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10分の撮影が生んだ“発想の転換” 日本の広告写真を牽引する 瀧本幹也が語る「AI時代の仕事術」

CREA WEB / 2024年4月4日 11時0分


『Mikiya Takimoto Works 1998-2023』書影。©Mikiya Takimoto

 日本に暮らしていればだれしも、一再ならずこの人の写真を目にしているはず。

 広告写真から壮大な風景写真、CMに映画撮影まで、ジャンルを軽々と越えて数多の斬新なイメージを生み出し続けているのが瀧本幹也さんだ。

 キャリアスタートから25年分のクライアントワークを一冊にまとめた『Mikiya Takimoto Works 1998-2023』刊行を機に、作家本人の声を聞いた。


ひしひしと感じる『AIの脅威』

 広告の仕事をまとめた『Mikiya Takimoto Works 1998-2023』を、瀧本さんがいまこのタイミングで刊行したのは、意図や意味あってのことだろうか。

「この仕事を四半世紀続けてきた節目だったということもありますが、もうひとつ、『AIの脅威』をひしひしと感じるようになってきたというのも理由としてあります。

 このところの画像生成AIの進展と実力には、目を見張るものがあります。すでに実写とほとんど違わぬイメージが簡単につくれてしまう。広告ならうまくAIを活用すれば、クライアントが『こうしたい』というものを、大きな予算、カメラマン、モデル・俳優すべて抜きで実現できてしまいそう。


AXIS「デザインとAIが生成する未来」Vol.227(2023年12月28日発売号)

 じゃあこちらとしては、どうしたら生き残れるのか。写真を仕事としてやっていく立場としてはじっくり考えなければいけません。この仕事集をつくることで、そのあたりのことに改めて向き合いたかったのです。

 実際のところAIは、過去の産物を学習したうえでそれらを再構成・再構築していくしくみなので、前例のないまったく新しい表現を生み出しにくい傾向にあります。ならば僕らはいかに新しいイメージを生むか真剣に考えるべきだし、人間の強みである身体性を駆使して汗をかきながら、本気でものをつくらなければいけない。

 これは写真にかぎらず、どの職種もそうですよね。危機感を持ちながら、AIとどう協働していけるか探るのがいい。そこから新しい表現も出てくるんじゃないでしょうか」

「10分・5カット」の撮影が生み出した表現


サントリー天然水(2022)©Mikiya Takimoto

 常に創意を尽くすべきことの実例を、瀧本さんに挙げてもらった。雑誌『CUT』で女優・中谷美紀さんを撮影した仕事。

「映画の公開に合わせた取材で、中谷さんは1日に何本もの取材を受けるスケジュールとなっていました。媒体ごとに割り当てられる場所と時間は、ホテルの一室で50分のインタビュー+10分の撮影のみ。編集部の要望としては、5カットほど欲しいとのこと。

 10分で5カットとなればふつうに考えて、ソファに座ってもらい引きと寄りのカットを撮り、脇に立てておいた白バックのスクリーン前に立ってもらい引きと寄りを撮り、あとは横顔も押さえておこうというくらいしかできない。

 それなら時間内に撮り切ることはできそうだけど、新味はとくにない。そこで『10分』『5カット』という要件と向き合い考え直してみました。思いついたのは、ワンシャッターで5カット撮っちゃえばいいんじゃないかというアイデア。

 室内に5台のカメラを据え置いて、シャッターを押せばすべて同時に撮影できるようなしくみを工夫しました。5枚の写真が同じ瞬間を撮っているものだとわかるように、水の入ったグラスを中谷さんに持ってもらい、それを落とした瞬間を写しました。


CUT 中谷美紀 ©Mikiya Takimoto

 結果として緊迫感ある、そして見たことのない5枚組の写真を撮ることができました。あきらめず考えを尽くした末の、発想の転換が生み出した表現です。

 こういうことをすると、準備は大変なことになってしまいます。このときも前日の夜から撮影間際まで、十数時間を費やしました。それぞれのカメラが写り込まない位置を割り出したり、ブレのないかっちりした画面にしたかったので露出やシャッタースピードを何度も検討したり。

『10分しかないんだったらどうせこんなのしか撮れないよ』などと愚痴を言っていても始まりません。それよりもまずは考えて、とにかく動くことが大事ですね」

いまも毎度「ゼロ地点」に立って撮影に臨む

『Mikiya Takimoto Works 1998-2023』のページをめくっていると、つくづく思う。よくぞ毎度イメージや撮影のアイデアを思いつくものだと。上記の「10分・5カット」の撮影では、与件を見つめ直すことで撮影法を導き出しているが、いつもゼロから方法論を編み出しているのだろうか。決まった「撮影の方程式」みたいなものはない?


サントリー天然水(2022)©Mikiya Takimoto

「決まったものはありません。仕事にはそのつどたくさんの要素が絡んできますから、方程式に当てはめるようなやり方はかえって難しい。それに自分としても、やっぱり毎回ゼロから考えたくなるのです。

 長く仕事をしていれば、自分のなかにある過去の成功事例に照らしてベースの部分は変えず、『7』か『8』くらいからスタートすることはできます。仕事を頼む側だって『過去のあの仕事のトーンでやってほしい、そんな新しいこと求めてないから』というところもあるでしょう。

 そうなるとかえって天邪鬼の性質が頭をもたげて、絶対に相手が予想もしてないものを出してやろうという気持ちになってしまいますね。すこしでも長く見る人の目を留め、記憶に残るものにしたいですから。そのためには、人の心がぐっと動く写真とはどういうものか、とことん追求しなければいけません。ひとつの気づきとしては、自分が撮っていて感動したり興奮した気持ちは、写真にはっきり表れるようです。ならば写真家側は、いつもゼロベースで撮影をスタートさせて、感動したり興奮したりしながら撮ることを続けるしかありません」


サントリー天然水(2022)©Mikiya Takimoto

 四半世紀にわたる仕事をまとめ上げた作品集から、瀧本幹也という写真家は一時たりとも進化と変化をやめないことが見てとれた。では私たちは今後、どんな瀧本作品を見ることができるだろうか。

「コロナ禍を機に撮りはじめた花の写真やお寺の写真を、本のかたちにまとめているところです。身も心も閉じこもりがちだった当時、写真を撮ってるときが唯一、心の潤う時間でした。自分は写真に助けられたという気がしました。

 写真には人の心を動かしたり救ったりする、不思議な強い力があると僕は実感しています。広告写真であれ個人的な写真であれ、これからもその力を伝えていくことができたらと思っています」


Mikiya Takimoto Works 1998-2023

定価 9,900円(税込)
青幻舎


瀧本幹也(たきもと・みきや)

1974年生まれ。広告写真やCM映像をはじめ国内外での作品発表や出版など幅広く活動を続ける。写真と映像で培った豊富な経験と表現者としての視点を見いだされ、是枝裕和監督から映画撮影を任され『そして父になる』、『海街diary』、『三度目の殺人』と独自の映像世界をつくり出している。代表作に、『BAUHAUS DESSAU ∴ MIKIYA TAKIMOTO』、『SIGHTSEEING』、『LOUIS VUITTON FOREST』、『LAND SPACE』のほか、『Le Corbusier』、『CROSSOVER』など。

『Mikiya Takimoto Works 1998-2023』刊行記念トークイベント 瀧本幹也×正親篤

日程 2024年4月6日(土)
時間 16:30~18:00
開場 16:00~
料金 1,540円(税込)
定員 100名
会場 青山ブックセンター本店 大教室
https://aoyamabc.jp/products/0406-mikiyatakimotoworks19982023

文=山内宏泰

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