、今後も音楽業界に様々な変革をもたらしたい。音楽生成AIは成功の鍵を握る技術。日本の音楽業界と、YouTube Music AIインキュベーターを通じてこれからも密接なパートナーシップを継続していく」(コーエン氏)

口ずさんだメロディが楽器の演奏になる

 YouTubeによる音楽生成AIであるLyriaは「人間の創造性を増強するもの」になるというコンセプトは示されていますが、Lyriaを使って「できること」はまだ具体的になっていません。記者会見ではYouTubeがサービス開始を見込む時期や、機械学習に使うデータの中味などに関連する質問も寄せられましたが、コーエン氏は明確な回答を避けています。

 一方、YouTubeの公式チャンネルには「An Early Look at the Possibilities as we Experiment with AI and Music」と題した、Google DeepMindが目指す音楽生成AIの方向性を紹介するビデオがあります。

 ビデオの中ではユーザーが口ずさんだメロディから、AIがサキソフォンの旋律を作り出す「Music AI Tools」というAI機能を紹介しています。

 米国ではMetaが音楽生成AI「Audiobox」を、誰でも広く体験できる試験的サービスとして公開しています。ニューヨークに拠点を構えるBoomy(ブーミー)は、ユーザーが生成AIを使って作曲した楽曲ファイルをダウンロードして楽しんだり、シェアできる機能をウェブサイトで実現している。同社は昨年末にワーナー・ミュージック・グループとの提携も発表しました。

Music AI Toolsを紹介するグーグルのYouTube日本 音楽パートナーシップ ディレクター 鬼頭武也氏

 ライバルに対してYouTubeの音楽生成AIはこれからどんな「強み」をアピールできるのでしょうか。記者会見でコーエン氏に聞きました。

 「最高のAIエンジニア集団であるGoogle DeepMindが私たちに付いている。現在、DeepMindのチームが音楽生成AIの技術的な可能性をあらゆる方向から研究している。同時に、YouTubeではすべての音楽クリエイターの皆様にAIがもたらすメリットに焦点を当てて、あるべき形をより明確にしていきたい。YouTubeが大規模なコンテンツプラットフォームを提供していることや、音楽業界の皆様とも密接な関係を築いていることも他にない強みであると自覚している。これらの強みを持ちながら、クリエイターの皆様や音楽業界に資する収益モデルをつくり、著作権管理と保護の仕組みを整えることができた時に、初めてYouTubeが理想とする音楽生成AIが提供できると考えている。これからも丁寧に準備を進めたい」(コーエン氏)

生成AIにより音楽制作のハードルを下げたい

 YouTube Music AIインキュベーターに、日本からの最初のパートナーとして加わることになったクリプトン・フューチャー・メディア(以下:クリプトン)の代表取締役である伊藤博之氏も記者会見に参加し、今後への期待と抱負を語りました。

YouTube Music AIインキュベーターとしてパートナーシップに参加するクリプトンの伊藤博之氏が意気込みを語りました

 クリプトンといえば初音ミクのキャラクターが広く知られているバーチャル・シンガーソフトウェアのベンダーですが、音楽ソフトウェアのディストリビューション事業も柱としています。伊藤氏は「自身も音楽生成AIに高い関心を持っていた」といいます。

 同社ではDTM(Desk Top Music)、つまりパソコンで音楽を制作するためのソフトウェアも長年に渡り手がけてきました。伊藤氏は「DTMは機材に関する知識を必要とすることから、今まで一般に広く浸透することなかった。AIのテクノロジーを活用することでデジタル音楽創作のハードルが下がり、当社のノウハウにより多くのクリエイターを支援できる可能性に期待している」と語りました。

 初音ミクを育ててきたクリプトンの知見から、今後YouTubeでプロからアマチュアまで、様々なクリエイターが音楽創作を楽しめる機会が生まれることを期待しましょう。

 

筆者紹介――山本 敦  オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。

 

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