「川を流れていく小石のように」 【モデル・俳優・編集長】と3つの 靴を履く、山本奈衣瑠の“走り方”
CREA WEB / 2024年4月25日 17時0分
不格好かもしれないけど、しっかりと今を見据えて走る。
2024年4月26日(金)から公開される蘇鈺淳(スー・ユチュン)監督の『走れない人の走り方』では、理想とままならない現実の中で悩みながらも懸命に作品に向き合う、そんな若き映画監督の姿が生き生きと描かれている。
“上手に走れない”映画監督・小島桐子を演じるのは山本奈衣瑠。モデルとして活躍しながら、近年は俳優としても活躍の場を広げている。モデルに俳優に、さらには自身が編集長となり「EA magazine」という雑誌を立ち上げるなど、縦横無尽に走り回っているように見える彼女だが「私も桐子と一緒で、上手に走れない人だと思います」と本人は語る。作品について、そして山本さん自身について聞いた。
『走れない人の走り方』は愛おしい作品だと思います
――『走れない人の走り方』では映画祭に入選したことはあるものの、まだまだ新人監督の桐子がさまざまなトラブルに直面しながら、自身が撮りたかったロードムービーの完成に辿りつく姿に好感を持ちました。成長譚というか、彼女に観客自身も寄り添い「頑張って」とか「無理しないで」と自然に感じてしまう。桐子のダイアリーをめくっているような、そんな心持ちになりました。
桐子は不器用な人間で、どんなジャンルでもそれなりに走れちゃったりする子ではないんだと思います。それでいて、周りに迷惑をかけてでも好きなことをやっちゃうとか、私はこれがやりたいんだと我を通そうとしたり、自分勝手な部分もある。でもその強さは、映画を作ること以外自分はできないってことを理解していることの裏返しだったりもして。
私自身も不器用で、要領が悪いところがあるので、彼女に共感する部分は多かったです。でも同時に、私だけでなく、誰しもが少なからず悩んだり考えたりする部分なんじゃないかな。そういう意味でもこの映画は見ていただける皆さんにとっても愛おしく感じられる作品だと思います。
自分の走り方を肯定してくれる場所はきっとどこかにある
――モデルや俳優として活躍されている山本さんを見ていると不器用という言葉とは縁遠いように感じます。
それが全然そんなことないんです。
高校を卒業して、みんなが進学したり就職をしていく中で、私はやりたいこともないのに漫然と就職するのも違うかなって思ってフリーターになりました。でも同時に、当時はどうやって生きていけばいいんだろうってずっと考えていて。
私はたまたまモデルという職業に巡り合って、何かしら自分が得意としている分野はこの世の中に存在するんだ、と気づけたし、自分の走り方を肯定してくれる場所を見つけられただけなんです。
――世間一般的に働くことや社会に出ることは、ずっと自分のペースではいられなくなるということと一緒な気がします。桐子も予算の問題でやれることに制限がかかったり、プライベートの影響で気持ち的にこれまで通りには走れなくなったりします。
自分に合わないペースで走らなくちゃいけないって、難しいですよね。私もうまくできなくて、バイトの時とかいつも怒られていました。桐子もマイペースではあるけれど、走ってでも撮りたいものは撮るという強い想いがある子。でも、走る意欲はあるんだけれど、走り方がわからない。
最初は自分の「撮りたいもの」を言語化して周りのスタッフに伝えるということをしたがらないですしね。「やりたいことが決まってたら別にさ、映画なんて作らないし」って彼女が言うシーンがあるんですが、これは言葉にすることで固定化されちゃうことへの恐怖もあったんだと思うけど、映画作りの過程で自然と自分の思いが共有されていくものだと甘く考えていた部分もあったのかなと思います。
いろんなことに自分からぶち当たってみることで、選択肢が増えていく
――行き詰った桐子は実家に帰ったり、助監督として他の現場を手伝ってみたり。あれこれアクションを起こして考えを巡らします。
そうやって休んだり、もがいたり。ペースを変えながらだけど、走り続けることで桐子は自分の走り方を見つけるんですよね。自分からアクションを起こすことで映画を完成させるにあたっての選択肢が増えていって、製作チームとの対話が始まり、物作りの歯車が動いていく。
――桐子が「こうする!」と宣言した後の喫煙所のシーンでは、映画自身が完成に向かって走り出すワクワク感を感じ、観客ながら嬉しく思いました。
あのシーンは、桐子自身も不器用なりに自分は映画を作っていける、と確信したんじゃないかなと思います。
――山本さんの映画に対するコメントでは『走れない人の走り方』は桐子の、そして出演者の、さらには蘇監督の「眼差し」そのものであるともお話していました。
桐子はもちろん主人公として描かれていますが、映画製作にかかわるスタッフ、父親や同居人、直接桐子とは関係のない、キャストそれぞれのみんなの目線があって。それぞれの人生があるというのが感じられる作品なんです。
作品の本筋に直接的には関わらない登場人物にカメラがついていったり。いくつもの登場人物のサブストーリーが描かれるのを見て、映画って、こんなに豊かに、そして自由に撮ることができるんだって思いました。
――映画の中で一番印象に残っているシーンはありますか?
