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進化によるCO₂固定酵素の最適化が葉の多様性を支える~世界自然遺産小笠原諸島で共存する樹木から解明--北里大学

Digital PR Platform / 2024年5月21日 14時5分



北里大学一般教育部の坂田剛准教授と海洋生命科学部の安元剛講師、京都大学生態学研究センターの石田厚教授と松山秦氏、国際農林水産業研究センター林業領域の河合清定研究員、玉川大学農学部の関川清広教授らの研究グループは、「光合成の二酸化炭素(CO₂)固定酵素ルビスコが、進化の過程で種ごとに最適化された性質を獲得し、葉の多様性を支えている」ことを世界自然遺産である小笠原諸島での調査から発見しました。




植物は葉緑体に含まれるCO2固定酵素「ルビスコ」を用いて、空気(大気)中から取り込んだCO2を固定し、光合成産物(有機物)を生成します。しかし、世界の植物種で葉の特徴(寿命、構造、成分など)は数百倍も異なり、ルビスコにとってのプラットフォーム(働く環境)は大きく異なっています。これまで、ルビスコと葉の特徴に相互関係があるのか十分に解明されていませんでした。本研究は、小笠原諸島父島で種分化した固有種などを対象に調査を行い、ルビスコの性質が種ごとの葉の特徴に合わせて最適化されていることを発見しました。この最適化は森林生態系における樹種の多様性や光合成戦略の多様性を支える重要な要素であると考えられます。この研究成果は、2024年5月16日付で、植物科学の国際学術誌New Phytologistに掲載されました。


■研究成果のポイント
・光合成ではたらくCO2固定酵素(ルビスコ*1)は同じ酵素であるにもかかわらず、CO2の選別能力(SC/O *2)に1.7倍もの種間差があることが世界自然遺産である小笠原諸島父島に共存する樹木種で発見されました。
・葉の寿命が長く葉内にCO2が拡散しにくい種ほど、CO2の選別が正確なルビスコをもち、反対に葉の寿命が短くタンパク質量の少ない種ほど、CO2の選別が不正確なルビスコを持っていました。
・調査したほとんどの種のルビスコは数値シミュレーションが予測する最適値に対して95%を超える最適化を達成していました。植物が種の分化と自然選択を通じて獲得したルビスコの性質は、森林での多様な植物種の共存や光合成戦略の多様性を支える重要な要素だと考えられます。


■研究の背景
 ほとんどの陸上生物の生活は、光合成によって支えられています。ひとくちに光合成と言っても、光合成生産を担う葉の寿命、葉面積当たりの有機物量、光合成効率などには、さまざまな植物の種間で数百倍もの違いが見られます。
 光合成において大気のCO2を有機物に固定する酵素は、ルビスコと呼ばれる地球最多のタンパク質です。しかし、ルビスコはCO2だけでなく酸素(O2)も有機物に固定する性質があり、O2を固定する場合は有機物の分解とCO2の放出をもたらしてしまいます。この性質は森林によるCO2の吸収や農業生産を大きく阻害していると考えられ、数多くの研究が行われてきました。ルビスコがCO2とO2のどちらをより固定しやすいか(親和性が高いか)を表す指標として、CO2/O2比親和性SC/Oという値が用いられます。SC/O値が高い(CO2との親和性が高い)ルビスコほど、正確にCO2を選別することができます。これまで、陸上のC3植物*3のルビスコは、CO2濃縮機構を持つC4植物や藻類に比べてSC/O値が高くCO2の選別能力が優れていることが知られていました。

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