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尿酸値と神経変性疾患発症リスクとの関連を明らかに〜ヒトの脳におけるプリンサルベージ経路の重要性の証明及びその増強による新たな進行防止戦略〜

Digital PR Platform / 2024年7月9日 14時5分

<研究内容>
 本研究では、ヒト脳組織を用いてXORの発現、生成物及び活性を調べたところ、脳のさまざまな領域でXOR発現がなく、尿酸も総プリン体のうち約1%と少ないことが明らかになりました。また、生理的にはXORの脱水素酵素(XDH)からXOへの変換に必須とするラクトペルオキシダーゼ(LPO)の発現も認められませんでした。これらの結果は、尿酸が生物学的に必須な抗酸化物質であるという長年信じられてきた見解に疑問を投げかけるものです。その一方で、プリンサルベージ経路の中心的な酵素であるヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)の発現は脳で高く、ヒポキサンチンが顕著に蓄積していることを確認しました。脳細胞ではXORがなくHPRTが高いことはプリンサルベージ経路に利用できるヒポキサンチンを保つため、大量のエネルギーを必要とする脳において高い意義を持つと考えられます。Lesch-Nyhan症候群(HPRT欠損症)ではHPRTの活性低下が強い場合、幼少児から脳の強度萎縮がみられますが、弱い症例では脳萎縮とともにタウ蛋白質の蓄積が文献的に報告されています。本研究では脳におけるプリンサルベージ経路の重要性を明らかにするために、ヒトiPS細胞から分化誘導した神経細胞を導入しました。安定同位体分析の結果、プリンサルベージ経路はプリンde novo 経路よりもATP合成に有効であることが示されました。
 ATPは細胞内プリン体の主体であり、過剰な運動、飲酒、ストレス、病的な状態などでは急速かつ大量に消費されます。持続的なストレスによりプリン体分解が継続すると、主にヒポキサンチンとして細胞外へ放出され、細胞内の総アデニル酸(ATP+ADP+AMP)は減少します。プリンde novo 経路は多量のATPを使用するため、エネルギー枯渇を速めます。失われた分が補充されなければ細胞損傷が起こり、極端な場合には細胞死に至る可能性があります。したがって、総アデニル酸レベルを維持するためには、早期のストレス緩和が必要です。
 ストレス条件下において、XORの存在はヒポキサンチンのサルベージが起こる前にヒポキサンチンを再利用不能な尿酸として細胞外に放出させ、細胞内の総アデニル酸を減少させました。高尿酸血症・痛風治療薬であるXOR阻害薬は総アデニル酸のさらなる減少を防ぐことにより、細胞保護効果をもたらしました。またXOR阻害薬は、XORが存在する様々な臓器においてヒポキサンチンから尿酸までの反応の阻害により、細胞外ヒポキサンチンレベルの上昇に関連しています。ヒポキサンチンは血液脳関門を通過することができるので、神経細胞に取り込まれサルベージされると考えられます。
 ヒトiPS細胞由来神経細胞のメタボローム解析の結果から、ヒポキサンチン添加によってサルベージが観察されましたが、PRPPの枯渇によりATP増強効果は限定的であることが示されました。そこでペントースリン酸経路の前駆体を添加したところ、ヒポキサンチンの取り込みが促進されることを確認し、PRPPの補充によるプリンサルベージの増強が示唆されました。また、細胞内の総アデニル酸レベルがほぼ飽和レベルまで上昇することが確認できました。
 プリンサルベージ経路とde novo 経路のバランスの不均衡が認められる疾患(Lesch-Nyhan症候群、ダウン症など)では、アルツハイマー病に類似した病理所見が観察されます。総アデニル酸の減少は様々な生命活動に影響を与えますが、その中でもATP依存性のユビキチンープロテアソーム経路による異常タンパク質の分解を妨げ、細胞内蓄積を促進する可能性があります。したがって、ATPレベルを維持することが神経保護につながると考えられます。総アデニル酸プールは尿酸値に影響するため、これまでの疫学的研究に基づく高尿酸血症と神経保護との関係は、上流の総アデニル酸プールの存在を反映している可能性があります。また、低尿酸血症は総アデニル酸プールの減少を表し、その背景には低栄養、低酸素症や虚血などの病的状態、加齢に伴う様々な機能低下などがある可能性があります。

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