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【映画『ファイアバード』】ウクライナ出身のオレグ・ザゴロドニーが語る“世界の日常”に感じること

CREA WEB / 2024年2月21日 17時0分

 1970年代後半、ソ連占領下のエストニアで恋に落ちた、俳優志望の若き二等兵セルゲイとパイロット将校ロマン。実話を元にした映画『Firebird ファイアバード』でロマンを演じたオレグ・ザゴロドニー。現在、戦禍にあるウクライナ・キーウ出身のオレグは、今回特別許可を受けて来日した。モデルでもあり、ファッションを通して兵士を支援する“Brave+1”を立ち上げてもいる彼が、映画について、そしてウクライナの現状について語ってくれた。



オレグ・ザゴロドニー。

――オレグさんが『ファイアバード』に参加することになった経緯を教えてください。

オレグ まずオーディション用のビデオを送ってほしいという連絡が来て送ったところ、セルゲイ役のトム・プライヤー、監督、キャスティング・ディレクターたちとモスクワで会うことになったんです。そこで出演が決まりました。その後も長い時間をかけて準備をし、リハーサルをしたりしましたね。

――ペーテル・レバネ監督は「オレグに会って30秒で、彼がロマンだと思った」と言っていましたが、ロマン役の俳優を探すのにかなり苦労したそうです。実は著名なロシア人俳優にも数名声をかけていたが、同性愛が題材の映画だとキャリアに支障が出てしまうとして、丁重に断られてしまったとも監督は言っていました(ロシアでは性的マイノリティへの弾圧が年々強まっており、同性愛宣伝禁止法があるため、本作の上映はできない)。


© FIREBIRD PRODUCTION LIMITED MMXXI. ALL RIGHTS RESERVED / ReallyLikeFilms

オレグ ロシア人の俳優でも望めば出演自体はできるでしょう。しかし、ロシアにおける人権侵害は本当にひどい状況なのは確かです。ゲイであることが明らかな著名人もいますが、それをオープンに言うことはできないんです。

 僕の国のウクライナはセクシュアリティに関してはもっとオープンですし、自由に表現することができます。ロマンという人物を演じるのは俳優として非常に興味深いものがありましたし、物語に心惹かれました。冷戦中、ソ連の支配下にあるエストニアという、現代とは全く違う時代背景の中で、恋愛関係であり、様々なものが求められる役ということで、ぜひとも演じたいと飛びつきました。そして、それはとても素晴らしい旅路となったんです。

2018年5月28日から制作準備に入り…

――ロマンは1970年代のソ連軍のパイロット将校です。どのように役に取り組みましたか?

オレグ 役者としてここまでハイレベルなプロジェクトに参加するのは、僕は初めてであり、素晴らしい経験ができました。衣装をはじめ全てがオーガナイズされていて、徹底されていたんです。準備期間をとても長く取っていたので、専門家について数日間、NATO軍のトレーニング・キャンプで訓練を受けることができました。おかげで、軍人らしい仕草や行動様式も身についたと思います。

 ロマンという人物を理解するにあたっては、セルゲイの原作に加えて、生前のセルゲイが実際にロマンについて語った音声テープもとても参考になりました。さらに監督とトムは、僕の話し方などに合わせて、脚本にも手を加えてくれたんですね。とても寄り添ってくれたおかげで、人物にもストーリーにも深く入り込むことが出来たんです。完成した映画を観た時、そこには僕ではなく、別人が映っていました。ロマンだったんです。


オレグ・ザゴロドニー(左)とトム・プライヤー

 撮影現場もこの物語を語るのにふさわしい雰囲気が成立していて、この映画に参加できて心から良かったと感じています。全てのシーンでリハーサルをやるなど、とても贅沢に時間をかけていました。もちろん中には大変な作業というか、僕はそれまで英語が話せなかったのでダイアログ・コーチについて特訓もしましたし、パイロットの訓練も受けなければなりませんでしたが、全部が完璧に準備されていたので、安心して取り組めました。2018年の5月28日から制作準備に入り、9月5日から実際の撮影を開始したのですが、その時にはもうロマンになる準備はできていました。2018年か、もうそんなに時間が経ったんですねえ。

――オレグさん、記憶力が良いですね! 英語も話せるようになり、この映画への出演で、俳優として大きな扉が開いたのではないですか?


