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【東京農業大学】植物の長期高温ストレス耐性には正確なmRNAスプライシングの維持が重要(2報同時掲載) 〜何日も続く高温に適応する作物育種へ期待〜

Digital PR Platform / 2023年11月14日 21時0分

研究背景
 高温は作物の生長や収量に影響を及ぼす重大なストレスです。近年の温度上昇による主要作物の収量減少が報告されており、植物の高温耐性メカニズムの解明、耐性植物の作出が重要な課題とされています。植物の高温ストレス応答については、これまでにシロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana) を含むモデル植物を中心に研究が進められ、細胞レベルにおける数分から1時間の素早くダイナミックな転写ネットワーク応答や、個体レベルにおける数時間で茎の伸長や下偏成長(葉を立ち上げる)を誘導する熱形態形成が知られています。従来の植物高温応答研究のほとんどは短期的な高温に対するものであり、長期的な高温に対するメカニズムはほとんど分かっていないのが現状でした。
 一方、自然界には劣悪環境でも生育可能な植物が存在します。その耐性メカニズムは将来の耐性作物育種に向けて興味深いものの、その鍵遺伝子の同定には未だほとんど至っていません。シロイヌナズナには2000種を超える野生系統*1が世界中に存在し、さまざまな表現型に多様性を示すことから、多様性を遺伝子レベルで紐解く良い実験材料となっています。これまでに研究グループでは、シロイヌナズナ野生系統間に見られる水不足耐性の多様性を決定する遺伝子を同定しました(Ariga et al., 2017 Nature Plants_doi: 10.1038/nplants.2017.72.)。しかしながら、シロイヌナズナ野生系統間における高温ストレスに多様性については不明でした。

研究成果
 174種のシロイヌナズナ野生系統について、「長期間続く高温ストレス(37°C_7 日間)」と「短期間の極端な高温ストレス(42°C_50 分間)」に対する耐性(以後、前者を長期高温耐性、後者を短期高温耐性とする)をそれぞれ評価しました(短期高温耐性については174種のうち88種を使用)。どちらのストレス耐性においても大きな種内多様性が認められた一方、長期高温耐性を示す野生系統は必ずしも短期高温耐性を示さなかったことから、長期高温耐性は、より一般に研究されている短期高温耐性とは異なるメカニズムに因って制御されていることが示唆されました。長期高温ストレス耐性系統と感受性系統を交配したF2集団*2を用いた遺伝学的解析により、長期高温ストレス耐性に寄与する遺伝子座を同定し、これをLHT1 (Long-term Heat Tolerance 1) と命名しました。この遺伝子座は、真核生物に広く保存され、mRNAのスプライシングに関与するRNAヘリカーゼ*3をコードするMOS4関連複合体(MOS4 Associated Complex, MAC)のMAC7と同一でした。長期高温感受性系統では1アミノ酸欠失がLHT1の機能欠損を引き起こし、その結果、スプライシングの異常が広く見られるようになっていました。
 他方、長期高温ストレスに高感受性を示すけれども、短期高温耐性は損なわれていないシロイヌナズナsloh3 (sensitive long-term heat 3)およびsloh63変異株を単離しました。sloh3およびsloh63変異株はいずれもLHT1同様、MOS4関連複合体を形成するMAC9、およびMAC17に生じた変異が原因でした。両変異株ともmRNAのスプライシングに異常が見られ、異常タンパク質の蓄積により引き起こされる小胞体(ER)ストレス*4が亢進していました。さらに、スプライシング阻害剤をシロイヌナズナ野生型植物に投与すると、長期高温耐性が濃度依存的に低下し、同様にERストレスが亢進しました。
 以上の結果より、MOS4関連複合体の正確なmRNAスプライシング維持が植物の長期高温耐性に不可欠なことが示唆されました。

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