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【今年行くべきレストランの筆頭!】 大手町「CYCLE」で体験する 「循環型ガストロノミー」の世界

CREA WEB / 2024年2月23日 7時0分


ひと皿ごとに根、葉、花、実を表現した「CYCLE」のタパス ©Wataru Sato

 南仏のミシュラン3つ星「Mirazur(ミラズール)」を率いる、マウロ・コラグレコシェフ。その新たな美食の舞台となる「CYCLE(スィークル)」は、東京で今年行くべきレストランの筆頭格です。世界最高峰のシェフと称賛されるコラグレコ氏へのインタビューをベースに、「CYCLE」で展開される「循環型ガストロノミー」の世界を紐解きます。


名実ともに世界一のシェフ、マウロ・コラグレコ


笑顔がチャーミングな世界最高峰シェフ、マウロ・コラグレコさん。

 マウロ・コラグレコさんはアルゼンチン出身。2001年、23歳で渡仏し、故ベルナール・ロワゾー、アラン・パッサール、アラン・デュカスなど、フランスを代表するシェフのもとで研鑽を積みました。

 ゴージャス、リッチが上級とされていた従来のフレンチを、旬の新鮮な素材に沿った、繊細でみずみずしい料理へと革新していったシェフたち。マウロさんもそれぞれの料理哲学を受け継ぎながら、独自の進化をたどっています。

 2006年、南仏コートダジュールの東端にある港町、マントンで独立開業した「Mirazur(ミラズール)」は、すぐに話題の店となり、翌年にミシュランの1つ星を獲得。12年に2つ星、19年にフランス人ではないシェフの店では極めて珍しい3つ星を獲得したほか、同年の「世界のベストレストラン50」で1位、マウロさん自身も20年版「世界のベストシェフ100」の1位に輝くという快挙を成し遂げています。


地中海の景色を一望する3つ星レストラン「Mirazur」。© Mirazur

地域の生態系を映す「Mirazur」の料理。写真は蕪とオマールのタルト。© Mirazur

 とはいえ、マウロさん自身は、こうしたタイトルにさほどこだわっていないようです。

「非常に光栄なことですが、タイトルは結果であり目的ではありません。大事なのは、いつも自分自身でいること。そして、ゲストの喜びこそが自分の喜びであるという感覚です。ゲストに喜んでもらうために、常に新しいことを学び、挑戦し、自分自身も成長できるいまの環境に感謝しています」と、マウロさん。


タイトルより自分が成長することに喜びを感じると話すマウロさん。©Shifumi Eto

日本の生物多様性と食文化へのシンパシー

 日本への初出店となる「CYCLE(スィークル)」も、大きな挑戦のひとつ。背景には、日本との親密な関わりがあります。マウロさんの拠点である「Mirazur」では、開業当初から、何人かの日本人が働いてきました。フランスで1つ星を獲得した初の日本人女性シェフ、神崎千帆さんや、今回「CYCLE」のヘッドシェフに抜擢された宮本悠平さんも愛弟子のひとりです。

「日本人スタッフの繊細な感性や仕事ぶり、素材へのアプローチに刺激を受けてきましたし、私自身、2008年に初来日して以降、毎年のように日本を訪れています。豊かな風土に多様な食材、季節性と密接な関わりを持つ食文化、器や装飾品などの素晴らしい手仕事にも親しみと尊敬の念を抱いてきました」


マウロさんと、「Mirazur」時代の宮本悠平さん(左)。©Shifumi Eto

 宮本さんを「CYCLE」のシェフに抜擢した理由を聞くと、次のような答えが返ってきました。「宮本さんが『Mirazur』来たのは2019年。当初は見習いのポジションでしたが、すぐに頭角を現し、あっという間にスーシェフになりました。優れたセンスと才能の持ち主であることはもちろん、私が特に感心したのは、彼の作る“まかない料理”です。

 仲間や私の家族のためにランチを作ってくれるときも、彼は「人を喜ばせたい」という精神で臨んでいました。その料理は繊細で、丁寧で、愛にあふれていた。彼が日本のゲストの嗜好をよく知っていること、かつ私の料理を理解していることも重要な条件です。『CYCLE』のヘッドシェフとして、これ以上の人はいないと思っています」。

シェフとして土壌と生物多様性の保全に尽力

「Mirazur」では“ガーデン”と呼ばれる農園で野菜やハーブを育て、料理の主軸にしています。その土地の風土や生態系と調和する農法や土壌へのアプローチは、自然農法の先駆者として世界的に知られる故・福岡正信さんの影響によるところが大きいのだとか。

 2020年からは、天体の運行に沿った農事暦“バイオダイナミック・カレンダー”に着想を得た「根(土)」「葉」(水)」「花(光)」「実(熱)」のコースを数日ごとに展開。自然が主導する「循環型ガストロノミー」を追求しています。


