【中部大学】プロトン(H+)と酸化物イオン(O2-)が同時に伝導する新しい安定物質を発見--高効率燃料電池や水と二酸化炭素から燃料を合成できる技術の実現に期待--
Digital PR Platform / 2024年6月13日 20時5分
本研究成果は、固体プロトン導電体の国際会議The 21st International Conference on Solid-State Protonic Conductors (SSPC-21, 2023年9月21日、福岡)で発表され、2024年6月10日Solid State Ionics誌に掲載されました。
■背景■
固体の酸化物イオン導電体を用いた固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、燃料電池の中で最も発電効率が高く、家庭用燃料電池「エネファーム」のtype-Sとして普及が始まっています。一方で、より高い発電効率を目指し、発電時に燃料を希釈しない固体のプロトン導電体を用いたプロトン導電性セラミック燃料電池(PCFC)が注目されています。また、欧州連合(EU)の研究開発プロジェクトeCOCO2(注5)では、H2OとCO2を原料として、再生利用可能エネルギー由来の電力による直接燃料合成のため、プロトンと酸化物イオンの両方が導電する混合イオン導電体が用いられています。これらのプロトン導電体および、プロトン-酸化物イオン混合イオン導電体の実用化には、効率向上のほか、雰囲気中のCO2耐性向上および、プロトン導電性発現のための水和に伴う化学膨張の抑制が課題とされていました。
■研究成果■
これまで、スカンジウム(Sc)を添加したチタン酸カルシウムが高い酸化物イオン導電性を示すことが見出されていました。中部大学は、その導電機構を調べる過程で、従来の合成方法で作製した試料は、5%程度のカルシウム(Ca)の欠損があり、それが酸化物イオンの導電機構に影響をおよぼすことを解明しました。そこで、1.5%程度のCa欠損に抑えた組成のCa0.985Ti0.93Sc0.07O3-αの導電特性を調べたところ、乾燥雰囲気と比較し、加湿雰囲気では導電率向上が見られました(図 2)。重水(D2O)加湿による導電率低下も確認されたことから、加湿による導電率向上は、水和によって生じた固体内のプロトン導電に由来することが確認されました。また、酸化物イオン導電率も比較的高いことから、Ca0.985Ti0.93Sc0.07O3-αは、プロトンと酸化物イオンが同時に伝導する混合イオン導電体であることが分かりました。(図 3)
さらに、CO2耐性を確認するため、33% CO2 / N2雰囲気での高温X線回折測定を行いましたが、結晶相の変化はなく、母材であるCaTiO3とCO2との反応性の熱力学計算結果を比較すると、従来のプロトン導電体の母材であるセリウム酸バリウム(BaCeO3)やジルコン酸バリウム(BaZrO3)と比較しても、作動温度領域(300~800℃)で安定であることが分かりました。(図 4)また、結晶格子の加湿雰囲気依存性を検討したところ、報告されている主要なプロトン導電体は、水和に伴い化学膨張しますが、Ca0.985Ti0.93Sc0.07O3-αでは、それが殆ど観測されませんでした。(図 5)
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