伊勢谷友介との掛け合いは「必要以上に焚きつけさせてもらいました」若葉竜也が明かす『ペナルティループ』
CREA WEB / 2024年3月22日 17時0分
4月から、『市子』でも共演した杉咲花との医療ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(フジテレビ系)もスタートする若葉竜也。2022年からの映画公開作を振り返った【後編】では、コロナ禍に出演を決めた異色作『ペナルティループ』への想いをたっぷり語ってもらいました。
●一人の人間として興味がある「杉咲花」
――昨年末に公開された『市子』では、行方不明になった杉咲花さん演じる市子を捜し続ける恋人・長谷川を演じられました。それにしても、愛する人を失う役が多くないですか?
愛する人がいなくなる役って、精神的にもすり減っていくんで、やっぱしんどいなと思いますよ(笑)。
でも、『市子』で感情の赴くままとか、身体が反応するまま、ポーンと動けたんですよ。それで公開初日に、俳優仲間から電話がかかってきましたね。初日にかかってくるってことがやっぱ大きくて、それだけみんなアンテナに引っかかっていたと思うんですよ。
もちろん賛だけでなく、否の意見もありましたけれど、それもやっぱり初日なんです。そういうプロも無視できない作品に参加できたっていうことは、やっぱり役者をやるうえでの醍醐味ですよね。
――若葉さんから見て、杉咲さんの凄さは? また現場の雰囲気はいかがでしたか?
杉咲さんは明らかにあの世代の中では、断然ぶっちぎってるというか、太刀打ちできないバケモノみたいな存在だと思いますね。まだ20代半ばで、あそこまで映画のセンスとか、芝居のバランス感覚みたいなものを持っているので、「この後、どうやって戦っていくんだろう?」って。
「杉咲花」という人間自体に、ものすごく興味があります。深刻なテーマを扱った作品でしたが、現場はそこまでヒリヒリとしている感じではなかったです。台本読みの段階から、戸田彬弘監督と一緒に話し合い、ときに発言しながらやっていく、とてもクリエイティブな現場でした。
●『ペナルティループ』を2本目の主演作に選んだ理由
――そして、最新作となる『ペナルティループ』では、最愛の女性の復讐を何度も繰り返す岩森淳を演じました。『街の上で』以来となる主演作に本作を選んだ理由は?
その理由は二つあります。ちょうど出演のオファーが来たときって、コロナ禍で第2波、第3波で騒がれている中、戦争のことも含めた世界情勢など、いろんなニュースが飛び込んできた時期で、自分の中で発散できない閉塞感や怒りみたいなのがあったんです。撮影はあっても、発言一つ、アンタッチャブルなことが多すぎて、俳優も含めて、保守的になっていたし。
そんなときに、こんなめちゃくちゃな脚本が届いて、「一緒に作りましょう」って言われたら、「こんな状況をブッ壊そう!」と、何か手を差し伸べられたような気分だったんです。脚本を読み始めたときは「また孤独な役か!」って思ったんですけれど、今度は明らかに毛色が違いましたね(笑)。
――そして、もうひとつの理由は?
映画に参加するときの自分のメンタル的には、主演とか主演じゃないとかは関係ないんですけれど、客観的に見たとき、『街の上で』の次の主演作は、誰も手をつけないような作品にしたいと思っていたんです。
最近は友だちから「竜也、あの映画に出てそう」と言われることが増えたし、「次、この俳優がやりそうな事」みたいなのを意地悪な視点で客観的に自分を観たりするんですけど、「だいたいこういう若葉みたいなタイプの次の主演作は、過激なベッドシーンのある作家性が強めの中規模よりちょい規模大きめの映画で、“問題作!”とか破滅的な愛の物語とか言われちゃって、映画賞取っちゃう。ダサっ」みたいな(笑)……。そうはなりたくないなって。
そんなときに『ペナルティループ』に出会って、「あ、これだ」って。タイムループものとしての面白さ以上に、「こんなおかしい脚本、どんな人が書いているの?」という気持ちが強まりました。それで、すぐに荒木伸二監督に会ったんですが、やっぱり想像通りの人でした(笑)。
●かなり鋭利で面白い「カルト映画」の誕生
――劇中の見せ場のひとつといえるのが、伊勢谷友介さん演じる岩森の恋人を殺めた溝口との掛け合いです。
伊勢谷さんとは、今までお会いしたことがなかったんですよ。久々の復帰作ということで、エンジンをかけてもらうため、「これって、どう思います?」って聞くことで、必要以上に焚きつけさせてもらいました。
これは全スタッフに向けてもそうで、監督がワンマンだったり、「今日のスケジュールを消化できればいい」と思うような現場にはしたくなかったんですよ。なので、座長というか主演の立場から、みんなが自由に発言できる空間を作りました。それによって、一時間現場が止まったりもするんですが、その方が絶対、面白い映画ができると思うんですよね。何度も何度も、伊勢谷さんを殺さなきゃいけないのはしんどかったですけど(笑)
――本作を「カルト映画」と認定されたそうですが、その理由は?
