【自閉スペクトラム症進行のモニタリングや治療薬の有効性評価に期待】脳由来神経栄養因子BDNFの産生障害と自閉症との関係を解明し新たな自閉症診断マーカーを提唱--金沢工業大学、富山大学、藤田医科大学など
Digital PR Platform / 2024年6月24日 14時5分
この研究は、脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生過程の異常が神経シナプスの構造と機能の異常を引き起こし、自閉症の病因において中心的役割を果たすことを提唱しており、自閉症の治療と診断につながる新たな一歩を踏み出すものです。
小島教授らは、BDNFの産生不全マウス(BDNFmet/leu)のシナプス解析、マウスの行動解析を行い、BDNFの産生不全と自閉症様行動の関係を示しました。清華大学のBai Lu教授はこのBDNFの産生不全が神経伝達に影響することを以前に行った電気生理学の研究から見出しており、BDNFの「陰陽仮説」を提唱しています。
本研究のBDNFmet/leuマウスは、神経細胞の樹状突起の複雑性の低下、未熟なスパインの増加、成熟スパインの減少、シナプスタンパク質の変化、シナプス伝達の低下、社会的行動の障害、ヒトの自閉症患者に見られるような反復行動を含むASD関連の表現型を示します。つまり、これまで報告されてきた自閉症の遺伝的要因や環境的要因に関する研究とは異なり、BDNFというシナプス伝達に重要な神経栄養因子タンパク質の産生機能障害が自閉症発症の鍵であることを示唆しました。
もう一つの重要な発見は、BDNFmet/leuマウスモデルは、特に、ASD患者の「自己刺激」行動に類似した定型行動である「星を見る」などの顕著な反復行動が見られることです。この行動は、ASD児、特にトゥレット症候群において顕著とされます。BDNFmet/leuマウスのこうした行動表現型は、病態研究や薬剤開発のための貴重な観察指標と考えられます。
本共同研究の強みは、神経栄養因子BDNFの産生不全をヒト研究にまで展開したことにあります。つまり首都医科大学付属北京天壇病院のFeng Yang教授が率いる研究チームは、臨床症例対照研究において、ASDの子どもの血漿中のproBDNFとmBDNFの濃度が有意に減少し、proBDNFとmBDNFの比率が上昇傾向にあることを見出しました。この重要な発見は、自閉症病態の理解において新たな方向性を与えるだけでなく、脳内のproBDNFからmBDNFへの変換メカニズムの障害と、ASD患者の行動特性との間に密接な関係があることを示しています。そしてこの発見は、これらの血漿指標が自閉症スペクトラムのバイオマーカーとして機能する可能性を示唆しており、疾患進行のモニタリング、薬剤有効性の評価を可能にする科学的根拠を提供するものと期待されます。
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