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未来の量子計算機は何をめざすべきか? ―実用的インパクトのある量子優位性に向けて―

Digital PR Platform / 2024年5月14日 14時7分


[画像2]https://digitalpr.jp/simg/2341/88094/700_324_202405131428506641a512a016e.JPG


発表内容
【研究背景】
 量子計算機とは、状態の重ね合わせと干渉といった、量子力学の原理をうまく活用して計算を実行する計算機のことを指します。現在すでに実現している量子計算機は、ノイズの影響を強く受けてしまい、その計算精度は限られているものの、量子誤り訂正と呼ばれる機構によって計算精度を高めることができれば、量子化学や機械学習などにおいて、古典計算機よりも高速な計算が可能になる(量子優位性)と考えられています。しかし、これまでの研究は、計算量のオーダー解析(答えを出すために必要な演算の回数をおおまかに見積もること)に基づくものが主流で、実際の計算時間を知ることはできません。これまでに量子化学や暗号解読といった分野で、計算時間の定量的な解析が行われてきたものの、量子優位性の実現に必要な計算時間は丸一日以上と推定されていました。このような分野では、確かに量子計算機の方が古典計算機よりも早く答えを出せるものの、それでも答えが出るまでに時間がかかりすぎる、という問題を抱えていました。

【研究内容】
 本研究では、新たに物性物理学と呼ばれる分野への応用に着目し、量子優位性の達成に必要とされる計算リソースが、これまでに知られていた応用例よりも格段に少ないことを示しました。具体的なターゲットは、物性物理学における代表的な難問として知られる、2次元の強相関量子多体模型における基底状態エネルギーの計算です。基底状態は、模型が取りうる量子状態の中で最もエネルギー的に安定な状態であり、量子相関・多体効果が最も強く創発する状態であることから、古典力学では相当するものがない、不可思議な現象が起こるものと考えられています。
 量子優位性を議論する際には、古典・量子アルゴリズム(答えを求めるための手続き)のいずれに関しても、最速に動作するようなアルゴリズムの計算時間を見積もることが必要となります。本研究は、前者に関してはテンソルネットワーク法(注5)、後者に関しては量子位相推定法(注6)に関する計算時間の解析を行いました。特に、量子位相推定法は、ターゲットとする量子状態が、量子力学的な操作に対してどのような応答を返すかを調べるアルゴリズムですが、プローブの設計や量子状態の生成には膨大な選択肢があります。本研究では、これらを網羅的に調べることで最良の設計を特定したのち、10億を超える数の量子ゲートを書き下すことで、計算時間の緻密な解析を行いました。一方で、古典計算手法であるテンソルネットワーク法に関しては、実際にスーパーコンピュータ上で実行した計算結果に基づいて解析を行いました。
 解析の結果、物性物理学における代表的な強相関量子多体模型においては、数十万の物理量子ビット(注7)によって数百の論理量子ビット(注8)を構成するような量子計算機を用いれば、数時間のスケールで量子優位性が発生することが明らかになりました(図2)。現代においてすでに、物理量子ビットを100個程度備えた量子計算機が実現しており、2030年代には10万単位の物理量子ビットを備えた量子計算機が実現するとの試算もあることから、本研究の提示する要件は中長期的なゴールとして達成可能なものと考えられます。

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