クオリティも真剣勝負 CEOカール・ペイ氏に聞く「Nothingのオーディオ戦略」
ASCII.jp / 2024年4月18日 19時45分
イギリスのテックブランド、Nothing(ナッシング)が新しいワイヤレスイヤホンを発表するスペシャルイベント「NOTHING@TOKYO」を4月18日に都内で開催しました。CEOのカール・ペイ氏に、新製品のコンセプトやNothingがオーディオにかける思いを聞くことができました。
高音質化、ChatGPT対応など見どころ沢山のイヤホン新製品
Nothingの新製品は、左右独立型のワイヤレスイヤホンイヤホン「Nothing Ear」と「Nothing Ear (a) 」の2機種です。どちらもペイ氏が「いい音にもこだわったイヤホン」と胸を張る自信作です。音楽再生の妨げになる環境ノイズを、その量に合わせてスマートに解析しながら消音する「Smart ANC」が各製品に搭載されています。
6月にはNothingのスマートフォンが搭載する「Nothing OS」のアップデートが実施され、ペアリングしたNothing Ear/Ear (a)からChatGPTを呼び出して、生成AIチャットボットとのコミュニケーションが楽しめるようになります。
価格はNothing Earが2万2800円、カラバリはホワイトとブラック。Nothing Ear (a)が1万4800円で、こちらはブラック/ホワイト/イエローの3色展開になります。Kith Tokyo、二子玉川 蔦屋家電、BEAMS、ユナイテッドアローズなど全国のセレクトショップでは4月19日から21日までの間に数量を限定した先行販売を開始します。
シンプルなネーミングを採用した理由
Ear (1)、Ear (2)と続いてきた同社ワイヤレスイヤホンのネーミングが、連番を捨てて原点に回帰しました。「Nothing Ear」とシンプルな名前に戻した理由について「スマホに比べてオーディオはアップデートの頻度が少ないから」であるとペイ氏は説明していますが、今回同時に廉価版の「Ear (a)」を発売したことも、ネーミング変更に深く関わっているようです。
「(a)にも特に深い意味はありません。以前、X(エックス)を通じて『Nothing Phone (2a)』の『aの意味』を聞かれたことがあるのですが、『a great product』と呼ぶための不定冠詞のようなものだとその時は答えました。ただ、製品の位置付けとしてはNothing Earが音質にこだわるハイエンドであり、Ear (a)がよりシンプルな普及機であるため、それぞれをクラス分けするようなネーミングを再定義する狙いもありました」
上位モデルに「Pro」という名前を付けることも考えなかったのでしょうか? ペイ氏に質問をぶつけてみました。
「ラインナップに“Pro”を持つことに興味はあります。ただ、それは私たちがよりプロフェッショナルな製品を作る時に検討したいと思っています。オーディオのプロフェッショナルといえば、例えば音楽や映画のサウンド制作に携わるスタジオエンジニアやミュージシャンのようなクリエイターの方々です。プロフェッショナルの皆様に満足してもらえるプロダクトをいつか手がけてみたいですね」
イヤホンはハード・ソフトの両方にまだ伸びしろがある
Nothing EarとNothing Ear (a) は、同社にとって第3世代のワイヤレスイヤホンです。現在のワイヤレスイヤホン市場では老舗から新規参入のメーカーまで沢山のライバルが競い合っていますが、一方で製品や体験の差別化が難しくなりつつあるとも言われています。強豪がひしめきあう難しいカテゴリ市場の中で、Nothingがワイヤレスイヤホンに注力する理由をペイ氏に聞きました。
「ワイヤレスイヤホンをつくるための基幹部品のサプライヤー(供給元)が限られていたり、さまざまな事情からハードウェアによるワイヤレスイヤホンの差別化は困難とも言われています。ですが私はそうは思っていません。これからもハードとソフトウェアの両方に起こりえる革新に期待しています。ハードウェアに関してはまだやるべきことが沢山あります。事実、技術革新を追求したことで、私たちが2023年7月に発売したワイヤレスイヤホンの「Ear (2)」と、その後継機である「Ear」との間にはハードウェアに起因する大きな進化がありました。特に音質が大きく飛躍していますので、ぜひ多くの方々に聴き比べてほしいですね」
「ハードウェアとしてもおもしろいワイヤレスイヤホンを作り続けたい」と宣言しつつ、ペイ氏は進化の両輪である「ソフトウェアの革新」についても次のようにコメントしています。
「オーディオ製品を手がけるメーカーはいま、ソフトウェアによる新しい価値を生むことも期待されています。今回、Nothingのスマートフォンと連携するChatGPT対応のプランを発表しました。生成AIなどソフトウェアが実現する革新を取り込むことで、ワイヤレスイヤホンの体験価値がいくつも開拓できると信じています。ソフトウェアを中心とした『オーディオのルネサンス期』が訪れる機運を私は強く感じています」
ペイ氏は昨年11月にビル・ゲイツ氏がGatesNotesにポストした「パーソナルエージエントの未来像」に関連するコメントに触れて、ある未来への展望が見えたと語ります。
「ゲイツ氏は今後、パソコンのOSやアプリケーションを超えて、インテリジェントなパーソナルエージェントがユーザーを直感的にサポートする未来を予見しています。私はゲイツ氏の見解に深い興味を持ち、同時に今も多くの人々に活用されているワイヤレスイヤホンが、パーソナルエージェントに最も近いデバイスになり得ると考えるようになりました」
ユーザーの声を反映したクオリティ勝負に注力する
昨今はスマホやPCから様々なコンテンツ配信プラットフォームにアクセスして、音楽や動画、ゲームなどが手軽に楽しめるようになりました。Nothingが大切にするサウンドやオーディオの「クオリティ」の良し悪しは、どのような形でユーザーに届けることが効果的であるとペイ氏は考えているのでしょうか。
「人がサウンドの良し悪しを評価する基準は、得てして主観的です。そこにはユーザーの好みも多分に反映されます。メーカーは、テクノロジー側のアプローチだけで『絶対的にいい音』をユーザーに押しつけるべきではありません。Nothingは『これぞ、Nothingのシグネチャーサウンドである』という価値を見つけて、ユーザーに提案するべきであると考えます。そのためにはユーザーコミュニティとの関係を深めることが肝要です。Ear (2)ではアメリカのオーディオファイルであるYouTuberの方と、良いコラボレーションの形を実現して、その成果を得ることができました。私たちは日本にNothing Japanを立ち上げました。今後は日本のユーザーコミュニティとのつながりを深めながら、皆さまの声を製品開発にも活かしたいと考えています。ユーザーの皆さまが思い描く『ハイクオリティ』を製品に反映させることができれば、世代を超えて良い環境でコンテンツを楽しむことの価値がユーザーの皆さまに伝わるはずです」
Nothingには「CMF by Nothing」というサブブランドがあり、左右独立型のワイヤレスイヤホンのほか、ネックバンドスタイルのワイヤレスイヤホンやスマートウォッチも展開しています。最後にCMFの今後についてもペイ氏に聞きました。
「日本ではCMFをAmazon.co.jpからソフトローンチしました。Nothingが当社のプレミアムステータスのブランドであるとすれば、CMFはそのエッセンスを継承しながらより広いユーザーターゲットを狙うブランドです。それぞれの関係性を注視しながら、日本市場でもCMFを育てていきたいと思っています」
筆者紹介――山本 敦 オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。
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