世界遺産高野山麓にある樹齢400年のカヤの樹に接木の痕跡を発見 当時の人々の交流や生活を推察する一端となる研究成果
Digital PR Platform / 2024年12月23日 20時5分
【本件の内容】
研究グループは、分子遺伝学的手法を用いて、紀美野町内のカヤの遺伝的構造※5を調査しました。本研究は、高野山麓のカヤの樹の成立を、分子生物学的手法を用いて解析した初めての調査となります。特に、根元は共通でありながら、部分的に異なる幹の特徴を示す樹が複数見いだされたため、複数の部位からDNAサンプルを採取して単一樹内の遺伝的差異の有無を検証することによって、これらの樹に接ぎ木技術が使われたことを明らかにしました。これにより、400年以上前から、カヤの樹において接ぎ木技術を用いた繁殖が積極的に行われていた可能性が示唆されました。
また、この解析で紀美野町内のヒダリマキガヤを含むカヤの樹の遺伝的構成に、これまでに知られていなかった地域的差異が存在することが初めて示されました。高野山地域のカヤの樹は人の手によって管理されていたと考えられるため、地域による遺伝的な差異は当時の人の交流圏の範囲や交流の密度を考える上で重要な情報となります。また、県の天然記念物に指定された「ヒダリマキガヤ群」は保護や活用が推進されており、本研究成果はそうした取り組みにも貢献できると考えられます。
【論文掲載】
掲載誌:近畿作物・育種研究会第197回例会講演要旨集
論文名:高野山麓の推定樹齢400年のカヤにおいてRAPD分析で検出された接ぎ木の痕跡
著者 :鞍雄介1,2、足立優貴2、奥紘雅2、藤井弘章3、堀端章2
所属 :1 りら創造芸術学園、2 近畿大学生物理工学部、3 近畿大学民俗学研究所
【研究の詳細】
1) カヤの樹の分布に関する調査
紀美野町内のカヤの樹の分布は旧高野寺領に偏っており、旧紀州藩領に栽植されている例はわずかです。ここから、カヤの樹の栽植は人の手によって積極的に行われたことと、その栽植に高野山の意向が強く関与していたことが推測されます。また、全国的にヒダリマキガヤの分布は著しく偏っており、高野山以外にも積極的にヒダリマキガヤの栽培を奨励した組織があったと考えられます。
2) カヤの樹のサンプル採取とゲノムDNAの抽出
紀美野町内の旧高野寺領内の2つの集落(図1)でカヤの樹のサンプルを採取しました。和歌山県指定天然記念物に指定されていない樹においては地権者の同意のもとに葉を採取し、天然記念物に指定されている樹においては、樹を傷つけることなく、落葉や落下果実を採取しました。得られた葉や果実の表皮からDNA抽出キットを用いて高純度のDNAを抽出しました。
3) RAPD-PCR※6 によるフィンガープリンティングパターン解析※7 とクラスター分析※8
採取したDNAを鋳型に用いて、予備実験によってあらかじめ選抜した7種類のランダムプライマーを用いたRAPD-PCRを行ってフィンガープリンティングパターンを得ました。ここで観察された多型バンドは65種でした。この65遺伝子座の遺伝子型にもとづいて、各サンプル間の非類似度行列※9 を作成してクラスター分析を行い、19種類のカヤの樹について樹形図を作成しました(図2)。
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