© FIREBIRD PRODUCTION LIMITED MMXXI. ALL RIGHTS RESERVED / ReallyLikeFilms

オレグ そうですね。次は日本語を話せるようになりたいから、日本映画のオファーを待ってますよ(笑)。でも実際、6年前の自分に、今の状況は想像だに出来ませんでした。こうやって英語でインタビューを受けたり、HBOやNetflixにオーディション用ビデオを英語で送れるようになりましたから。“NO ENGLISH, NO ROLE”という時代が長かったんです。オーディションの話が来ても、英語が酷いのでそこでつまづいてしまったんですね。

 今回もパートナーがオーディション用ビデオを撮ってくれたんですが、彼女がカメラの後ろで英語のカンペを持って、それを見てようやくセリフを言えるレベルでした。そしてモスクワで実際のオーディションに呼ばれ、トム・プライヤーとあるシーンを演じて見せることになった。「僕の英語はひどいですよ」と言ったら、監督からは「何語で演じてもいい」と言われたんです。トムはもうオーディションの相手役を1000回もやっていて、中国語でもウクライナ語でもロシア語でもイタリア語でも、君が何語で話してもリアクションできるから、って。あれは写真を現像するシーンだったかな?

 ともかくロマン役に決まったあとは、ダイアログ・コーチについて何カ月も英語のレッスンをしましたし、撮影中もセリフが多いので、毎朝毎晩レッスンしました。

ロマンは女性のルイーザと結婚するが

――セルゲイはロマンを一途に愛するけれど、ロマンはセルゲイを思いつつも、セルゲイの親友でもある同僚の女性ルイーザと結婚します。これはルイーザにとっても悲劇だった、と監督は言っていました。とても複雑な人物ですが、演じながらどのように感じましたか? そしてロマンがルイーザに対してどんな感情を抱いていたと考えて演じられましたか?


オレグ・ザゴロドニー

オレグ ロマンは最前線へ行くという決断をしますが、あれは死に場所を求めてのことだったと僕は解釈しています。彼はとても苦しんでいたんです。ロマンティックな意味ではないけれども、ルイーザにはある種の愛情は感じていたと思いますし、結婚生活に喜びを見出す部分もあったと思います。

 でも彼の心には常にセルゲイへの想いがあり、ルイーザを全身全霊で愛していたわけではないので、そのことに葛藤していた。もし別の体制、別の法律のもとに生きていたなら、彼はセルゲイとの愛を成就させ、ルイーザと結婚することはなかったでしょう。だからこそロマンは自分のしたことを重く受け止めており、自分を罰するため最前線に向かったのだと思いますね。


オレグ・ザゴロドニー

――オレグさんはウクライナのキーウから来日されました。現在もロシアからの侵攻が続いている中、どのような生活をされているのでしょうか?

オレグ ウクライナの現状ですが、思った以上に解決まで時間がかかっているというのが僕の実感です。僕の周囲にも最前線へ向かった人がいますし、爆撃で亡くなった人もいます。実はつい先日もドローンによる攻撃があったのですが、なんとそれは隣の家だったんです。夜中に爆撃の音でハッと目が覚めて「あ、僕じゃなかった」と感じる。それが日常です。当初はすごくショックを受けていたけれども、そんな日々が2年も続くと、慣れっこになってしまいました。悲しいことですが。

 でもこうやって海外にやってくると、多くの人が当たり前に暮らし、人生を楽しんでいるんだなと感じますね。ウクライナではサイレンが鳴ったらショッピングセンターが閉められ、子供たちは防空壕へ駆け込むという日々がずっと続いています。多くの人が家や車を失っただけでなく、さまざまな機会を失っています。僕らの生活は一変してしまいました。でも我々が戦う理由ははっきりしています。そして世界中が支援してくれていることを感じます。超大国ロシアに比べたら、僕たちウクライナはほんの小さな国です。もし一対一で戦ったなら、ウクライナに到底勝ち目はないでしょう。しかし世界中からの応援のおかげで、僕らは持ち堪え、戦い続けることができるのです。

オレグ・ザゴロドニー

ウクライナの映画・演劇・テレビ俳優。1987年10月27日、キーウ生まれ。キーウ国立I.K. カルペンコ=カリー演劇・映画・テレビ大学で学び、2010 年に卒業。2010 年よりレシャ・ウクライナ国立アカデミック劇場に所属。2015年、キリル・セレブレニコフが芸術監督を務めるモスクワの劇場ゴーゴリ・センターに招かれる。2010年からは映画にも出演し、「DEMONS」と「1942」でデビュー。2021 年、国際的なプロジェクトである本作に大抜擢された。
モデルでもあり、オレグがデザインしたミリタリー調の洋服の売上が、最前線にいる兵士への支援となる“Brave+1 ” を立ち上げている。
https://www.braveplusone.com.ua/

文=石津文子
撮影=深野未希

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