原子核が特異な量子ガス状態になることを予言~アルファクラスターによるボーズ・アインシュタイン凝縮現象の解明に向けて~
Digital PR Platform / 2024年1月22日 14時5分
【背景】
原子核は核子(陽子と中性子)から構成され、最もエネルギーの低い基底状態では、それらが独立に運動し殻模型構造[5]を持つことが良く知られています。しかしながら基底状態にエネルギーを加えることで現れる励起状態では、しばしば原子核はその構造を大きく変えることも分かってきました。特に軽い原子核の励起状態においては、陽子2個中性子2個から成るヘリウム4原子核(4He: アルファ粒子)を単位としたアルファクラスター構造が現れます。これは陽子や中性子が独立に運動するとした結果生じる殻模型構造とは大きく異なるものです。典型例は、ホイル状態[6]と呼ばれる炭素(12C)原子核の励起状態で、12C原子核の元素合成にとって決定的に重要な役割を果たすことで知られている状態です。またこの状態は、3つのアルファクラスターに分解した共鳴状態であるだけでなく、それらがガスのように緩く束縛しており、かつ最低エネルギー軌道にボーズ・アインシュタイン凝縮した特殊な状態であることも示されてきました。
近年ではそのような特殊な構造状態は、ホイル状態に限らず酸素(16O)原子核の励起状態にも現れることが理論的に示唆されてきました。16O原子核では、4つのアルファクラスターに分解されて実現するボーズ・アインシュタイン凝縮なので、4アルファ凝縮状態と呼ばれます。これは、基底状態から数えて6番目にエネルギーの高い準位として観測されている、励起エネルギー15.1 MeV (1 MeVは100万電子ボルト)、スピン0で正パリティ[7]を持つ状態(06+状態)に対応する可能性が高いことが分かっています(文献1)。
しかしながら過去15年ほど、16O原子核より重い原子核領域でより一般的にアルファ凝縮状態が存在するのかどうかの確定的な実験的、理論的証拠は無く、未知の領域でした(図2参照)。ところがごく最近、大阪大学大学院理学研究科の足立智特任研究員、川畑貴裕教授らの実験研究グループが、20Ne原子核の23 MeV付近の高励起エネルギー領域に、特殊なアルファ崩壊過程を示す状態群を観測しました(文献2, 3)。これは、アルファクラスターを一つ放出した残留核が16Oの4アルファ凝縮状態の候補である06+状態になっている、というもので、5アルファ凝縮状態の最有力候補となるものです。そして理論的にも、この実験で観測された量子準位を再現し、その構造を明らかにすることが、アルファ凝縮構造が原子核物質に一般的に存在するか否かを探るうえで必要不可欠で、解決すべき非常に重要な課題となっていました。
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