隣人の家に現れ続ける“成長する幽霊”の正体とは……。未来予知が見せる衝撃の結末
CREA WEB / 2024年4月24日 17時0分
2016年からライブ配信サービスTwitCastingで放送している怪談チャンネル「禍話」。語り手であり北九州で書店員として働くかぁなっき氏と、聞き手であり彼の大学時代の後輩である映画ライターの加藤よしき氏の名コンビが、軽快なトークともに繰り出す怪談の数々は、その語り口とは裏腹に一度聞いたら忘れられない恐ろしいものばかり。
今回は、そんな「禍話」から“不可思議な隣人”にまつわる悪夢めいた恐ろしいストーリーをご紹介します――。(前後編の後編)
自分にしか見えていない女の子の姿
回覧板を渡しに行ったり、買い物帰りに一緒になって身重の彼女のために荷物を運ぶのを手伝ったりと、AさんがMさんの家を訪ねるタイミングは何度もありました。
パタパタパタパタ……。
Aさんはその度にMさんの家の廊下を駆けていく“小さな女の子”を目撃したそうです。
「あの子は誰?」
何度もそう聞こうとしました。しかし、一切女の子の姿が見えていないし、駆け回る音も聞こえていないと言わんばかりのMさんの素振りを見ていると、Aさんはなんだか怖くなって質問できなかったといいます。
そんな奇怪な日々を送るうちに、Aさんは自分の見えているものがこの世に存在していないのではと思い始めたそうです。
その日の夜。Aさんは旦那さんにこれまで自分が見てきたことを話しました。
「本気で言っている……?」
「ねえ、ここ事故物件とかじゃないわよね?」
「借りるときに聞いたけど何にもなかったよ……」
あのプラスチック製の椅子、それにあのまるで生きているような子どもの顔。
それまで霊感など一切なかったAさんは、ひどく混乱したそうです。
「あの子、成長しているんじゃないかな……」
ある日の休日。
Aさんは家に帰るなり部屋でくつろいでいた旦那さんにこう言いました。
「私、心療内科とかに行ったほうがいいのかも……」
驚いた旦那さんがAさんから聞いた話はにわかには信じられないものでした。
Aさんが買い物から家に帰ると、一階の駐車場でMさんとTさんが大きな荷物を運んでいるのに出くわしました。
「Mさん、お腹の子が女の子だということがわかったらしいんだけど、それで嬉しくなって今日大きなスーパーで女の子用のプラスチック製の椅子を見つけて勢いで買っちゃったんだって。でもね−−」
Aさんの背筋に悪寒が走ったそうです。というのも、2人が運んでいる椅子のデザインがあのとき部屋で女の子が座っていた椅子と全く同じだったのです。
「でも、椅子が同じデザインだったからというだけで病院行くっていうのは……」
「違うの。私、その後Mさんの家に椅子を運ぶのを手伝ったんだけど、そのときに−−」
椅子の箱の片端を掴んだまま背を向けて部屋に入っていくTさん。Aさんは箱の反対側の持ちながらTさんと一緒に部屋に入っていったのですが、そのときに、開いていたドアの向こうのリビングで、5歳くらいの女の子がじっとTさんを見つめていたというのです。
「5歳くらいって、この前見たときは2、3歳の子って言っていなかったっけ」
「あの子、成長しているんじゃないかな……。あのね、こんなこと考えたくないけど、その子、Mさんのお腹の子の未来の姿なんじゃないかなって。だって、顔つきが似ているのよ」
Aさんは言葉を失っている旦那さんを見て、深いため息をつきました。
「……何言っているんだろう、私。どうかしちゃったのかな」
数ヶ月後。
Mさんは女児を出産しました。
Mさんが無事に自宅に戻ったときにはAさんも喜んだそうで、嬉しそうなMさんとTさんを見て、『もしかしたらこれで女の子はもう現れないかも』と思ったそうです。しかし、現実に女の子が生まれてからも“あの女の子”は見え続けました。
Tさんが買い物に行くときに後ろに付いていったり、回覧板を届けるときに廊下の隅に立っていたりと、当たり前のようにMさんの家に現れる女の子。
彼女は現実の人間の数倍の速度で成長しているようで、あっという間に中学生になっていました。その着ている制服は地元の中学校のもので、Aさんは『ああ、Mさんたちはこの子が中学生になるくらいまでは、この辺りに住み続けるのだろうな』と思ったそうです。
慣れというのは恐ろしいもので、この異常な日常も実害がないといつの間にか当たり前になってしまい、Aさんは成長を続ける“未来の女の子”を見て見ぬ振りをしながらやり過ごしていました。
しかし、あの日ついに決定的なできごとが起きてしまったのです。
部屋を照らした雷の明かりでAさんが見たものとは
その日は朝から曇りで、Aさんは天気予報を見て早めに洗濯物を取り込んでいました。あらかた取り込み終えた頃にはザアザアと雨が降り始め、次第に雷まで鳴り出していたといいます。
「あれ、Mさん家まだ洗濯物干したままかな?」
Aさんは洗濯物を畳みながら、さっきベランダで隣のMさんの洗濯物がまだ干されたままだったことを思い出し、慌てて外廊下に出て、Mさんの家のインターホンを押しました。
ピーンポーン。
「はーい」
ドアを開けてくれたMさんは、育児の疲れからかさっきまでうたた寝でもしていたような表情でした。
「Mさん、雨降っているよ。洗濯物!」
「え、あ、本当だ!」
慌てて電気の点いていないリビングを走り抜けてベランダに出ていくMさん。
ピカッ! ゴロゴロゴロ!
雨音を切り裂くように鳴り響く雷鳴。
Aさんは、薄暗いリビングに高校生くらいの背丈に成長していた“あの女の子”が座っているのを見ました。
うわ、もうこんなに大きくなっている……。
「ごめんなさいね! 声かけてもらっちゃってー! 助かったわー!」
ベランダから大きな声でこちらに話しかけているMさん。
「い、いいえー! 気になったから急に声かけちゃったまでで」
突然、女の子がスッと椅子から立ち上がりました。
「ヒッ……!」
その瞬間、Aさんは思わず声を上げてしまいました。
立ち上がった女の子はお腹から下が血まみれで手には包丁が握られていたのです。その血はどうやらケガによるものではなく、誰かの返り血のようだったといいます。
Aさんの声に気がついたのか女の子はゆっくりと振り向くと、力なく笑ったそうです。
ピカッ! ゴロゴロゴロ!
再び部屋を照らした雷の明かりでAさんが瞬きをすると、女の子は姿を消していました。
「あの、どうかしました?」
「いや、別に……じゃあ、私はこれで」
それからしばらくして、Aさん一家はその公団住宅を引っ越しました。
もし、娘さんが高校生に成長し、あの子と同じような行動を取ったら? AさんにはとてもじゃないですがそのことをMさんに伝えることはできませんでしたし、何よりその日が近づいてくるのを側で見続けることなどできませんでした。
Mさん一家がどうなったのか。Aさんは何度も何度も調べようと思ったそうですが、その度に思いとどまっているのだそうです。
文=むくろ幽介
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