観終わった後、塚本晋也監督の『鉄男』を初めて観たときの感覚になりつつ、「普通の日本映画が大好きな方に、到底受け入れられるものではないな」と思ったんですよ(笑)。
でも、自分が読んだ台本を遥かに超えて、かなり鋭利で面白いものに仕上がっていたんです。上から目線じゃないですけれど、これだけ娯楽が増えている時代に、今までない手触りだったり、毛並みを持った『ペナルティループ』という作品が投げ込まれたときに、お客さんがどういう反応を示すんだろうっていう興味は、すごくあります。
●これからは、もう少し間口を広げなきゃいけない
――以前のインタビューで「これからも粛々と戦っていきたい」というコメントを残されていましたが、近年2年半の公開作を振り返っていかがでしたか?
別に「頑張ったな」とは思わないですけど、世間に惑わされず、ブレずに、自分がやりたいと思う作品だけに参加できているっていう意識はあります。それを続けていかなきゃいけないし、そのためにはハメを外してはいけないと思うし、粛々とやらなきゃいけないと思いますよね。
ただ、大きく変わったのは、やっぱり独立して、新しい事務所を作ったことで、背負うものは出来ました。綺麗事だけでは無理なので、そういう意味では、もう少し間口を広げなきゃいけない意識も芽生え始めています。
――ほかに、コロナ禍などでの心境の変化はありますか?
コロナ禍で閉館が相次ぐ「ミニシアターを残そう」っていう俳優の動画がたくさんアップされたとき、ちょっと疑問を覚えたんです。本気で考えている人もいるかもしれないけれど、実際に俳優が映画の宣伝会議にも行ってないし、ビジュアルがどうなっているのか、誰が予告編作っているかも分かってないんですよ。それを全部すっ飛ばして、「ミニシアターを残そう」って言うのって、ちょっと虫が良すぎないか? って。
「役者がそこまで突っ込むことじゃない」っていう概念もあるだろうし、生意気だと思われたくないし、嫌われたくないのは分かるけれど、自分のデメリットは負いたくないけど、その活動に参加するっていうのは、よく分からなかった。スタッフ、監督、役者が納得できる作品を自信を持って作ったうえで、「ミニシアターに来てくれ」って言いたいと思いましたから。
●今後も作品作りに積極的に参加していく
――そういう熱い気持ちで、『ペナルティループ』に挑まれたわけですね?
『ペナルティループ』に関しては、ビジュアルに関しても、予告編や宣伝に対しても、首を突っ込んでいます。一応主演なので……(笑)、責任もありますから。もちろん、今回はプロモーションや舞台挨拶などにも積極的に力を注ぎますし。
4月からは杉咲さんとの医療ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(フジテレビ系)が始まりますが、そこでも脚本会議から参加していますし、ここまで作品作りに首を突っ込んだことで、嫌われて、仕事ができなくなったとしたら、もういいかなとも思っているぐらいの覚悟はあるし、その程度の場所にいるのは意味ないな、という認識もありますから。
そんな保守的で「宣伝に口出すな! 監督に口出すな! 脚本に口出すな! 役者は芝居だけしとけ! だけど、宣伝でたくさんバラエティは出てね! 楽しそうにね! 笑顔で!」って……ね。それを総合芸術って言うなら、正直興味ないです。
若葉竜也(わかば・りゅうや)
1989年6月10日生まれ。作品によって違った表情を見せる幅広い演技力で、数多くの作品に出演。『葛城事件』(16年)では、第8回 TAMA映画賞・最優秀新進男優賞を受賞。20年のNHK朝ドラ「おちょやん」に出演するほか、主演作『街の上で』(21年)、『窓辺にて』(23年)、『ちひろさん』(23年)などの今泉力哉監督作に多く出演。4月より出演ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(フジテレビ系)が放送予定。本作が主演2作目となる。
Tシャツ 16,500円 RIVORA リヴォラ(STUDIO FABWORK スタジオ ファブワーク 03-6438-9575)
パンツ 36,300円、カーディガン 39,600円 JUHA ユハ(03-6438-9575)
コート 96,800円 08sircus 08サーカス(08book 08ブック 03-5329-0801)
シューズ 40,700円 ASICS RUNWALK アシックスランウォーク(0120-777-591)
文=くれい響
撮影=今井知佑
スタイリング=タケダトシオ(MILD)
ヘア&メイク=FUJIU JIMI
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