さまざまな植物、昆虫、微生物が混在しながら調和し、ひとつの生命体のように輝く「Mirazur」の“ガーデン”。© Mirazur

 例えば「葉」の日は、植物の葉や樹液の流れを意識したメニュー、「実」の日は旬の果実をふんだんに使ったメニューが主役のコースに。ゲストは、それらの食材を育み絶え間なく循環する生態系そのものを味わうことができるのです。しかも、最高にガストロノミックなひと皿として。


ある日の「葉」のコースから。植物の苦味や酸味、えぐみさえも活かす。©Shifumi Eto

コロナ禍のロックダウンは、環境問題と向き合ういい機会だったという。© Mirazur

 マウロさんは2022年、「生物多様性のためのユネスコ親善大使」に就任(料理人としては初)。土壌と生物多様性の保全を推進し、日々のオペレーションのなかでサステナビリティに取り組んでいます。

「自然の循環を途切れさせず、次の世代へ繋げていくことに強い責任を感じています。その役割を全うするために、私自身ももっと成長しなければなりません」

「CYCLE」で体験する循環型ガストロノミー


「CYCLE」では、約2500年前に鳥海山の噴火で埋もれた木材を店内オブジェやテーブルに使用。©CYCLE

 東京・大手町の『CYCLE』においても、サステナビリティは重要なミッション。その店名には、美食の体験を通して、常に生まれ変わる自然の美しさや、循環するエネルギー、すべての生物の相互作用を再表現したいというマウロさんの思いが込められています。

食材は国産および関東近県のものを積極的に使用し、理念を同じくする農家とともに、開業前から自然農法による野菜やハーブの栽培に着手。さらに、廃棄物ゼロを目指して無駄のないレシピを開発、すべての活動から使い捨てプラスチックを排除するなどして、環境への負荷を最小限にする工夫を重ね、「循環型ガストロノミー」を実践しています。


マウロさんが信頼を寄せる千葉・鴨川の自然農園「苗目」。©CYCLE

「東京という巨大なマーケットには、こちらから足を運ばずとも全国各地から優れた食材が集まってきます。それでも、私たちはやはり産地へ出向き、そこで何が起きているのか、行われているのかを見て、そのうえで素材を選ぶというアプローチを大切にしています」


「CYCLE」の前にも小さな“ガーデン”を作りハーブなどを育てている。©Wataru Sato

「『Mirazur』では、1年は365シーズンあると考え、“ガーデン”の収穫次第で日々のメニューを変えています。産地から遠く人員にも限りがある東京で全く同じことはできませんが、基本的な理念は同じ。季節性を重視し、そのときにある最も素晴らしい素材に沿ってメニューを変えていきます」


根、葉、花、実をそれぞれ表現した「CYCLE」のミニャルディーズ。©Matteo Carassale

『Mirazur』では、日によって根、葉、花、実のコースのいずれかを提供しているのに対し(これを可能にするため100人近いスタッフがいるそう)、『CYCLE』では1つのコースの中で、根、葉、花、実という植物のライフサイクルが表現されます。これは、マウロさんが手掛ける数あるレストランの中で唯一、『CYCLE』だけのエキサイティングな試みです。

「生物が生まれ、終わり、再生していく。その全体の流れ、循環=CYCLEを感じていただけるコースです。季節の素材が持つパワーを感じられるよう、そのベクトルを活かした調理、味付け、盛り付けを意識しています」

多様な食材を生む自然界のシステム全体を食べる


バラを主役に、蝦夷鹿を脇役に据えたディナーコースの一品。©Wataru Sato

「CYCLE」のディナーコースは、タパス、料理5皿、デザート2皿、小菓子からなる「Symbiose」(29,040円~/税サ込・以下同)と、タパス、料理6皿、デザート2皿、小菓子からなる「Inspiration」(38,720円~)の2種類。

 最初に登場するのは、その日のメニューで使う野菜の皮、葉、茎などの端材から作られた“ウェルカムブイヨン”。廃棄物ゼロを目指す店の姿勢を示すものですが、パルミジャーノで旨みをプラスしたり、秋には金木犀、冬には柚子といった季節の香りを添えることで、素材のおいしさを際立ただせています。


日常的に出るロスを風味豊かなブイヨンに再生。家庭でも真似したい試み。

 以下、初冬のある日のコースから、その一部をご紹介しましょう(メニューは頻繁に変わるので、その点はご了承ください)。まずは、どのコースにも含まれる4皿の「タパス」。それぞれ、根、葉、花、実という、種のライフサイクルを表しています。

 この日の「根」は、玉ねぎが主役。キャラメリゼした玉ねぎとタピオカで作った生地を筒状にし、その中に玉ねぎのコンポートのピュレに、アンチョビやオリーブ、パセリなどを合わせキャラメリゼしたものを詰めています。


