糖脂質を標的にしたタンパク尿治療効果を確認 ~透析患者数の減少を目指して~ 北里大学
Digital PR Platform / 2024年1月18日 14時5分
北里大学医学部腎臓内科学の川島永子助教、内藤正吉講師らは、麻布大学獣医学部、国立研究開発法人産業技術総合研究所の協力の下、腎臓にある糸球体足細胞膜に発現するシアル酸含有糖脂質(ガングリオシド)であるGM3の発現量の調節が、ネフローゼ症候群の一種である巣状分節性糸球体硬化症 (Focal segmental glomerular sclerosis; FSGS) に伴うタンパク尿(血液中のタンパク質が尿中に漏れ出る状態)や糸球体障害の治療に有効である可能性を見出しました。
また、この有効性は、糖尿病性腎症モデルを用いた検討でも確認されています。これらのことから、糸球体足細胞膜構成分子の発現調節は、糖尿病性腎症も含めた複数のタンパク尿を伴う腎臓病の治療への応用も期待されます。本研究成果は、2023年12月15日 (現地時間) に、英国Springer Nature社の国際科学誌「Scientific Reports」にオンライン公開されました。
■研究成果のポイント
・タンパク尿の量が多い腎臓病の患者は透析療法が必要となる危険性が極めて高い一方で、タンパク尿治療に特化した治療薬は存在しません。
・これまで本研究グループは、抗てんかん薬としても用いられているバルプロ酸によりGM3合成酵素遺伝子の活性化を介して発現が増強されたGM3は、同じく糸球体足細胞膜に発現し、当該細胞間に形成されているスリット膜構成分子であるネフリンと協調して足細胞を保護することを見出しています。今回新たに、このバルプロ酸を用いたGM3による足細胞保護効果は、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)モデル動物におけるタンパク尿および腎機能の悪化・遷延に対する治療的効果が見られたにも関わらず、GM3合成酵素遺伝子欠損動物では同治療的効果は見られないことが分かりました。
・本研究グループは既に、糖尿病性腎症モデル動物においてもバルプロ酸を介したGM3の発現増強効果がタンパク尿や腎機能の悪化を阻止する効果があることも確認していることから、バルプロ酸によるGM3合成酵素遺伝子の活性化を介したGM3の発現が糸球体足細胞とスリット膜の機能維持に重要な役割を果たしていることが示されました。
・本研究結果は、糖脂質GM3や既存薬の腎領域における新たな効果を見出したことから、タンパク尿および腎機能改善に対する新たな治療薬開発だけでなく、安全面や費用対効果の面で有利な既存薬であるバルプロ酸の持つ「新たな作用」を活用することで、透析患者数減少への貢献が期待できます。
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