桐子が実家に帰るときに場面転換で画面全体が黒くなって、顔の部分だけポコっとまるーく切り取られるシーンですね。あの円の中に入りたい!(笑)。
今、自分は何をやりたいかを大切に過ごしている
――モデルとしてデビュー、その後雑誌を立ち上げたり、俳優としても活躍の場を広げている山本さんですが、これからやりたいことや目指しているものなどがあれば教えてください。
私、出来る限り初期衝動で動くようにしているというか、今自分は何をやりたいかを大切にしていて。10年後こうなりたい、20年後こうなりたい、と思って今の自分があるんじゃなくて、瞬間を積み重ねて、たまたま今の状態になっているという感覚が強いんです。
雑誌も俳優もそう。何かをやってみたいってゴールを決めてアクションを起こしたわけじゃなくて、ショーケースの中のケーキを見て「これ!」って選んだような感じ。その選択肢を増やすために、いろんな人に会ってみたり、ぶち当たってみたりというのを繰り返しています。
――10年後、何をしているか、どういう自分になっているか想像できない?
うん。そうです。面白いですよ。
なんか川を流れる小石のようにあちこちにぶつかって、自分がどこに流れ着くのか、どういう形になるかを決めているというか、委ねている。
自然と流れ着いた先が自分にとって心地よい場所だと思うんです。
トップス 31,900円、スカート 59,400円/共にAKANE UTSUNOMIYA(03-3410-3599)
ピアス 28,600円、リング28,600円/共にBONEE(EDSTRÖM OFFICE 03-6427-5901)
シューズ 35,200円/Purpred (03-3410-3599)
山本奈衣瑠(やまもとないる)
1993年生まれ、東京都出身。モデルとしてデビュー。モデルとして活躍しながら自ら編集長を務めるフリーマガジン「EA magazine」を創刊しクリエイターとしても活動。2022年からは俳優としても活躍の幅を広げ、『猫は逃げた』(監督:今泉力哉)で映画初主演に抜擢。今後の公開予定作品に『ココでのはなし』(監督:こささりょうま)、『夜のまにまに』(監督:磯部鉄平)、『冬物語』(監督:奥野俊作)、『オン・ア・ボート』(監督:Heso)など。蘇鈺淳監督とは東京藝大映画専攻17期 春期実習作品『鏡』で初めてタッグを組んだ。
『走れない人の走り方』
2024年4月26日(金)よりテアトル新宿にて2週間限定公開。
以降、横浜シネマリン、シネマート心斎橋ほか順次公開。
【テアトル新宿 公開初週にはイベントも!】
4/26(金)初日 20:00の回上映後舞台挨拶
登壇者:⼭本奈⾐瑠、早織、BEBE、蘇鈺淳監督
4/27(土)20:00の回上映後 公開記念舞台挨拶
⼭本奈⾐瑠、磯⽥⿓⽣、五⼗嵐諒、荒⽊知佳、綾乃彩、⾕仲恵輔、福山香温、窪瀬環、平吹正名(以上、出演)、蘇鈺淳監督
4/29(月)20:00の回上映後 トークイベント
登壇者:今泉力哉(映画監督)、⼭本奈⾐瑠、蘇鈺淳監督
4/28(日)20:00の回、4/30(火)20:30の回、5/1(水)20:00の回、5/2(木)20:00の回
短編『鏡』(監督:蘇鈺淳、出演:佐々木詩音、⼭本奈⾐瑠)特別上映
出演:山本奈衣瑠
早織、磯田龍生、 BEBE、服部竜三郎
五十嵐諒、荒木知佳、村上由規乃、谷仲恵輔
綾乃彩、福山香温、齊藤由衣、窪瀬環、平吹正名、諏訪敦彦
監督:蘇鈺淳
脚本:上原哲也、石井夏実
プロデューサー:黄申知、大槻美夢、小池悠補
撮影:齊藤夏寛
照明:織田知樹
美術:茅蘅
サウンドデザイン:城野直樹
録音:浪瀬駿太
編集:張馨予
音楽:スカンク/SKANK
配給:イハフィルムズ
映画『走れない人の走り方』公式サイト
https://hashirenaihito-movie.com/
文=CREA編集部
写真=釜谷洋史
ヘアメイク=kika
スタイリスト=佐藤奈津美
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