左から反時計回りに、根、葉、花、実を表したタパス。©Wataru Sato

 苔玉のようにも見える「葉」は、牡蠣のクリーム、焼いた牡蠣、エストラゴン(タラゴン)の入ったカレー風味のコロッケ。ピョコンと芽吹いたようなエストラゴンの葉が愛らしい一品です。器いっぱいの菊花にのせた「花」は、炙りしめ鯖、りんご、エシャレットのクリームに菊花のピクルスをあしらったタルト。

「実」は、栗粉、栗のはちみつを使った甘くないフィナンシェ。どの皿も見た目から味が想像できない食感、風味の驚きがあり、ちょっとしたクイズのようにテーマを探るのが楽しいタパスです。

 野菜を主役とするいくつもの皿のなかで、シグネチャーディッシュのひとつとされているのが、「ビーツ/キャビア」。ビーツのカルパッチョ、クリーム、オシエトラキャビアの一品です。


塩釜焼きにするビーツ。日本のビーツは欧州のものに比べて味わいが優しい。©Matteo Carassale

ビーツの土臭さは大地の風味として昇華され、驚くほどエレガントな口当たり。©Matteo Carassale

 ビーツは3時間かけて塩釜焼きに。土っぽさを除きながら甘味と旨味を引き出し、生クリームとオシエトラキャビアで大地と海の風味を併せ持つソースがたっぷりとかけられます。その極めてエレガントな味わいといったら、もう。ビーツのポテンシャルに驚かされる逸品です。

「セリ」は、まさにセリを丸ごと味わう、ミネラル感いっぱいの料理。蕎麦のプラリネを細かく砕いて大地の食感を表したものに、セリのピュレ、シーフードのラグ―、むかご、ナラ茸、セリのエマルジョンを重ね、セリの根のフリットを添えています。


セリの鮮やかな緑とみずみずしい香りが食欲をそそる。©Wataru Sato

エマルジョンの下には、オキシジミ、ムール貝、バイ貝、コウイカなど。©Wataru Sato

 器が示す通り、スプーンで底からすくい軽く混ぜるようにしながら食べると、さまざまな魚介類の旨味とセリの青い風味、蕎麦やフリットの香ばしさがさざ波のように口中を行き来し、体のすみずみへと染み込んでいきます。


ウニのパンナコッタやターメリックのピクルスなどを人参のカルパッチョで覆ったひと皿も。©Matteo Carassale

 肉料理の名は「バラ」。バラの花の香りを楽しむために、同じバラ科のりんごと、北海道の鹿を使ったひと皿です。丸のままじっくり焼いたりんごと、同じく薪焼きの蝦夷鹿は、仕上げに藁の香りをまとわせています。


肉料理は薪火でじっくり焼き上げる。©Wataru Sato

カットした鹿を、生のりんご、バラ、バラのジェルとパウダーとともに。©Wataru Sato

 ソースは、りんご果汁のブイヨンに、ジュニパー、アニス、ハイビスカス、バラの花を加え煮詰めたものと、鹿の骨で取ったジュの2種類。別皿で、鹿バラ肉のリエットとりんごのピュレを入れたバラのチュイルが添えられます。バラ、薪火、藁の香りのアンサンブルがなんとも華やかで、まさに「香りを食べる」メニューと言えるでしょう。

 デザートは、マウロさんの生まれ故郷であるアルゼンチンのタンゴダンスの名前でもある「オレンジと花」。サフランクリームと、オレンジのリダクション、その上に生のオレンジとアーモンド、オレンジのソルベ、アーモンドミルクのエスプーマを重ね、極薄のクリスタリン(結晶糖)をのせています。


「オレンジと花」という名のシグネチャーデザート。©Matteo Carassale

 スプーンの背でクリスタリンを割る音はタンゴの軽快な足踏みのよう。太陽のまばゆい光を凝縮したようなオレンジの甘酸っぱさを、アーモンドミルクの素朴でフローラルな風味が包み、幸せな余韻を残します。

 今回ご紹介したように、アーティスティックで示唆に富んだ料理が次々と登場する「CYCLE」のコース。味わいが難解かというとむしろ逆で、「この野菜って、こんな美味しさも秘めていたんだ」と、これまで自分が気づかずにいた要素を含む素材本来の味がストレートに伝わってきます。

 どんなに優れた食材もそれ単体では存在し得ないように、人間も地球の生物多様性の一要素に過ぎません。生態系を丸ごと味わうような「CYCLE」の循環型ガストロノミーは、「おいしい」の先にある未来への想像を広げてくれます。


エントランスでは樹齢300年を超えるオリーブの木がゲストを迎える。©CYCLE

CYCLE

所在地 東京都千代田区大手町1-2-1 Otemachi One 1F
電話番号 03-6551-2885
営業時間 17:00~22:00 土日祝11:30~13:00、18:00~22:00(すべてL.O.)
定休日 月曜 
https://cyclerestaurant.com/

文=伊藤由起
撮影=佐藤 亘
協力=江藤詩文

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